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波乱のネオジャパングランプリ

 レース開始時刻になり、各機のダッシュローラーがうなりを上げ得始める。

 各機のジェネレーターが温まりだし、いよいよ出走という状態になり各機が武器の動作確認をする。

 特に実弾装備の場合は念入りにしなければレース中にジャムったらその時点で攻撃手段がなくなるわけだし。

『さあ。ネオジャパングランプリ出走の時間が迫ってまいりました。日本で行われるIRRA公式レースではここ最近の成績と人気を参考にして選考された十一チームと特別枠の機体一機が参戦しています。海外レースで活躍しているベスティア重工のフェリス、新型でもありこれまたシルクロードカップで優秀な成績を残したエキドナインダストリーのネメアー、世界各地のレースを荒らしまくるギフトスローなどは皆さまの記憶にも新しいのではないでしょうか』

 特別枠。エクスエイトのことだろう。やはり普通の参加枠じゃあなかったか。

「奴が動いた時点でレースどころじゃなくなる。それまでに処理できればいいが――」

「まあ、無理でしょうね。軍用機は基礎スペックからして競技用とは違うから」

 装甲強度からして、通常弾はあまり通用しないと考えていいだろう。

 対ビームコーティングをしていれば、競技用ラピッドマシンのビーム攻撃も通用しない。

「運よくアイツが潰れてくれればいいがな」

『観客の皆さまもこの二機の激戦は最も記憶に新しいでしょう。ブルースカイとペイルライム。稀に見る激戦を繰り広げた二機は今回のレースではどのような活躍を見せてくれるのでしょうか。っと、シグナル点灯! カウントダウンが――』

 ひとつ、ふたつと点灯。

 最後の一つが点灯し、各機が一斉にローラーをフル回転させて走り出す。

『やはりアローズ抜け出す! すさまじい加速。たまらず進路上の各機がそれを道を譲――っと!? もう一機後列から一気に飛び出す青い機体、ブルースカイが飛び出していくッ!!』

 最初に動いたのはその二機。その二機に対してギフトスローが鎖状のものを投げつけた。

 チェーンマイン。確かにそれは相手に絡みつけば一撃で相手を破壊できるだけの威力を持ったものだ。

 が、投げた相手が悪い。

『ギフトスローの投げた爆弾が突如爆発ッ! 手元まで連鎖して左手を吹き飛ばすッ! 何が起きたんだあああああ!!』

 ブルースカイの放出するプラズマ流でチェーンマインが焼けて爆発。

 手元までその爆発は続き吹き飛ばした。これで片手はもう使えない。

 加えて、アローズに投げたほうも見事に回避され、初手は無駄撃ちとなる。

 いや、無駄ではないか。

『ああっと!? コースに落ちたチェーンマインに後続のイエロージャケットが接触! 脚部が持っていかれた!! これは開始早々リタイアだあッ!!』

 後続の一機を潰せたのはデカい。

 だが片手が潰れたことによっていつも通りの戦法を取れなくなったギフトスローの動きは鈍くなる。

 速度そのものは落ちていないが、盛大に爆弾を放り投げるなんてことはやってこない。

 となれば、後ろからスタートになった各機にもチャンスが巡ってくる。

『さあ。先頭争いをするアローズとブルースカイ。通常コースを終えてエーテライトフィールドコースへと突入。坂を上っていきます。それから遅れてネメアー、エクスエイト、フェリスと続き、やや遅れてスマートギアと続きます。エーテライトフィールドコースに突入すればそこから先は射撃が解禁され、先ほどよりも荒れる事は不可避でしょう!』

 早速、スマートギアが背中からサブアームで保持したミサイルランチャーを構えた。

 そしてそれは前方ではなく、いまだ通常コースを走る後続に向けられる。

『スマートギアが後続へ攻撃!! ミサイルの雨が未だ射撃のできない各機へ襲い掛かる!』

 それに対する各機の対応は様々。

 ペイルライムとホワイトファングはあえて加速することでミサイルの軌道の内側に入り込んで攻撃を避け、無事にエーテライトフィールドコースへたどり着く。

 ブリュンヒルデはその攻撃を回避し、爆風を避けて進む。軽く素早い機体だからこそできる芸当だろう。

 最後のブリザードフォックスは、後ろに下がって様子見。今後も激しい撃ちあいが続くとすれば、ここであえて最後尾に落ちるのも選択肢としては十分にありだ。まあ、本心としては1メートルたりとも後退なんてしたくはないんだろうが。

『ミサイルを撃ち切ったスマートギア、ミサイルランチャーを捨てて滑腔砲を展開。今度は自身の前を行く機体へ連射する!』

 依然と装填されている弾丸が変わらないのならば、グレネード弾が装填されているはず。

 直撃しなくても相手の走りを妨害することができる。

『放たれた弾丸がネメアー、フェリス、エクスエイトを襲う! っと。ネメアーが反転して肩装甲を展開。これはまさか……』

 瞬間。両肩の砲口が光を放った。放たれた光は二秒の間照射され、明らかにそれはビームであるとそれを見る者にしっかりと印象付けた。

 光が消えた時、そこにはスマートギアの姿は下半身を残して存在しなかった。

『なんという熱量! なんという火力! 競技用にあるまじき破壊力! スマートギア撃破――否、焼失!!』

「やりすぎだろ!?」

「それ、ウチが言っていいことじゃないからね」

 サクヤに冷静に突っ込まれた。

 いやまあ、コースぶった斬ったもんな、ウチ。

 それに重量レギュレーションだけ守っていればジェネレーターがどんな出力をしてようと問題にならない。

 ジェネレーター直結ビーム砲なら、機体を焼き切るくらいできてもおかしくはないか。

 それでも軍用機のそれより低威力だってんだから……いや、だからっていってっもやっぱ機体を消し飛ばすのは威力が高すぎやしないか?

『まだ先頭が2000メートル地点を通過した序盤も序盤。にも拘わらず大波乱! ああと、そうしている間にもアローズがカーブに差し掛かったために減速。この間にブルースカイは先頭に! 三番手を行くフェリスがアローズの背中を捉えるなりマシンガン乱射! プロペラントタンクを撃ち抜き機体が爆散!! 散らばった機体の残骸がコースを転がり落ちる!!』

 残り九機。今のところエクスエイトは派手な動きを見せない。

 と、フェリスがエクスエイトのほうを向き銃口を向けるなり引鉄を引いた。

 だが。命中する弾丸はキンキンという音を立ててその強固な装甲に弾かれる。

 ひしゃげた弾がコースに転がり、後続の進行に地味に邪魔している。

 ただでさえ滑りやすいエーテライトフィールドの上でそんなものを踏んづけたらそれこそスリップしてそのままコースアウトだってあり得る。

 実際、ひしゃげた弾を踏んづけたホワイトファングが大きく姿勢を崩した。

 その隙にペイルライムは前に出る。

 ローラダッシュだけでなく二つの脚を使った文字通りの走行ができるペイルライムの強み。

 撒菱(まきびし)のようになったフェリスの放った弾をステップで避け、バランスを崩したホワイトファングを踏み台にし、蹴り飛ばすと同時にスラスターを噴射し一気に加速する。

『ペイルライム、ホワイトファングを踏み台にしたあああ!!』

 いつものリオなら、ここでビームの一撃くらいはホワイトファングに向けてぶっ放しているが、今日はしない。

 理由は簡単だ。エクスエイトを仕留めるためには、チャージ状態のビームベイヨネットでなければダメージすら与えられないとわかっているから。だからこそ、ここでホワイトファングを撃破するためにチャージ中のものを使ってしまうことはできなかった。

 だがまあ。蹴り飛ばしたのはその代わり、というやつだ。

 ペイルライムの蹴りの威力は相当なもので、蹴り飛ばされた場所の装甲は大きくひしゃげ、コースを背中からコースに叩きつけられたホワイトファングはすぐにリカバリーできず坂道を滑っていく。

『転倒したホワイトファング、リカバリーできずそのまま一気に最後尾! ブリザードフォックスはなおも加速を続けるが、今のペースでは表彰台すら遠いか? 一方先頭を独走するのはブルースカイ。速い。速すぎる! コースを滑空する機体を誰も捉えられていない! 独走状態で2500メートル地点のカーブに突入! 二番手との差は800メートルもある! このままのペースなら逃げ切り確定か?』

 先頭をいくブルースカイに追いつける気配はない。

 二番手のフェリス、それに続くエクスエイト、ネメアー、ペイルライム、ブリュンヒルデ、ギフトスロー、ブリザードフォックス。そして最後尾でようやく立ち上がったホワイトファングと続く。

 ていうか、スマートギアの攻撃で吹き飛んでなかったのかアイツ。

「シド、このペースだとあと十秒くらいで奴が例のポイントに入る!」

「リオ、備えろ」

「了解」

 短い返事。

 こちらの射程圏内にエクスエイトは入っている。

 フェリスに関しては攻撃が無駄とわかるや否や、ネメアーへ攻撃の対象を移した。

 傍から見れば、表彰台圏内を維持するための妨害行為。

 だが違う。これは俺たちへの援護攻撃だ。

 弾丸の雨を受け、ネメアーが鬱陶しそうに防御姿勢を取る。これで前からの妨害の可能性は減る。

「入った!」

 スタートから2500メートル地点。観客席からは遠ざかるように設定されたカーブの入り口。そこから約600メートル範囲。

『おっと、ここにきてエクスエイトが動いた。左腕の装甲が開き中から何やら砲門が……え、一体どこを狙って――』

「リオ!!」

 ペイルライムがフルチャージ状態のビームベイヨネットを連結させ、照準装置がロックする前にリオがマニュアル操作で照準を合わせて引鉄を引く。

「あっ!?」

 が、直前になってペイルライムの背中で爆発が起きて手元が狂った。ギフトスローによる爆弾の投擲をモロに受けてしまった。

 流石の堅牢さのおかげで致命的なダメージは受けていないが、連結したビームベイヨネットから放たれたビームはエクスエイトの腕を直撃せず、やや上方に跳ね上げただけ。

 そして、その跳ね上げた左腕から放たれる超高出力ビームが、観客席のほうめがけて放たれてしまった。

 そこからは、スローモーションだった。

 放たれたビームは、観客席の――VIP席のある場所にめがけて飛んでいく。

 軍用機の高出力ビーム。それが命中すれば、競技用機体の攻撃には耐えられるよう設計されているエーテライトフィールドの防壁など容易く貫通することになる。

 そうなれば、その向こう側にいる人間は全員――死ぬ。

 閃光が、障壁に届いた。

 眩い光がほとばしり、壁が割れてその向こう側に閃光が届く。

 が、ペイルライムの攻撃が功を奏したらしく、奴の狙いより上のほうに命中し、VIP席はかろうじて無事であった。

『な、なんということだ!? 観客席への攻撃? いや、それよりもエーテライトフィールドバリアで守られているのに、バリアを貫通した!?』

 流石にこれには各機動きを止める。

 その中で、ペイルライムだけは止まらない。

「こいつには責任取ってもらう」

 動きを止めたギフトスローを掴んで持ち上げると、それをエクスエイトめがけて投げつけた。

 それに対してエクスエイトは右腕の装甲を展開。マシンキャノンで迎撃する。

 すさまじい連射速度で機体に穴をあけていくが、その機体相手にそれは悪手だ。

「リオ、次のフルチャージまでいくらかかる?」

「そんなこと考えてる余裕はない」

 大量の爆薬を抱えたまま蜂の巣になり爆発四散したギフトスロー。だがそのおかげで、堅牢なはずのエクスエイトにも流石にダメージが入った。

 それに、あの左腕のビームランチャー。砲口の周囲から水蒸気が出てる。あれは連射できないタイプのやつか。

 だったら、今の爆発でまた熱量が上がったはずだ。しばらくあれは使ってこないな。

「今以外、落とすタイミングがないッ」

「やってみる」

「サクヤ、こっちはこっちで準備だ」

 もう、レースなんてやっている状況ではない。それだけは、他の参加者も理解しはじめていた。

 エクスエイトへの対処はリオに任せる。あとは、自分たちを守るための装備を整えるだけだ。

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