プロローグ3
そうこうしていると、またドアベルが鳴った。
ドアを開けて入ってくるのは、美麗な顔立ちの男と、全身を包帯で巻き、屈強な体つきの男だった。
「!!
あら〜、おかえりなさ〜い。ラスト、ライデン」
「オウ、オツカレサンフタリトモ。」
フレンは包帯巻きを見ると、即座に抱きついた。
「おかえり、お兄ちゃん..!」
「ただいまフレン。あまり触るな...危ない...」
屈強な男は少しフレンを遠ざけようとしたが、すぐに距離を詰められた。
「ワタシだって成長してるよ。今なら、きっと耐えられるもん...」
ライデンとフレンは兄妹であるが、ライデンは妹の分まで魔族としての魔力を濃く受け継いでいて、巻く包帯には魔力を抑えこむ効果がある。
包帯の男はフレンの頭を撫で続ける。
フレンに振られたテリーは美麗な男を迎えた。
「おかえりラスト。長旅ご苦労さま。魔国の方どう?ヤバいの?」
「ただいまテリー。そうだね、後で話すよ」
次いでフェイが話しかけた
「遠征おつかれさんですラストさん。こっちの方の依頼は団長と2人で片しておきましたよぉ。」
テリーが鬼の形相で訂正をする。
「アンタと!マナが!アタシを騙して!勝手に片付けたんでしょ!アタシ仕事してないことになったんだからね!」
「いや、俺何も騙してねえよ..」
「なんかあったの?」
その様子を見てラストがマナに問いかける。
──
事の顛末をマナから聞くとラストは吹き出した。
「クヒィッヒィ!イッヒャッヒャッヒャッ!」
甲高い笑い声を上げて手を叩いて笑う。
「ふん!イケメンで噂のラスト様が、こーんな気持ち悪い笑い方するって知ったらきっと幻滅するでしょうね!」
吐き捨てるように言い、ムスッと腕を組む。
パンッ
マナが手を叩いて注目を促した。
「はあい注目〜。話したいことも多いけど〜、まずは活動報告からですよ〜。」
6人の剣士達はテーブルを囲んで座り、それぞれの報告に移った
「まずは、ラストとライデンから...」
──────
夜も深くなり街が眠りにつく頃、マナは1人城に立ち寄っていた。
城の廊下を進み中庭へと足を運べる。
中庭には王の計らいで兵1人見えない。中庭には庭を見下ろすバルコニーがある。その場で待っていたのは、この国の王、アレキサンダーただ1人であった。
「この時間に呼ぶなんて、お体に障りますよ?貴方はこの国で最も大切な御方なのですから。」
「はっ、王となった今ではこのようにくだけて話をできるのはここくらいなもんだからな。"剣神"なんて呼ばれて好き勝手できていた時代が懐かしいよ。」
アレキサンダーは酒盃を片手に、手すりに寄りかかってくつろぐ。
「あいつらは元気にやってるのか?」
アレキサンダーは唐突に聞いた。
「ええ、予定通り今日ライデンとラストが帰ってきました。6人が揃って嬉しいです。」
マナはにこにことそう告げた。
それを聞くと「そうか」と簡単に、だが少し嬉しそうにマナには見えた。
「飲むか?」
アレキサンダーはマナに酒を勧めた
「ふふ..ありがとうございます。」
マナも隣にならい手すりに寄りかかってくつろいだ。
「私たちに剣を教え、鍛えてくれた。常識も分からない私に作法を教えてくれた。」
その時にマナの頭に浮かんだのは小さい頃の記憶。店のゴミを漁り、何とか生きながらえていた。明日がどうなるかも分からない。そんな記憶だった。
マナはアレキサンダーに向き直り、真っ直ぐな視線で伝える。
「私は貴方を父親のように感じていますよ。」
「...そうか。」
アレキサンダーは静かに、穏やかな表情で酒を楽しんだ。
静かな夜に虫たちが音を鳴らす。
月の柔らかな光が中庭に差し込んでいる。
「こうしてお前と話すのは本当に久しぶりだな。」
アレキサンダーは目を細めて隣の女性を見る。その目には父親としての暖かな気持ちが宿っていた。
「大きくなったな。マナ」