ロールアウト
一つ、予想外のことが起きた。
組み立てが、終わってしまった。
「うっそだろ……」
自分でも信じられない。シルキーをフル活用し、徹夜も何度かやった。
とはいえ、あの加工しにくいシドニウム合金とやらをよくまあこの短期間で仕上げられたものだ。
おまけに専用装備まで。
どう考えたってできるとは思えない速度で作業が進んでいっていた。
いや、ちょっとばかり冷静になれば明らかにシルキーの稼働率がやばかった。
「……サクヤ。設定弄ったな?」
「てへぺろ」
「あとでオーバーホールやっとけよ」
「うぐっ……」
かなりの無茶をしたようで、ぶっ壊れる寸前だった。
その原因を作ったサクヤにはしっかりと働いてもらうとしよう。
だがまあ、俺も手伝ってはやるが。
サクヤが滅茶苦茶やったおかげで、こうして新型機は完成したわけだし。
「とりあえずは、こいつの動作テストやらなんやらもしないとだけど……」
「命名とカラーリング、でしょ」
「なら白っぽい色がいい」
「うわっ!? また唐突に現れたなお前。どこから――っていつも通り窓から、か」
またご丁寧に窓枠が外されていた。そしてそれを元通りにするリオ。
それ毎回やるの面倒くさくないのか?
ていうか、ここ二階なんだけど、外に梯子とかないのにどうやって上ってきたんだか。
「あと、若干青みがあるのがいい」
「微妙なラインだな……ちょっとRGB設定して自分の好きな色合いで調整して見せろ」
タブレットを操作してリオに手渡すと、それを指でなぞって色合いを確認する。
しばらく悩んでいたが、これだ、という色にたどり着いたのか指を離した。
「この色で」
そういって見せられた色は、かなり白に近い色だった。
だがそれに青い色が混じっているのが解るくらいには色がついているくらいの、かといって薄い水色という感じもしない。
というか、これに光沢をつければ銀色のようにも見えんじゃないか、という感じの色合いだ。
まあ一番近い表現とすれば、青白い、だろうか。
「んじゃあメインカラーはこれでいいな?」
「ん」
「と、なるとあとは名前か」
ホワイトなんたら、というのは安直すぎるだろうし、純粋な白じゃあない。
フラワリングナイトみたく、パイロットの名前に由来する――というのもリオでは無理か。
やっぱり機体の色からとるか。となればやはり青白いことを強調する感じか。
「……」
「何?」
それにリオのイメージを合わせると、だ。
ちょっと英単語の辞書アプリを起動して――と、あった。
「――ペイルライム」
「何それ」
「ペイルは青白い、ライムは氷花を意味する英単語――を日本語で無理やり発音した」
ふーん、という感じのリオだが、ちょっとしたしぐさを見てみればテンションが上がっているように見える。
やはり新型機。しかも自分の要望通りに作られた機体となればそりゃあ興奮もするか。
「それじゃあ早速塗装にかかるか。まずは一色だけ。その仕上がりを見て細かいペイントとかを考えていこう」
という話でまとまった。
「あ、塗るときは作業場から出てろよ。塗料はしっかり有害だからな」
こればかりはどうしようもない。
古くから、金属の塗装は人体に有害な物質を含んだ塗料を使うものなのだ。
まああくまでも大量に吸い込むと、であるが。
なので、塗装するときは作業場を締め切り、オートで行う。
その前段階として塗料の調合があるのだが。
「それで。機体が想定よりも早く出来上がってしまったわけだが――どうする」
「どうするって?」
「あー。格納庫のアレ、ね」
フラワリングナイトはとりあえず保管してある。不要になれば最悪どっかに売る、という手もあるが、思い入れのある機体だ。当面その予定はない。
問題となるのが先日入手したばかりの改造パルダス。こいつに関しては下手に手放せない。
何せ俺たちの技術を外部に流出させる可能性がある。というか、確実にするだろう。
まだまだパルダスは製造され出したばかりの機体。にもかかわらずテロによって工場が破壊され生産ラインにも影響が出たせいで流通量はかなり少ない。
そんな状況で売りに出された機体。その出所はかなり限られる。おまけにウチはユニコーンカップ以前よりも悪い意味で有名だ。
どんなレースに参加して、どんな機体を使っていたか、というのも徹底的に調べ上げられることだろう。
で、パルクールできるパルダスの事も知られて、技術を徹底解析される、って訳だ。
まあパルクールに関してはOSの入ったメモリドライブを抜いてしまえばいいだけの話なんだが。
問題なのは弄った脚部構造。
着地時に衝撃を吸収・拡散させて安全に着地する仕組みは特許申請してもいいくらいのもの。というか、した。
ただそれが通るまでの間、技術流出をさせないことが重要。
基本申請した順に認められるもんだが、人のする仕事だから、大企業が賄賂を積めばそっちが優先されることもあるってだけの話だ。
実際やられたって話も聞くしな。
「――シドが妙に考え込んだ。話が長くなりそうだから要約してサクヤ」
「改造パルダスはお役御免なのに下手に廃棄すると技術盗用されるかも、って話」
「なるほど」
俺のクソ長いモノローグ、めっちゃ簡略化されてね?
まあサクヤの言う通りのことなんだけどな。
「でも格納庫のスペース的にはきつい、と」
「武器類も増えたからな。パルダス用のビームライフルとかもう使わないだろうなってのもあるし」
「既製品ならジャンクショップに売ればいいじゃない」
「まあ、そうなんだけどなあ」
「シドは捨てられないタイプか」
リオが痛いところを突いてくる。
「ていうか、ペイルライムの予備機として改造していけばいいじゃない」
「あ。そうか」
……俺が長文モノローグで語った悩みが一言で解決してしまった。
「で、リオ。本番はネオジャパングランプリだとして、その前に何か出るつもり?」
「ペイルライムのデビュー戦、か」
完成したのだから本番前に何かのレースに出す、ということもできるのか。
リオの技術が優れているというのはもちろんわかっている。
けれど、実際にこの機体をレースで使うとなるとどこまでできるかわからない。
勘を掴んでもらうために何かのレースに出てもらうのはいいかもしれない。
条件として近いレース。かつ出走した後整備する時間的余裕が十分に確保できるレースとなれば……。
「ウイングロードカップ」
と、リオのほうから言い出した。
ウイングロードカップ。セクション制のコースであり、スタートとゴール以外に陸地が存在しないロングコース。
コースはエーテライトフィールドで生成されたものを使用し、その上を各機が疾走する。
このレースの厄介なのは、トップがセクションを通過したタイムから一定時間が経過するとそのセクションに届いていないマシンは強制リタイアとなるということだろう。
早い話。コースが消失して、各機は地面に叩きつけられる。
「リスクはかなりあるレースね」
「ああ。けれど、ネオジャパングランプリもエーテライトフィールドコースなんだよ」
エーテライトフィールドコースの利点は、発振装置さえあれあどんな形状のコースであっても自由に作れるということだろう。
故に、空中というどこにも邪魔されな居場所で複雑なコースを生成することができる。
極端な話、街中にだってコースをつくっても問題ない。
空気中のエーテルを吸ってそれを力場として展開する技術なんて、どこの誰が思いついたのやら。
とはいえ、運用コストが普通のコースよりも高いせいでそうそう開催されるものはないのだけれど。
「通常の舗装されたコースと違って、めちゃくちゃ滑る。リオ、お前は出たことなかっただろ。だからそれに慣れてもらうという意味合いではいいかもしれない」
「ちょっと待った。もしペイルライムのタイムが悪くて強制リタイアになったら?」
「その時は、お前のシドニウム合金の強度テストに切り替えだ」
「うわー、プラス思考ー。でも修理するのはシドだから別にいいんだけど」
「でもその材料作るのはお前の仕事だ。まああれだ。リオ。やるからには勝ちを狙おう」
「勿論」
「だけど、一番は完走することだ。今回は勝つ必要はないレースだ、というのは覚えておいてくれ」
こくん、と頷く。
勝つ必要はないレース。
だが正直な話、だ。
エーテライトフィールドコースは出走登録に金がかかる。
その分リターンは大きいが、それでも負ければ修理費に加えて出走料払い損だ。
ぶっちゃけ表彰台圏内に入って欲しい。懐事情的には、ね。
「となればそのレースに向けて武器の調整もしないとな」
「間に合わなければ最悪市販のビームマシンガンでいい」
「ビームマシンガン、高いんだぞ」
結局、専用のビームベイヨネットを作った。
◆
そして、だ。ウイングロードカップの日がやってきてしまった。
今回出走するの大半の機体が個人所有。
元々このレース自体が大企業の参加を認めていない、中小企業向けのレースということもあり個人勢ももしかしたら、という希望を込めて参加してくることがある。
そういってしまえば世間的に重要視されないレースのように聞こえるかもしれないが、これでもIRRAの公式レースである。
コースはほぼほぼ直線。だがそのコース内にはヘアピンカーブが点在し、下手に加速をすればそのままコースアウトの危険も伴う。
何せエーテライトフィールドコースは基本足場しか力場が展開しない。故にコースアウトはイコールで墜落である。
例外はヘアピンカーブくらいで、直進させないように壁が生成されている。
まあ、ウチの場合はそれも関係ないんだろうが。
『――注目は今回新型機で参戦してきたシドファクトリーの機体、ペイルライムでしょうか。先日行われたベスティアトライアルレースにおいて革新的技術を発表した町工場の新型機は果たしてどのような活躍を我々に見せてくれるのでしょうか』
何やら言っているが、とりあえず注目度は高いようだ。
今回の出走マシンはバランスに優れるブリザードフォックス。
高火力の長距離ビーム砲を備えるフォーチュンウルフ。
軽量化しトリッキーな動きをするリトルデビル。
機動力に優れ、低空ながら飛行すら可能な大出力かつ軽量なブルースカイ。
パワーに優れ大型メイスを装備したシルバーナイト。
小型軽量で小回りに優れるムーンプリンセス。
厚めの装甲と多数の武装を有するも機動力も確保されたスマートギア。
そしてウチのペイルライム。
この八機によりレースが行われる。
勿論、レースはこの一回だけではない。俺たちよりも後に出走する組があと三つある。
「リオ、繰り返しになるが――」
「解ってる。完走が第一、ね」
コクピットポッドに座りハッチを閉じるリオ。
「ねえ、どう思う」
「どう思うったって……絶対何かやらかすだろアイツ」
そういう顔をしていた。




