大勝負に向けて
ウイングロードカップの結果は、一位がペイルライム。二位がブルースカイ。三位がリトルデビルで、四位がスマートギア。あとは大破やコースアウトで順位ナシ。
ここ最近、リオの調子がいい。
機体を乗り換え続けているけれど、フラワリングナイト、パルダス、ペイルライムで三連勝。
レースの規模も違うし、うち一つは公式戦ではない、企業主催のものだ。
だが。いろいろとウチは目立ちすぎた。
とくに、ペイルライムが。
公式戦で初披露となるパルクール。しかもエーテライトフィールドを使っての、だ。
おまけに最終局面でみせたコースの切断に、高低差100メートル超えからの着地。
多少の攻撃ではびくともしない堅牢な装甲と、スラスターを使わずとも跳び上がれるだけのパワー。
これで目立たないわけがない。
レースの結果こそ僅差での勝利であったが、それでも一線を画す性能を見せつけたことには違いない。
「シド、取材の申し込みが――」
「電話線抜け!」
おかげで事務所の電話は鳴りっぱなし。
特許申請中技術故質問にはお答えできません、と勝利後のインタビューで宣言したはずなんだけどなあ。
「今度はサイトにのせたメールに大量の申し込みが……」
「送っきたアドレス片っ端からブロック! 騒動が落ち着くまで絶対解除するな!」
なんだこれ。サイバー攻撃か。
「直接乗り込んでこないだけまだましだと思おう」
「すいませーん」
「……このタイミングでか?」
フラグでも立ったか? いやまさか漫画やゲームじゃああるまいし。
と、対応するためにエントランスのほうへ向かう。
そこにいたのは、一人の少女。
あれ。でもこのコどっかでみたことがあるような?
「シドファクトリーへようこそ。どういったご用件でしょうか」
と、事務的な対応をしてみる。
ぶっちゃけウチにどうみても未成年から二十代前半の女性が来る時点で怪しすぎる。多少は警戒した対応をとってしかるべきだ。
「機体のパーツの発注に来ました。ここならきっとオーダー通りに仕上げてくれると思うので」
「パーツ、ですか。それで。どのようなパーツをお求めで?」
「そうですね。フルパワーで長時間稼働し続けられるジェネレーターですかね」
「いや、それは確かにパーツですけどね。ウチは専門外ですよ。はは」
「確かにそうでしょうけど、あの機体に使っているジェネレーター。あれは既製品では絶対に出せない出力を出していたようですけど?」
ペイルライムのことか。
確かにあれば既製品じゃなく、ここで造った特注品だ。
「仮にそうだとしても、そうやすやすと売るわけがないでしょう」
やっと思い出した。このコ、ブルーベアのアイドルだ。
確か名前は青井ソラ。有名なアイドルでもあり、ウイングロードカップでウチとトップ争いをした機体、ブルースカイのパイロットだ。
「で、アイドルさんがなんでわざわざ?」
「ウチの機体が壊れたんでこの際徹底的に強化しようという話になりまして。実際にパイロットをしていた私のオーダー通りに仕上げてくれる業者を探していたんですよ」
「あー……」
プラズマ流を噴射させて推力にする、なんて特殊機構を搭載しているんだからそういうのが欲しいのはわかる。
「あれ、ソラじゃん」
「あ、リオ。やっほー」
……また窓からですかリオさん。出入口はちゃんとしたところから入ってくれって、何度言えば――いや、もう薄々気付いてたけどちゃんとしたところから入ってくるつもりないな。
「っていうか知り合いかよ」
「同じクラスの友達。まあ、ソラの仕事の都合で学校にいないことも多いけど」
「そうなんです」
「「いえーい」」
と、ハイタッチする二人。
めっちゃ仲良しかよ。
この二人、あのレースでバッチバチにやりあったんだよなあ。
ていうか。このアイドルさん、かなりワイルドなことしてなかったか?
コースに無事なほうの肩をわざとぶつけてぶっ壊してバランス調整とか思い切りが良すぎるだろ。
「で、どんな用で?」
「今までのより長時間フルパワーで稼働し続けられるジェネレーターの発注ー」
「作ってあげれば?」
「おい、お前……塩を送るつもりかよ」
「敵じゃなくて友達だからいいの」
「ったく……お前がいいならいい、か」
「だって、それでも勝つのは私だから」
「へえ……」
待て。挑発するんじゃあない。
そしてそっちも乗るんじゃあない。アイドルのしていい顔じゃあない攻撃的な顔してるぞ。
「まあ、とりえずペイルライムに載ってるのと同じ奴でいいなら比較的安く出せる。予算と納期は?」
「あ、はい。予算はこのくらいで、納期はネオジャパングランプリの一週間前くらいまでには」
予算を確認しながら、今からそれが可能かどうかを考える。
「ネオジャパングランプリ、ソラも出るんだ」
「本当は出るつもりなかったんだけど、なんか参加枠が空いて、この前のレース結果を見たIRRA側からの推薦でね。だから、徹底的に強化したくて」
参加枠が空いた?
ちょっと気になるな。
「ちなみに元はどこが参加予定だったの?」
「ユガエレクトロニクスのチームだって噂だけど……まあ、当日になるまで参加チームはわからないから、これもあくまでも噂でしかないかな」
……いや、案外噂ではないかもしれない。
ベスティア重工の工場襲撃から始まった一連の騒動。それに連なっている可能性がある。
いやまあ。だからといってどうするわけでもないが。
「結論から言うと、この予算で一応は可能だ。納期については少々厳しい。あと、あれはペイルライムの心臓部。いってみれば俺たちの企業秘密ってやつだ。それをはいそうですか、と渡すのはな」
嫌がらせだとか、レースでは敵になるからだとか、そういう話ではなく、ペイルライムのものと同型のものを作るとすると、納品はかなりギリギリのタイミングになる。
そこからはあちらの仕事だが、機体に搭載して調整するとなれば一週間ですらギリギリ。
一歩間違えば自身すら傷つけかねないプラズマ流を扱う機体だから、一週間前の納品すらあちらとしてはかなり譲歩したことだろう。
だが、できないものはできない。
これは金の問題ではなく、時間の問題。そして技術の盗用を防ぐためでもある。
「そこをなんとかなりませんか?」
「シド。予備はあるんでしょ」
「……いや、うん。そういやそうだった。けどな。さっきも言ったように技術の流出の可能性がある以上、はいそうですか、と簡単には首を縦に振れん」
パルダスを改造したペイルライムの予備機にも、ペイルライムと同様のジェネレーターを搭載している。
当然、ウチで造ったものだ。外注なんてしたことないし、そんな余裕もあんまりない。
「だったら、同等の対価を用意すれば問題はないんですね?」
「え、それはどういう――」
と、携帯を取り出してソラちゃんはどこかに電話を掛けた。
「お疲れ様です。社長。今ブルースカイのジェネレーターの件で、はい。はい――」
え、ちょっと待って。このコ何しようとしているの。
「――はい。ですから、ブルースカイのプラズマ推進システムを……え、いいんですか? ありがとうございます!」
一体なんの交渉をしたんだ。
「えっと、シドさん、でいいんですよね?」
「まあ、そうだな」
親子二代にわたるニックネームだけどな、それ。
「そちらのジェネレーター、お譲りいただけるならばこちらからはブルースカイに使用されているプラズマ推進システムの全データを提出する用意があります」
「何してんのこのコ!?」
社長へのホットライン繋げるだけでも普通じゃないのに、企業秘密を公開するとか言い出したんですけど!?
ていうか、許可した社長も社長だな!
「いいじゃん。どっちも企業秘密を晒すんだから、痛み分けでしょ。それに、互いの秘密を握っていれば裏切ったりはしないでしょ」
とリオは言いうが、はいそうですかと量産されても困るんだよアレ。
「なら追加で。もし同様のジェネレーターが必要になった場合、かならずこのシドファクトリーに発注をする、というのではどうですか?」
「……そこまで言われたら断る理由はないな。後日正式な書類にして引き渡し。そちらのデータもその時に渡してもらう。それでいいか?」
「ありがとうございます!」
と、満面の笑みで頭を下げるソラちゃん。
確かにこれは人気が出そうだ。
レースの時とのギャップというのもいいアクセントになっているのかもしれない。
「ちょっとシド。いくらで受けたの?」
「サクヤか。丁度いいところに。予備機からジェネレーター外しといてくれ」
「はあ!? いやまあ。受けちゃったんだから外すしかないんだけどさあ!
様子見に顔を出したサクヤに指示を出す。
肩を落としながら作業場へと向かう時、一瞬だけ目があった。
――サイン貰っといて。
そう訴えてきているようにも見えた。
「サクヤ、ソラのファンだから」
「そう、だったのか……」
「それはそうと、ペイルライムにプラズマ推進システムって組み込めるの?」
「余裕があれば、な」
機体そのものはかなり軽い部類に入るペイルライム。ミドル級レースのレギュレーションを遵守するならば、重量的な余裕はかなりある。
仮にプラズマ推進システムを組み込めるとしたら、問題となるのは重量よりもその機構をレースまでの短期間で再現できるかどうか、にあるだろう。
「それじゃあ、リオ。私は事務所にいかないとだから!」
「うん。また学校か――ネオジャパングランプリで」
にぃ、と不敵に笑うリオ。それにソラちゃんのほうも攻撃的な笑みを浮かべて応えた。
だからそれ、アイドルの顔じゃねえんだってばよ。
――さて、と。
思わぬ来客だったが、少しだけ新たな情報を得た。
ユガエレクトロニクスのネオジャパングランプリ欠場。
あくまでも噂だと言っていたけれど、本当にそうなのだろうか。
確かめるすべは――ないこともないが、使いたくはない。
「……はあ」
名刺入れの中に突っ込んだままのベスティア重工の社長の名刺のことを思い出して、少しだけ気が重たくなった。




