みんなの朝
日も少し登り始めると、次々に団員達が目を覚ましだした。
「ふわぁ……ふぅ」
ラストは大きく欠伸をすると、ベッドからむくりと起きた。
部屋をでて目を擦りながら階段を降りると、皆がテーブルを囲んで朝食を摂っていた。
顔を見せるとフレンとピーちゃんに挨拶をされた。
「あ、おはようございます。」
「オウ、キタカ」
「あえ、こんあいかんい、えうあひいっふえ。」
フェイがサンドイッチを口いっぱいにほうばりながら言うと、テリーが横で睨みつけ、蔑むように言った。
「品の欠けらも無いわね。」
ラストに向き直り、挨拶を済ませ言った。
「ラストにしてはほんとに珍しいわね。やっぱり遠征で疲れたの?」
「んー、昨日はそれほど疲れは感じてなかったと思ったんだけど、やっぱり体は疲れてたのかなぁ。」
そういいつつ、ラストは部屋を見渡すと気づいたように言った。
「あれ、マナとライデンは?」
食べ終わり、食器を片そうとしていたフレンが答えた。
「朝テーブルに手紙が置いてありました。剣を振ってきます、だそうです。私が来た時には、4人分のサンドイッチしかなかったので、お兄ちゃんも多分そうだと思います。」
そう答えるとピーちゃんが付け加えるように言った。
「オマエラハ、ユックリクッテケヨ。」
「ふーん、そっか。」
フレンからそう聞くと、どこか不服そうにサンドイッチに手を伸ばした。
朝食を食べ終えた団員達がゆたゆたと外に出る準備をしていると、包帯を外したライデンが酒場に戻ってきた。
「あれ?おかえりお兄ちゃん、今日はもう終わるの?」
「おはよう、フレン。いや、包帯を巻きにきただけだ。」
それを聞くと、何かに気づいたように団員達は広場へ向かう準備を急いだ。
ライデンは組手を誘われるまではほとんど包帯を巻かない。そして誘ったのはこの場に居ないマナであろう。
剣聖達は逸脱した力を持っている。だが、その中でもマナとライデンは誰にも越えられない壁があった。
その2人が珍しく組手をするということには皆少なからず興味があった。
「団長が対人戦をするなんて、珍しいですねぇ。」
フェイは服を着替えながらラストに話しかける。
「僕達がマナと本気で打ち合ったら、全身打撲だらけになっちゃうからね。はぁ、ライデンの強さが羨ましいよ。」
ライデンが包帯を巻き、酒場を出ると、後ろからわくわくとした雰囲気で団員たちがついていった。
───
広場の中心で待っていたマナがライデンを見つけると、すぐにその後ろからついてきた団員にも気がついた。
「あら〜、ふふっ」
マナはなぜみんながついてきたかが分かり、少し頬を赤らめながら元気に挨拶した。
「おはよ〜!みんな〜!」
「おはよ〜」
遠くからみんなの元気な挨拶が帰ってきた。
ライデンは広場の中央に向かい、団員は少し離れた場所に移動した。
広場の中央、30歩ほど離れた場所で向かい合う。
マナは、よく体を解し準備を整える。
ライデンもまた、同様に準備をする。
手に持つのは、丈夫な硬い木を削って、剣の形にしただけのものだが、一般の兵に自身の振る木剣が当たれば、一溜りもないだろう。だが目の前に相対するこの人ならば、自分の全力を受け止めてくれる。そういう信頼があった。
「ふぅ…」
「はぁ…」
呼吸を整える2人の周囲には少し緊張が走った。
2人はお辞儀をし、相手の目を見合った。相手の目には必ず勝ってやるという闘志が燃えていた。
(絶対に勝つ!)
2人はとても負けず嫌いだった。
マナは肩の力を抜き、ライデンは剣を強く握る。
──ザッ
目の前の相手に向かい、
走った。