氷花舞う
目標は三機。うち一機はだまし討ちみたいな形で左手を吹き飛ばした。
それはすべて同型機。黒く塗装されているが、全体的なフォルムを見ればエクスエイトと同型機のように見える。
装備は携行武器としてアサルトライフルかマシンガン。背部にレールガンと六連ミサイルポッドか、ガトリングガンと給弾装置。そして両脚部にミサイルポッドを装備している。
破壊活動をしたことで、いくらか弾薬は消耗しているだろうが、三機が連携して迫られるとさすがに厳しいものがある。
「とはいえ……」
こっちも手がないわけではない。
実際、この複合兵装ユニットは使い勝手がいい。
問題と言えばスナイパーライフル程度の全長しかないこの武装は実弾装備の弾薬積載量に限界がある。
ミサイルだって最初の一発以外搭載していないし、マシンガンだってとっくに撃ち切ったし、全部直撃しなかった。
残ったのはビーム攪乱幕と発煙弾発射機能。こいつらは武器として当然使えない。防御用の装備で、どちらも単発。
あとは――可変速ビームランチャーか。取説通りなら、出力と発射速度を調整することでマシンガンのように乱射出来たり、貫通力の強い弾丸や、破壊力を優先した一撃を放ったりできるらしい。
正直、これ専用に機能を絞ったほうが絶対いい。無駄な可変機能や無駄に頑丈な外装とか全備重量が増えるだけだ。
いやまあ。だからこその使い方もあるわけだけど。
さて、と。三機一斉に脚部のミサイルポッドを全弾発射。流石にその数は避け切れるものじゃあない。
撃ち落とすしかない、か。
「速射モードで攻撃開始」
とはいえ、下手な角度で撃てない。まだ空港施設内には避難しきれていない一般人がいる。
施設には当てないように後退して距離を稼いで回り込むような動きで側面からミサイルを撃つ。
一発でも当たれば大爆発。それに巻き込まれて他のミサイルも連鎖して爆発が広がる。
「想定より爆発規模が大きい……」
とりあえずは全部撃ち落とせたけれど、爆炎で視界が遮られた。カメラがダメなら他のセンサー類、といきたいけれどレース用の機体にそんなものを搭載する理由がない。
結局は目視に頼るしかないか。
「けどッ……!」
爆炎を突っ切って弾丸が飛んできた。
レールガンの弾丸。さすがにそれをもらってはひとたまりもない。
姿勢を低くし、弾丸の直撃を避ける。
それでも、頭部近くを弾丸が通過したことで一瞬映像が乱れた。
「こんなのいつも通りでしょ、リオ。機体が吹っ飛ぼうとも自分は死なないでしょ」
だから、突っ込む!
攻撃が飛んできたほうへ機体を進ませる。ダッシュローラーの回転数を上げ、速度を上げて前方に構えた敵へと砲口を向ける。
レールガンの砲口がペイルライムの胸に狙いを定めている。だからどうした。
「速度最低。拡散率高めで発射!」
放ったビームが敵機が引鉄を引く前に相手へ殺到。
発射と同時にローラーを収納し軽く跳び、機体が宙に浮いたタイミングでスラスターを全開にしてスライド。ワンテンポ遅れて放たれた相手のレールガンを回避する。
『ちょっとリオ! まさかさっさと始末つけるつもりじゃないでしょうね!?』
「サクヤ? でも早急に処理しないと」
『逆探知して機体を操ってる人間を捕まえないとでしょ!』
「あ。そうか」
完全に忘れてた。
確かに、ここの奴等を殲滅したってそれを操ってる人間がどうにかなるわけじゃない。
そいつらを捕まえないと、根本を絶たないと意味がない。
まあ、それができたとしても首謀者はきっと捕まえることはできない。
というか、たぶんこの戦いも本気の戦いじゃない。
武力を見せつける事こそが目的。それに、きっとプロトタイプの一機を盗み出し、それを解析。今こうやって三機の同型機を製造してみせた、ということが重要なんだろう。
我力を得たり、と。
『できるだけ時間を稼いで。かつ被害は最小限。人的被害は絶対駄目』
「無茶言わないで」
気にはするけれど、それをやれと言われても無理がある。
相手は弾が尽きるまで好き勝手にぶっ放せるのに、こっちはビームランチャーしかまともな武器はないってのに。
これ、下手な出力で撃つと相手貫通して向こう側の施設にも当たるんだけど。
「ならどうしろってのさ」
『殴るとか?』
「……」
手元を確認。長方形型の武器。どうみても頑丈な形。
「あ、そっか」
『え、マジで?』
相手がガトリングガンを装備した機体がそれをこちらに向けてくる。
弾が吐き出される直前に跳び上がる。周囲に人がいないことを確認し、プラズマ推進で機体を上昇させながら前進。
相手から見れば、地上を走るだけのラピッドマシンが空を飛んだように見えるはずだ。
ガトリングの砲身は突如として上昇したこちらを捉えきれず、弾を無駄に消費する。
空中でもプラズマ推進で姿勢を変化させ、回り込んでガトリングの砲身を横から蹴り上げる。
こちらのフレームへのダメージ――なし。装甲にも大したダメージがない。流石の頑丈さだ。
続けて、後ろに回り込んでガトリングの根本を手に持った武装ユニットで殴りつけて砕き、根本からへし折った砲身を右肩に突き刺してやる。
バチバチと火花を散らしながらこじ開けられていく肩関節。ケーブルもむき出しになり、それがブチブチと千切れていく。
と、ほかの二機がこちらに狙いを定めて攻撃を仕掛けてきた。
特にレールガンは洒落にならない。
ローラーを逆回転させて一気に後退。マシンガンとレールガンの攻撃を避けつつ、レールガンの砲身めがけてビームランチャーを発射。
砲身が焼ければ、あんな攻撃はそう何発も撃てない。十分な弾速を得られなければ威力は大幅に下がるだろうし、何よりあれはかなりのエネルギーを消耗する。そもそも最初から何発も撃てるもんじゃあない。
で、放ったビームはレールガンどころか右肩から胸のあたりごとまとめて吹き飛ばしてしまった。
ちょっと、やりすぎた。
「でも、手加減してたらやられる」
『だからこっちも急いでるんだって! というか、もう割り出しは終わってるけど、確保までの時間が欲しいって話! すでにベスティアの社長に知らせて部隊を回してもらってるからあと五分は持たせて』
「逆探、できてたんだ」
流石はサクヤ。シドファクトリーの便利屋。なんでも丸投げしておけば何とかしてくれる。
でも、さすがに五分はキツい。
右腕とガトリング砲を失った一機。レールガンを失った一機。左腕を失った一機。
この三機、結局戦闘力を失っていない。
加えていうと、だ。あのエクスエイトと同じ装備だというのならば近接用のサブアームを装備しているはず。両腕を失ったとしても、それを使って武器を保持して攻撃を仕掛ける事だってできる。
っていうか、腕ごと転がった武器をサブアームで拾って再装備しているし。ばっちりサブアーム装備してんじゃん。
ていうか、ビームソードまで持ってるのかアイツ等。
「来た」
ビームソードを振りかぶる先頭の一機。
振りぬかれる前に前に突っ込み、跳び上がって踏み台にし、さらに上昇。そこを狙ってきたレールガン装備の機体めがけて脚部スラスターを向ける。
不意を突かれた。今更回避できないのなら、と咄嗟にとった姿勢。
「ここで使いたくなかったけど!」
一瞬何をしてくるのか、と動きが止まったように見えた。多分気のせい。
まあ、どっちにしろ。もうこっちにだって余裕はない。
「サクヤごめん。一機潰す」
脚部スラスターから収束したプラズマ弾を放つ。
こんなもの、競技用の機体にはいらない機能だし、こんなものをぶっ放すことになるなんて思ってなかった。
推進用ではなく攻撃用に圧縮された二つのプラズマ弾が放たれたレールガンの弾丸を焼き切り、そのままそれを放った一機を消し飛ばした。
着地と同時に、プラズマの熱で焼き切れた地面。流石にここでローラーを使えないから、徒歩で移動する。
文字通り走るラピッドマシン。奴等にはないこの機体だけの特徴。
だが。離れようとすると、その背中めがけてミサイルが六発。
「背部スラスター噴射!」
スラスターの噴射角度を調整し、プラズマ流を噴射。
プラズマ流によって六発のミサイルは全滅。
けれど。その爆風でバランスを崩して転倒。近すぎた。ていうかこうなることはわかってたでしょうに。焦りすぎてるな、私。
なんとか受け身を取ってダメージを最小限に抑えようとしたが、そのまま何かに突っ込んだ。
何かっていうか、うん。ターミナルだね。
流石にあれだけドンパチしてると避難もしてるか。
「あ、そういえばどっかの国のお偉いさんとかは?」
『とっくに避難。アンタがドンパチしてるどさくさに紛れて離陸してるわ』
「そ。ならよかった」
『良くないッ! 何ターミナルぶっ壊してるのよ!』
『サクヤ、そんなことはどうでもいいだろ。リオ、準備は終わった。あとは好きにやってくれ』
「……了解」
シドの許可が出た。ってことは、本当にもう暴れてもいいってことだ。
瓦礫の中から機体を起こそうとしたタイミングで、ビームソードを突き出して突撃してくる機体が見えた。
その一突きを横に転がって避ける。
当然施設を破壊しながら転がることになるが、もう周辺被害なんて気にしない。
標的を失ったビームソードの切っ先はターミナルの内装を焼き払い、観葉植物を燃やして火災を起こす。スプリンクラーが作動するけれど、それがすべてビームの熱で蒸発している。
その状態で、横薙ぎにソードを振るう。
転がりながらビームランチャーを向け発砲。まともな照準もできていないのだから、当たれば御の字といった感じだったのだけど、運よくビームソードを握るサブアームの先端を焼き払えた。
あとは起き上がる時にスラスターを噴射して強引に直立姿勢に持っていく。
「ッ」
立ち上がった直後、左肩に衝撃を受けた。それも何発も。
当たった直後に体を逸らしてダメージを最小限にしたけれど、それでも警告が出るほどのダメージ。フレームには異常はないけれど、装甲が割れた。
でも、相手はこちらを確実に仕留めるために足を止めている。
身体を逸らした状態でビームランチャーで反撃。
照準はマニュアル。ビームの速度は最速で乱射。
放ったビームは次々と相手の装甲を貫通し、機体のメモリドライブを破壊したのか、まだ動けそうなのに機体は四肢をだらんとして動きを止めた。
残るは一機。さっきビームソードで攻めてきたヤツ。最初に左腕をミサイルで吹き飛ばした機体。
こいつをどう仕留める。
やつはレールガン、ミサイルランチャー、マシンガンと武装に関しては全部残っている。
で、こっちはビームランチャーの撃ちすぎで冷却が間に合ってない。試作品とはいえ、その辺はしっかりしてもらいたかった。
「なら、これしかないか」
左腕部。展開準備。
ダッシュローラーを回転させ、距離を詰める。
それを迎撃するために持てる装備のすべてを使って攻撃してくる。
姿勢を低くし、スライディングするような姿勢で滑ってレールガンとマシンガンの攻撃を避けつつ距離を詰める。
ミサイルに関してはスラスターの噴射で転がるようにして避けるけれど、爆風でメインカメラからの信号が歪む。
ビームランチャーを発射。ここでついにオーバーヒート。冷却が完全に終わるまでロックがかかる。
もうこうなるとただの鈍器だ。
なら、もういらないや。
右手で持った唯一の武器を、大きく腕を振りかぶって敵に投げつける。
それをレールガンで撃ち落とす敵機。その隙は見逃さない。
「吹き飛べ」
背部スラスターを全開にして急接近し、その胸に左の拳を叩きつけると同時に装甲を展開。そこから生成・圧縮したプラズマを噴射。相手の装甲を撃ち抜く。
同時に。噴射したプラズマの勢いに負けて左肩の関節が砕けて腕が宙を舞う。
フレームが壊れなかったとは言えど、さすがに被弾時にヒビくらいは入ってたのだろう。
「プラズマブレード。っていっても、ブレードでもなんでもないけれど」
実際、プラズマ推進の強烈な奴を腕でやっただけだし。
『今後この機能は封印だな』
「勿論、レースでは使わない」
こんなパワーのある武器。そうそう使えない。
そもそも万全な状態でなければ使えない武器なんて役に立たないだろうし。
とりあえずは、これで状況終了。
「それで、ペイルライムはどうすればいい?」
『お前の乗った輸送機で回収だ。しばらく待機だな』
「了解」




