ウイングロードカップ決着
先頭が残り5000メートルに到達。
カーブよりもアップダウンの激しいコースとなり、マシンにかかる負担も大きくなってきた。
ほとんどの機体がスラスターを吹かしっぱなし、ダッシュローラーを最大回転で稼働させっぱなしの状態での長距離レース。
おまけにコースの特性上、舗装されたコースとは違いローラーがしっかりコースを捕まえない。端的に言えば、滑る。
そのせいもあって回転数のわりに速度はでず、普段のコースを走るよりもローラーを消耗させているはずだ。
そんな中。先頭争いを続けているのはペイルライムとブルースカイ。
アップダウンの激しいコースとなったことで、大出力スラスターを持ったブルースカイのほうが有利となる。
何せ、アップの頂点から先にある頂点へ一気に飛び移ることができる。
『さあ。ブルースカイが再び先頭。続いてペイルライム。追いすがるが、さすがにスラスターでの加速性能に差があるか。それから500メートルほど遅れてブリザードフォックスとシルバーナイトがクロスレンジで火花を散らす三番手争い。その後方でリトルデビルが前へいく機会を伺います。さらに後方スマートギアはペイルライムの足払いが効いたか若干厳しい位置。次のチェックポイントに間に合うといいのですが』
流石に一度転倒した後、重量のあるスマートギアは最高速度に乗るまでがほかの機体より遅い。現在先頭のブルースカイがチェックポイントを通過してから規定時間以内にチェックポイントを通過できなければ、コースが消失して強制リタイアだ。
ウチは安全圏内だとはいえ、いつどこで順位が入れ替わるかはまだわからない。
『さあ。アップダウンが激しい部分にブルースカイが突入――っと!? 頂点から頂点へ飛び移る! やや遅れてペイルライムも急勾配を駆けあがって……跳んだぁぁぁぁぁ!!』
ブルースカイのスラスターから放出される光の色が変わった。
ジェネレーターがある程度冷えたのか、再びプラズマ流を放出し始めた。
まずい、こうなると追いついても機体がもたないぞ。
『シド』
「リオ!?」
コクピットポッドから話しかけられた。驚いた。普段ならそんなことはしないのに。
何より今は上り坂で急加速して大ジャンプした機体の制御に集中しなければならないはずだ。
と、いうことは、だ。それだけ重要な話ってことだ。
『アレ、使う』
「アレって……いや、確かに動作そのものは保証するが」
『動くなら、それでいい!」
と、レースの様子を映したモニターに視線を戻す。
と、ペイルライムが両腰にマウントさせた自分自身の武器――専用ビームベイヨネットを手に取る。
一見するとハンドガンのようにも見えるそれは、専用に調整した俺特製のビーム発振器を使い、ビーム弾を発射するのは当然として、ビームソードも展開できる万能武器。
加えて。二つを連結させることで長距離射撃も可能だ。
『なんだ。ペイルライムに動きが……』
実況が状況把握を始める前に、両手のビームベイヨネットからビーム弾が乱射される。
狙いはもちろん、すでに着地してコースを行くブルースカイだ。
『自身の武器を使った攻撃だあああああ! ビームの豪雨がブルースカイに降り注ぐゥッ! しかぁし、ブルースカイそれを回避しなおもトップをキープ!!』
乱射は無駄撃ちに終わった、ように見えたが即座に右手に持ったビームベイヨネットに左手のものを連結させるのを見て、まだ何かやろうとしているということを確信した。
「今のビームさ」
「ん?」
「右手のは通常出力の単発だったけど、左手のは速射モードだったよね」
「……そういえば、そうだな。多分周りは気付いてないだろうけど」
きっと弾速の違いと連射速度の違いから、そういう仕様なんだろう、程度にしか思われていない。
だが、違う。
俺たちの作ったビームベイヨネットには通常の単発射撃モードのほかに、威力は下がるが連射ができるようになる速射モードと、一発の威力を高めるが発射までに時間のかかるチャージモードがある。 当然最も威力の高いのはチャージモード。次いで通常モード、連射モードだ。
左右のビームベイヨネットで仕様が異なる、ということはなく、どちらも任意でモードを変えられる。
ではなぜ、左右で別のモードで使用したのか。
それは、ブルースカイの周辺の状態が関係している。
「ビームはプラズマ流の影響をモロに受けるからな。多分、実況は避けたとか言ってるけど、避けたんじゃなくてビームのほうがプラズマ流に乗って逸れたんだ。それを貫くだけの速度とエネルギー量がなかったから」
「ってことは何よ。あの機体、プラズマ流で推進してる限り実弾もビームも後ろからじゃ効かないじゃないの!」
だからこそ厄介な機体なんだ。
けど、リオは先ほどの攻撃で何かを掴んだ。
だからこその連結チャージモードを選んだのだろう。
ペイルライムがコースに着地するなり、後ろから勢いよくシルバーナイトが巨大メイスを振りかぶって迫ってきた。
すでに機体はボロボロで、ブリザードフォックスと激しくやりあったのが見て取れるが、そのシルバーフォックスも左腕をごっそり失いながらもまだレースを諦めてはいない。
『シルバーナイト前に出た! その勢いのままメイスを振りかぶって――』
だが、質量のある武器というのは振り下ろし切ってこそ最大の効果を発揮するものである。
ペイルライムは左足を軸にして反転しメイスの柄の部分――の上のほうを蹴った。
するとどうだ。
振り下ろそうとしていた大質量はそのまま別方向へと進路を変え、握りしめたままのシルバーナイトはメイスの重さに引っ張られて転倒する。
しかも運の悪いことに上り坂で、だ。
『シルバーナイト転倒! そのまま坂を転がり落ちる!』
そして後ろから突っ込んできたブリザードフォックスと激突。巻き込まれる形でブリザードフォックスもまた坂道を転がり落ち、一気に最後尾のスマートギアの目の前に。
と、そこへ当然スマートギアが攻撃を仕掛ける。
『スマートギアの各装甲内部に仕込んでいた火器がこれでもかと発射される!! これは完全にオーバーキルだあああああああ!!』
死なばもろとも。いや、違うな。
実弾ばかりを積んでいる機体だ。ここで撃ちまくって少しでも機体を軽くしたいのだろう。
丁度いい的が来たことで、順位を上げつつ機体の軽量化もできた、というわけか。
実際、ぶっ放すまでよりもスマートギアは速度を上げている。
『爆炎を切り裂いてスマートギアが加速ッ! 代わりに炎の中に二体が消える!』
スマートギアがどんどん速度を上げている。
そして、リトルデビルと並ぶ。
『前と後ろで激しい衝突。これはどちらも目が離せません!』
前の勝負はそれそのものがこのレースの勝敗を決めうるもの。
後ろの勝負はすでに先頭争いには間に合わない、表彰台の栄光を手にするための争い。
実況が言うように、どちらも激しい衝突が見れる。むしろ激しさだけでいえばリトルデビルとスマートギアの攻撃の応酬のほうが見ごたえがあるといって良い。
だが今は、圧倒的に前の勝負のほうに皆注意が向いている。
このレースの勝敗が気にならないものなど、いるはずがない。
残り3000メートル。
同時に、最後のチェックポイントであり、下り坂になった連続ヘアピンカーブへの入り口。
当然前にあったヘアピンカーブ同様、直進させないようにある程度の高さまでエーテライトフィールドの壁が生成されている。
なので、そこへ突っ込んだブルースカイはどうやってもその連続ヘアピンカーブを曲がり切らなくてはならない。
だが。ペイルライムは違う。
『ペイルライム、再び壁を乗り越えるつもりかスラスターを噴射!! ショートカットを図る、が!』
どう見たってやばい高低差がある。
平坦なコースに戻るまでの高低差――機体との対比からして、目測100メートル以上。
いくらなんでも無理があるように見える。
『流石にこの高低差は無理があるのではないか!?』
とんでもない高低差を飛び降りながら、細かくスラスターを噴射して姿勢を制御。
コースを行くスカイブルーの方へ向くと、その右手に持った連結状態のビームベイヨネットの銃口を向け、照準を合わせ――ない!?
『ビームの刃が展開!? ちょ、ま……まさかッ。嘘だろぉっ!?』
実況も役職を放棄するような出来事が起きた。
というか、こればかりは俺も想定外のことだ。
『ビームが、ビームの刃がコースをぶった斬ったあああああああッ!?』
まさか、エーテライトフィールドで出来たコースを斬れるだなんて、思わないだろ!?
「ちょ、ちょっとシド!?」
「俺も予想外だわこんなもん!」
加えて。ビームの展開を終えると、今度はコースを斬られて狼狽しているブルースカイめがけて連結チャージ弾を放った。
短時間のチャージではあるが、特大ビームソードの展開に使わなかった余剰分と合わせればかなりの威力を発揮するビーム弾。
それが、ブルースカイのプラズマ流を貫通し、その右肩を直撃した。
「当たった!」
「いや、外れだ!」
サクヤは攻撃が命中したことを喜んだが、あれは外れている。
照準補正が甘かったせいでズレた。
まあ、プラズマ流を纏ってくるような相手なんて想定してないからな!
それでも片腕を持っていった。
ブルースカイの高速飛行は少しの被弾とバランスの崩壊でいともたやすく妨害ができる。
大出力故の弱点。整ったバランスでなければ、その力をフルに発揮できない。
『コースは自然修復を開始。ですが、これは……』
被弾したことで大きくバランスを崩し、その立て直しのために細かくスラスターを噴射させて姿勢を制御するブルースカイ。
足止めにもなった一撃。加えて、万全の状態ではないあの機体のトップスピードはもう二度とでない。
『ブルースカイ減速! 最高速度はもう出せないか?! 一方、ペイルライムは着地。そのまま――おっとバランスを崩したか?』
「シド!」
「大丈夫だ!」
あれはローラーが滑っただけだ。姿勢制御とリカバリーは上手くいっている。
『ペイルライム、バランスを崩しながらもローラーをフル回転。そのままラスト直線1000メートルに突入!! これはもはや独壇場ッ! いや、待て! なんという執念だブルースカイ!! 自らコースアウトして最短距離でゴールを目指す!!』
空を、飛んでいる。
わざと左肩をエーテライトフィールドの壁にぶつけて破壊し、左右の重量さを抑えてのスラスター噴射。
本体が軽くなった分、その速度は最高速にこそ至らないが、それに近い速度をはじき出している。
『ペイルライムか、ブルースカイか! ブルースカイ迫る。ブルースカイ迫る! これは――』
ゴールラインを、超えた。
『ゴーー----ルッ! だが、僅差。僅差です! 果たして、ペイルライムは逃げ切ったのか。それとも勝利への執念で迫ったブルースカイか! 判定は――』
僅差。数値にして、わずか10センチ。
『ペイルライムだああああああああああああ!!』
「か、勝った……」
「ねえ。これ本当にネオジャパングランプリの練習で選んだレース? レベル高すぎない?」
「レースのレベルじゃなくて、あのブルースカイを操ってたやつがやべえんだよ。だがまああれだ」
機体、派手に壊れなくてよかった。




