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一撃

 テロリストたちがこちらに踏み込んでくる前に、ちょっとしたものを用意した。

 人の命を直接奪う武器なんて作りたくはないけれど、骨を折るくらいの威力を出せるもの。

 仕組みとしては簡単だ。爆弾に使われていた火薬を起爆させることで、加速した物体を相手にぶつけるというもの。

 まあ、簡単にいうとロケットパンチだ。

 それで最初に入ってきたヤツを撃退。後続は入り口を通った直後に余ったパーツで出来たスタンガンで気絶させて制圧。

 しっかりと相手の持ってた装備を回収し、あとはベスティアの社長に連絡。人を寄越してもらって全チームの救出。

 なんともあっけない幕引きだ。

 なんというか、元軍人のテロリストというにはあまりにも粗末。練度が低すぎる。

 奇妙だ。まだ何かあるのか。それとも――いや、そうだろうな。

 戦争があったのは十年以上も前。そのころ従軍していたとすれば、今回のテロを起こしたアバーブハートとかいうテロリストたちは()()()()

 それにさっきの犯行声明。あれも内容が薄っぺらく、台本を読んでるような感じがした。

 と、なればきっと彼等自身は元軍人ではない。だがこれだけのことをできるのだから、何等かの組織が裏にいる可能性も十分にあるし、本当に彼等の後ろには元軍人がついていてもおかしくはない。

「シド」

「解ってる。今のペイルライムは攻めきれない」

 かろうじて中継されているレース場の光景。

 ペイルライムが奮戦し、その援護を他のラピッドマシンが行うと言う構図だが、すでにまともに動けているのはペイルライムを含め四機。

 そのうち二機の攻撃はまともに通じているとは言い難く、残りの一機は今ようやく戦場に到着した。

「どう思う、サクヤ」

「どうって?」

「テロリストだよ。やる事は確かに派手だし、これだけのことをしたんだから相応の覚悟もあるんだろう。けど――」

「それは気になった。元軍人にしては粗末すぎる」

 素人の考えだが、それでも感じる粗の多さ。

 爆弾を仕掛けて万が一が起きればドカン、という脅しまではいい。

 だがそれを仕掛ける暇があったらそれこそVIP席に爆弾を仕掛ければいい。

 わざわざラピッドマシンを用意し、レースに参加してまでやることじゃない。

 なんというか、そう。()()()()()()()()()

「これ、まさか捨て駒を使った陽動じゃないでしょうね」

「……あり得る。だとしたらここで時間をかけてられない」

 警察や軍なんかの動きを待っている間にことが終わる。

「リオ、緊急だ。そいつをさっさと潰せ。腕くらいぶっ壊れても構わない!」

『は? なんでさ』

「そいつが陽動の可能性が出てきた。ていうかこの状況そのものが失敗前提の動きの可能性が高い。さっさとそいつとケリつけて本命を止めにいかないと手遅れになる」

『そうはいっても、ねえ』

 相手はボロボロ。にも拘わらず、スマートギアを吹き飛ばしたネメアーのビーム砲の直撃を二度も受けて健在。

 通常装甲と対ビームコーティング加工をした装甲を合わせた積層装甲。何層になっているかわからないが、一撃で貫通させるのは難しい。

 おまけに、だ。かろうじてそれができていたペイルライムのビームベイヨネットも短期間のチャージショット連続使用でオーバーヒート寸前。

 決め手に欠ける状態でどうしろってんだ。

「リオ、シド。確実に腕吹っ飛ぶけど一つだけ相手を吹っ飛ばす方法があるんだけど」

「何だよサクヤ。まさか自爆しろなんて言わないだろうな」

「ある意味それに近い。でもそれ以外にこの場でアレを仕留められる瞬間火力出せる手段がない」

 何を思いついたのか知らないけれど、案があるならと、頷いてサクヤの言葉を待つ。

「ビームベイヨネットを相手の破損個所に突っ込んでオーバーロードさせる」

「後のことを考えると最悪な提案だな!」

『けど、この状況では最適解に最も近い。やるよ。ただ、やり方は任せてもらう』

 そうリオが通信機越しに返してきた。

 それからは、ただモニター越しで彼女がどう動くかを見ているだけしかできない。

 ペイルライムが走る。

 ブリザードフォックスと、戦線に合流したフェリスが銃撃して動きを止めようとするが未だ健在な装甲にその銃弾はめり込んだとしても貫通するに至らず、致命傷には至っていない。

 エーテライトフィールドのコースからネメアーのビーム攻撃。空中からは徐々に降下しはじめているがブルースカイの援護攻撃もある。

 だが、それでも倒れない。

 一番効果のありそうなネメアーのビーム砲も当たらなくなってきた。

 見切られている、というよりは警戒されていて避けられているという風な感じか。

 だが。少しわかってきた。

「サクヤ。パイロットをしていたお前から見てアレはどうだ」

「素人。全然なってない。機体の性能に頼っている感じ」

「聞いたな、リオ。つまり――」

『私の方が強い』

 姿勢を低くしたペイルライムが左手のビームベイヨネットで弾幕を張る。

 低くした姿勢のまま、右手のビームベイヨネットのエネルギーを溜め続ける。

 通信機からは警告音が聞こえてくる。

 これ以上のチャージにビームベイヨネットが耐えられないと訴えてきている。

 だが。このまま突っ込むことはできない。あいつにはサブアームがある。それに至近距離で攻撃を仕掛けなければならない以上、未だ健在な右腕による反撃を受ける可能性が高い。

「ほかのチームに連絡――いや、ブルースカイんところに連絡してくれ」

「了解。右腕のことね」

 ソラちゃんへの連絡はサクヤに任せた。

「リオ。ブルースカイが援護に入る。右腕のことは気にするな」

『了解。サブアームは?』

「気合で潰せ!」

『冗談キツい。けど、やるしかないか』

 距離を詰め始めるペイルライム。

 ブリザードフォックスやフェリスの攻撃に巻き込まれるも、装甲がそれらを弾く。

 軍用とまではいかないが、競技用としてはかなり頑丈なのが幸いした。

「連絡ついた! リオ、仕掛けて!」

 サクヤの合図に、さらに加速してエクスエイトの左側に回り込む。

 当然、迎撃のために右手に持ったマシンガンで攻撃しようとするが、それを上空のブルースカイが急降下しながら撃ち落とす。

 続けて右腕のマシンキャノンを展開するが、それを今度は急降下してきたブルースカイがライフルで関節を殴りつけ、照準をずらし、放たれた弾丸はペイルライムの装甲に触れることはなかった。

 もし触れていたらその時点でアウトだったかもしれない。

 続けてブルースカイを排除しようとサブアームが伸びてくるが、近づいたそれは全身のスラスターから放出されるプラズマ流に焼かれて機能を失う。

 加えて、装甲までも融解させていく。

 特殊加工した装甲でないのに、プラズマ流の中に飛び込むからそうなる。

 結局はブルースカイを拘束することもできず、エクスエイトはなんとか動く右腕を振り回してブルースカイを弾き飛ばす。

 が、装甲こそ変形したが致命傷を一切受けていない。加えてこちらで対処するつもりだったサブアームを機能不全してくれた。

「いけ、リオ!」

 左腕をパージし、さきほどチャージショットでぶち抜いてボロボロになった左側に右手にで握ったお爆発寸前にまでエネルギーを貯めこんだビームベイヨネットを突き刺す。

 同時に。供給エネルギーを増やす。

「ビームベイヨネット、臨界!」

「リオ!」

 右手を放し、一気に後退。今にも爆発しそうなビームベイヨネットめがけてもう一丁のビームベイヨネットのビームを直撃させる。

「なるほど」

 爆発。臨界状態のエネルギーが一気に開放されてビームベイヨネットは吹っ飛んだ。

 その爆発は、見事にエクスエイトの上半身を丸ごと消し飛ばし、レース場に静けさが訪れた。

「……」

 あとは、これを操っていた人間を探し出して確保するだけ――じゃあ終わらないんだよなあ。

 携帯を取り出し、即座にあの番号へと連絡する。

『ああ。紫藤君か。助かったよ。これであとは――』

「VIP席にいた人たちはどこへ避難するんですか!」

『何? 確か新成田から専用機で脱出する手筈になっている。この辺はシェルターにできるような施設もないし。今は地下の専用ルートを使って空港には到着しているころだが』

 新成田国際空港。ここから車で一時間か。

 いや、この混乱の事を考えれば通常ルートではもっとかかる。

 流石に海外の要人の避難経路なんて俺たちは知らないが、ここらへんでそういうのを置いて置ける場所といえば、やっぱ新成田しかない。

「こっちの事件は陽動かもしれません」

『……ふむ。確かに元軍人としては拙すぎると思っていたが。では、新成田が本命だと?』

 そうは、言い切れない。

 言い切れないけれど、一番可能性が高い。

「……俺なら、この一件で事が済めばそれでよし。そうでないのならば、逃げてきた先で潰します」

『……では、どうする。ここからでは戦力を送り込むにしても時間が足りんぞ』

 かつ、警察などの部隊を投入するにも時間が掛かる。それに動かそうにもまともに取り合ってもらえるかもわからない。

 せいぜい動けるのは今こっちに向かっている分くらいだが、もう事が終わっている以上、その後の対応までは期待できない。

 迅速に動けるのはやはり――民間の俺たちか。

「ちょっといいですか」

 と、サクヤが手を挙げた。

「現状、すぐにでも動かせるくらいなのはここに残っている機体だけ。その中でも最も運動性に優れていて消耗が少ないのは、たぶんペイルライム。あと万が一攻撃を受けた際にも耐えうる可能性があるのも」

『ふむ。それで?』

「ベスティアの軍用装備、使わせてもらえます?」

『しかし、それを運ぶのは――』

「輸送機を飛ばしてくれればそれで構いません。ペイルライムは新成田に向い、輸送機とは途中で合流し装備を受け取って――」

「いやいや。待てよサクヤ。渋滞状況確認したか? 運搬用トレーラーは使えないぞ」

「誰がトレーラーを使うって言ったのよ。ペイルライム()行くのよ」

 つまるところ。

 ペイルライムがレース場から飛び出し、新成田国際を目指して走って行くということで、輸送機から途中で装備を受け取って目標地点にいるであろうテロリストたちの本命戦力とやりあう、って話。

 無茶苦茶だ。

「第一どこで受け取る。最短距離を行くとしても受け取れる場所なんて限られているだろう」

「空中。ならどう?」

「……は?」

「前までのペイルライムならできなかったけど、今のペイルライムならできることがあるでしょう。そのためには、ここの設備も使わせてもらわなきゃだけど」

 その後、サクヤの案を聞いた俺たちは、それが現状最も成功の可能性が高い案であると判断。実行に移すことになった。

 尤も。これで目的地に何もなければ俺たちはラピッドマシンをレース場以外で使用した犯罪者ってことになるんだけどな。

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