ベスティアトライアルレース
レース本番。
レンタルレースであるベスティアトライアルレース。
新規の機体が発表されるタイミングでしか行われないレースであり、あまりの参加人数のため五つの部に分けて行われるレースのうち、俺たちは最後の部での参加になる。
一レースにつき出走は五機。
コース自体はベスティア重工所有の試験用サーキットの直線部分1600メートルのみを使用したもの。
しかし純粋な速度だけでは推進装置を多数搭載した機体が有利になりすぎる為、コース上にはいたるところに障害物が設置されている。
中には動く障害物もあり、単純に直進すればいいというコースではない。
コースの中央から前後500メートルは射撃可能エリアで、先頭がスタートから300メートル地点に到達するまでのわずかな時間しか安全な時間はない、機体のトライアルとはいえ射撃が可能なならば当然それを使うだろう。
しかも、だ。俺たちの参加するレースの参加者名簿を見せてもらったが、奇しくもユニコーンカップの参加者ばかりである。
となれば、恨みを買っているだろうな。どんな妨害をされるかわかったもんじゃない。
まあやる事はやりつくし、機体の改造も調整もばっちり。
あとは――リオの操縦に機体がどこまでついてくるか、だ。
「リオ、準備はいいか?」
「勿論。注意点は?」
「スタートは横並びだ。ウチは三番。だから二番の直線工房はともかく、四番のガーディアンズの機体は要注意だな」
「ガーディアンズ……ああ、レッドクリフの」
直線工房――アローズを所有する直線バカだけあって、今回も外見がかわるくらいの推進装置を満載している。
直接ではないとはいえ、ユニコーンカップでリオに吹っ飛ばされた機体を使っていた企業には違いない。
あの時の仕返しに、と両腕に装備したシールドで殴り掛かられたらたまらない。
「ナイスオーシャン運送は……なんだろうなこれ。よくわからんが、クロスボーンズの技術応用してるんだろうか。背中のスラスター配置が似てるな。ただ上二つだけか」
そもそも海運会社が宣伝にもならないこんなレースに参加してるんだか。
「あとはワイルドビーストか。ここは今回に限っては要注意だな」
「どうして?」
「このレース癖がなくバランスのいい機体が勝ちやすい。尖っている能力は欠点になりうるからな」
「直線バカみたいに?」
「直線バカみたいに、だ」
どこかが尖った能力を持っているというのは強烈な強みである。
加速力に優れる、防御力に優れる、コーナリング能力に優れる。
それらはレースにおいてはどれも重要だ。
が、しかしだ。
加速しすぎて障害物を避け切れなかったり、防御力を得るために重装甲化して重くなってしまったり、曲がりすぎて操作が難しくなったり、とそれ相応に欠点や問題点はある。
逆に汎用性に優れる機体というのは強みこそないが、あらゆる状況に対応できるという特化型にはない利点がある。
今回。本命はウチとナイスオーシャン運送、そしてワイルドビーストの機体。
直線工房とガーディアンズに関してはいつも通り尖りすぎているし、ガーディアンズの機体に関してはシールドの重量でパルダス本来の性能を損なっているはずだ。
『第五レース出走者、入場してください』
アナウンスが流れる。
リオと顔を見合わせ、互いに頷いてリオはコクピットポッドへ、俺はレース全体を見渡せるモニターの前へ移動する。
さて、どう動くか。
◆
コクピットポッドの中は狭い。
おまけにレースが始まるまではモニターも点かず、真っ暗な状態。
閉所恐怖症は絶対に無理だ。
両手にはレバー。五本の指全てに触れるスイッチの感触。
走行は足元のレバーで。それ以外の動作の指示はレバーについたスイッチの組み合わせで。
『リオ』
「聞こえてる。起動させる」
シドの声が聞こえる。
それに合わせるようにモニターが点いて、機体のメインカメラから送られてきた映像が映し出される。
カメラを操作。周囲の状況を確認する。
たしかシドは左にいる機体には気をつけろと言っていたっけか。
確かに。あの機体にあったエンブレムがある。
逆に右側は――ああ。直線バカんところの。
他の二機も要注意とは言われたけれど……まあ、どうでもいい。
勝つのは、私だ。
『各機、スタンバイ』
ダッシュローラーをフル回転させる。
いたるところでローラーと舗装されたコースが高速ですれる音。
ああ。そう。この緊張感が、たまらない。
『カウント、スリー、ツー、ワン――GO!』
機体が、動きだす。
瞬間シートに押さえつけられるような感覚。
機体が加速するのにあわせ、身体を固定するベルトが絞められて疑似的にだけれど、機体が加速していくのを感じられる。
それもトップスピードに乗ってしまえば慣れてくる。
だが今はまだ、それに至らない。
というより、早速右隣りの直線バカが加速し始めた。
とんでもない推進量で、突っ切ろうとする。いつも通りの動き。
それをわざと減速して避ける。
と、眼前を横にいた盾もちが突っ込んできた。
「あっ……」
そのまま、直線バカの吹かしたブースターに焼かれた。
シールドで受けきったように見えるけれど、それでも機体ひとつを浮き上がらせるほどの大出力。それをまともに食らってどうにかならないほうがおかしい。
シールドの重さもあることだ。もうアレはこの勝負についてこれない。
あとは。前を行く直線バカのとこの機体――は、もうすでに障害物と激突してスクラップになっていた。
残るは三機。
海運会社とパーツ屋。この二機はバカみたいに吹かさず、慎重に障害物を避けていく。
パーツ屋の機体は――見た目がなんともまあロボットアニメの主人公機じみていて見た目はいいが、その分余計な重量で若干重たくなっているように見える。
その分安定した走りをしている。方向転換も綺麗だ。
海運会社のほうは、背中のスラスターが稼働してほぼ直角に方向転換できている。
なるほど。二つだけに減ったと思ったが、推力の方向を自由に動かせるから二つで十分だったのか。
コーナリングはほとんどできていないといっていいけれど、曲がるときにほとんど速度が死んでいない。
こいつは拙い。
「シド。これ本当にいけるの?」
『計算上は、としかいうしかないな! テストの時の障害物とは強度も違うだろうし』
「でも、やるしかないか」
速度を上げる。
姿勢を低くしながら、脚部の機構を起動させるコマンドを入れる。
障害物を眼前にし、ダッシュローラーを収納。前に倒れ込むようにして障害物へ向かう。
一見すればそれは自爆行為。
だが。箱型の障害物に両手をつき、身体を持ち上げて前転。
そのまま機体は一回転して着地。そのままつま先で数歩駆けて再び跳び上がる。
今度は乗り越えるようにして障害物を乗り越え、再びダッシュローラーを展開して加速。
前の二機は障害物を避けながらジグザグに走るのに、私はそのまま直進する。
「……来る」
どうやらあちらも仕掛けてくるようだ。
マシンガンの銃口をこちらに向けるパーツ屋の機体。
それを加速しつつ姿勢を低くして回避。
動きに合わせて銃口も動くが、少しずつ接近して後ろに回り込む。
「ここ」
相手の首元を真後ろから掴んで引っ張る。
こちらはその力を使って跳び上がり、あちらは後ろに引っ張られて転倒する。
振り向きながらこちらはハンドビームガンで動かないその胴体めがけて一発。
機体の形が下手に残れば技術を盗られることもあるんだ。破壊してやったほうがあっちのためにもなる。
爆発する機体。その爆炎を裂いて最後の一機が突っ込んでくる。
スラスターの大出力にまかせた跳躍。
両手のハンドガンで攻撃を仕掛けてくるのが見えた。
後ろ向きのまま加速し、その弾丸を避けつつハンドビームガンで反撃。
互いの攻撃は直撃することなく、牽制程度にしかならない。
「接近警報……」
背後に障害物が迫っている。
ならば、それを飛び越えるまで。
ローラーを収納し、両脚で大地を蹴って跳んでバク転。障害物の位置を確認し、それに片手をついて捻って方向転換し、ゴールのほうを向いて着地して再加速する。
追ってくる相手も、スラスターを吹かして強引に障害物を回避してくるが、その跳び方はよくない。
相手の機体が着地すると、その振動で機体が大きくバランスを崩した。
着地のとき、不用意にローラーを接地させるからそうなる。
転倒こそしないが、速度はかなり落ちた。
「残りは――600」
すでに1000メートル走っていたのか。
残りは600メートル。
流石にこちらが障害物を乗り越えるとは思っていないようで、その高さは比較的に低め。
「せっかくのパルクールモーションもこれじゃあまり役に立たないか」
わざと減速。
そのまま跳んで障害物につま先を引っ掻け、さらにそれを蹴って方向転換。
海運会社の機体の頭上に跳び、そこで身体を捻って着地。背後をとるなりその背中にハンドビームガンを突きつけて接射。
ビームが胸部から突き出し、一瞬だけ光の柱を作る。
機能を停止し、力なく倒れた相手をしり目に、残った私はそのまま加速を続ける。
このまま独走。
一気にゴールまで――と思ったけれど。後ろから何かうるさいのが来てる。
カメラを操作し、後ろの様子を確認する。
「嘘でしょ……」
盾持ちが、飛んでる。
片方のシールドを前に突き出すのと同時にもう一方を背中に取り付けて。
障害物をものともせずにシールドで弾き飛ばし、背中のシールドに仕込まれていた推進装置で飛んでくる。
そりゃああんなクッソ重たい装備してんだからそういう仕込みもしてるか。
そのまま突っ込んでくる。あ、これ轢き潰す気だ。
接触まで数秒。
ああ、迷うことはない。
タイミングをあわせて後ろに跳ぶ。
最大パワーで大地を蹴り、くるりとバク転して突撃を回避。その背中に着地。
その衝撃で少しは沈んだが、墜落には至らない。
「さて、と」
振り落とされるまえに攻撃してしまおう。
背中の盾で隠しきれていない肩――とくに、直接シールドを握っている右肩に狙いを定める。
まずは一発。
放ったビームが右肩を穿ち、吹き飛ばす。
手に持ったシールドは落とさない。
けれど、高速で飛んでいる状態で障害物にぶつかっても耐えられるほどの強度を持つシールドだ。
その重さ。片手だけで支え切れるものでもない。
ぐらぐらと揺れ始める機体。
ここで左肩を撃ち抜いたら――面白いことになるな。
というわけで、発砲。
同時に足場にしていたシールドを蹴って相手をコースに叩きつける。
慣性に従い、機体は装甲を削りながら直進。自らが構えていた重量のあるシールドに頭から突っ込み、押しつぶされる。
それでもなお噴射をやめないシールドの推力でコントロールを失った機体が明後日の方向へと滑っていく。
「あとは――」
流石にもう動いている機体はいない。このままゴールへ直進する。
勿論。障害物は全部乗り越えて、だ。




