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すべては終わり日常へ

 今回の騒動。アバーブハートを名乗るテロ組織の犯行は、ペイルライムによる活躍で最小限の被害で終息することになる。

 ネオジャパングランプリを襲撃したのは若い構成員――というか言い方に語弊はあるだろうけれど、バイトみたいなものだった。

 ようは高額報酬をちらつかされてやっただけの、素人に毛が生えた程度の訓練しか受けていない人間だった。

 それでもテロリストはテロリスト。厳しい法の裁きが待っていることだろう。

 一方で新成田国際空港を襲撃した部隊については確かに元軍人だった。

 貨物機に搭乗していた人員に関してはペイルライムが抑えていたこともあり全員確保。

 ラピッドマシンを操っていた人間も、サクヤが機体と通信しているコクピットポッドを逆探知して割り出し、それを基に制圧部隊が確保に向かい、これまたパイロットは全員確保。話の感じからして、銃撃戦があって敵味方ともに何人かは――という話だ。

 あの日の出来事は、俺たちにとっては非日常そのもので、不謹慎ながらちょっとだけ興奮していた。

 けどやっぱり、あのボロボロになった空港の惨状を見ると、冷静にもなる。

 あれは、あってはいけない非日常だ。

 あと、今回に限りペイルライムの行動はベスティアの社長の交渉だけでなく、多くの人命を救った上にレースの観戦に来ていた要人や資産家を救ったことでお咎めなしになった。

 加えて、法改正があっという間に進み、テロリストなどの活動が確認された時に認定された民間の機体でもその鎮圧に向かえるようになり、ウチは――具体的にはペイルライムはその第一号として選ばれた。

「シドさん。発注したパーツの受け取りに来ました」

「ソラちゃんか。そっちはどうだい」

「順調ですよ。最近のレース結果、知ってるでしょ」

「リオが出てないレースでは毎回表彰台だもんな」

「うぐっ……」

 そんな非日常も、半年もすればあまり騒がれなくなる。

 何も解決していないのに。

 テロ組織としてのアバーブハートは健在。あの事件で捕まったのはその末端でしかない。

 何より問題なのは、軍の開発した戦闘用ラピッドマシンが奴等の手に渡っていること。

 いや、そうだな。そんなことを考えても意味がない。

 俺たちにはもう関係のない話。俺たちが選んだのは、結局のところ変わらない日常なのだから。

「しっかしウチのパーツ、そんなに優秀かね?」

「そりゃあ、軍用機にも負けない防御力ってなると、ね?」

 シドニウムの生成方法の特許と商標権、加えてその加工方法の特許を取得した俺たちは、シドニウムの販売も行うようになった。

 ライセンス生産も行っているが、やはりウチが作るパーツが一番精度が良く、そして安いらしく予約が殺到している――が、規模の小さい工場なもんで、優先的に回す契約をしているブルーベア以外にはあまり行き届いていない。

 それに、シドニウムは俺たちのペイルライムのフレームや装甲にも使う。生産したってその年間精製量はかなり少ない。

 なのに、あの一件でペイルライムが戦闘用ラピッドマシンと戦闘して制圧しちゃったもんだから、ペイルライムの同型機を造ってくれだのなんだのと……はあ。

 うれしい悲鳴、というやつか。

 でもペイルライムはリオ専用機。あれと同じものを作っても操れ切れるものじゃない。

 だからまず、シミュレーションデータを渡してこれを乗りこなせたら、ということにしている。

 まあ、それを乗り越えられたのは今のところリオ以外では一人だけ。

 目の前にいる、青井ソラだけだ。

「それで、シドさん」

「何だ」

「いつ、仕切り直しをするんですか?」

 と、アイドルをやっている少女とは思えない獣のような笑みを浮かべる。

 ああ、この顔。知ってる。リオもよくやる。

「そりゃあもちろん、ネオジャパングランプリだよ」

「でも、それだとまた半年待たないと――」

「あ、違う違う。同じ条件のレース、同じコースレイアウトでのレースって話」

「もしかして、あの招待状の――」

 結局うやむやになってしまったネオジャパングランプリ。

 その仕切り直しとして、ベスティア重工をはじめとした大企業がIRRAと交渉し、公式戦扱いの仕切り直しレースを行うことになった。

 それももうすぐ、だ。

 エクスエイト以外、あの時と同じチームの同じパイロットで。

 本来参加する予定だったユガエレクトロニクスのヴァジュラを加えて。

 だから、どこのチームも万全に仕上げてくるだろう。

「それより、ウチはそっちの基礎性能を知ってるんだけど、それでも勝てると?」

「やりますよ? ブルースカイⅡ。ベースこそペイルライムと同型ですけど、徹底的に改造してるんですから」

「そいつは楽しみだ。リオもリオでパワーアップアイデアを出してくれてるから、本番を楽しみにしておいてくれ。あ、パーツはクレーンで吊るすから車は――」

「いつのもの場所に置いてますよ」

「了解」

 発注されていたパーツをくくり、クレーンで吊り上げる。

 いつものような動作。いつも通り、トレーラーの解放された荷台にゆっくりと下ろしていく。

「あ、ソラ。来てたんだ」

「いえーい」

「いえーい」

 と、ハイタッチ。

「リオ、サクヤが呼んでたぞ」

「ん。んじゃあソラ。次はレースで」

「負けないからね」

 にぃ、と笑いあう。実に平和だ。

 いや、かなり凶暴な笑みだけども。アイドルとか関係なく、女の子がしちゃいけない顔してるけれども!

「ったく」

 あれ以来。表立った動きはなく、俺たちは多分、二度とああいった世界にはかかわらない。

 ベスティアの社長に誘われていた件も、結局は断った。

 だってそうだろう。

 俺たちは、レースがしたいからラピッドマシンを作り、それを走らせる。

 それがしたいから、機体を強化していくし、武器も強くする。

 勿論、レギュレーションの範囲で。

 当然あの一件以後、ペイルライムのプラズマ推進の武装転用機能は封印している。

 もちろん、今後いつどういう事態になるかわからないから、いつでも解除できるようにはしてあるけれども、それを使うような状況にならないよう祈るしかない。

「……」

 正直言うと、ペイルライムにあのプラズマ武装を追加したことを後悔している。

 結局俺は、兵器としても通用するものを生み出してしまったのだから。

「シド」

「なんだ」

「ありがと。プラズマブレードがなければ、あそこで決めてがなかった」

 と、珍しく少女らしい笑みを見せてきた。

 ああ、このコなら。このコなら間違わずにあの機体を使ってくれる。

 そう思えただけで、少しだけ気持ちが楽になった。

「……あの、気になってたんですけど」

「ソラちゃん? 何かな」

「シドさんとリオって、恋人同士とかじゃないですよね?」

「――――!?」

 声にならない叫びを聞いた。え、リオさん?

 その反応何。なんなの。

「あ、そういう……」

 にんまぁ、と悪い笑みを見せるソラちゃん。

「ち、違うッ。違うから!」

「まあ、がんばってね、リオ」

「だから、違うって!」

 にやにやしながら出て行ったソラちゃんを追いかけてリオが駆けていく。

「なんだったんだ、一体……」

 珍しい反応だったのは間違いない。あんな慌てたリオ、初めて見たかもしれない。

「信頼する相手にこそ、冷ややかな態度をとる。ああいうのがクーデレっていうのかしらね」

「サクヤ?」

 いつの間にか後ろにいたサクヤのほうを振り向いた瞬間、フォルダーの角で脳天を叩かれた。

「それはそうと、このにぶちん。歳の差を考えて手を出しなさいよね」

「出した覚えはねえ。仮に手を出してたとして、年齢差的にはセーフの範囲だろ」

「でも相手は未成年」

 もう一発食らった。

「にしても、あれから半年。大きな騒ぎも起こらず、レースも今まで通り開催されているのって変な気分」

「まだ半年。されど半年ってことだろ。流石に各国要人や資産家みたいな人間はあんまり観戦に来れなくなったみたいだけど」

「そりゃあまあそうでしょ。あの事件は解決したけど、根本的解決には至っていないんだし」

 テロ組織が壊滅してハッピーエンド。そんなフィクションもいいところな話なんて現実には起きない。

 降りかかる火の粉くらいは払う。けれどそれ以外は、日常を生きる。

 これからも俺たちは、今まで通りにレースにペイルライムを出走させる。

「さあて、張り切って整備するかー」

「その前にアンタは受注したパーツの加工。それが終わったらベイヨネットの調整」

「サクヤ、どっちか代わってくれないか?」

「嫌よ。それ以外の雑務、全部私なんだから」

 取り付く島もなかった。

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