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ブレードSコート  作者: 真
6/10

6.人の姿をしたナス


 私の朝は、眠りから覚めると、体を起こし伸びをするところから始まる。


「んー」


 私は、特段朝に強いわけではない。

かと言って朝に弱いわけでもない。

 ただ、普段の私は、もう少しテンションが低いだろう。

 でも、今日の私は一味違う。


 今日からマイアさんに、神気力の稽古をつけてもらえるのだ。

 嬉しくて、いつもより早く目が覚めてしまった。


 伸びが終わると、布団の上で丸まって眠るプニチを起こす。


「プニチ、朝だよ〜!」


「ンプ〜…」


 プニチはまだ眠いといった様子で目を閉じたまま体をよじった。

 そんなプニチを持ち上げ、床に置くと、シーツを手で伸ばし、掛け布団を綺麗に畳む。

 起きてから寝具を軽く整えるのは、昔からの習慣だ。


「よし!」


 床で眠るプニチを抱えて、下へ降りると、朝食を作るマイアさんがいた。

 朝食を作るマイアさんに元気よく挨拶をするのは、日課の一つになってしまった。


「おはよう!」


「おはよう。いつもより早いじゃないか。もう少しかかるから、顔洗ってきな」


「はーい」


 外の井戸へ向かうと顔を洗い、歯磨きをする。

 そのついでにプニチの顔も洗うと、プニチの目がパチリと開いた。


「ンプニュ!」


「おはようプニチ」


 顔を洗うと不思議と目が覚めることが多いけど、プニチもそうであるようだ。

 私は、ささっと跳ねた髪を水で濡らし、櫛を通す。

最低限、身だしなみを整え終えるとマイアさんの元に戻る。


「マイアさん、何か手伝うことある〜?」


「保冷庫からバターと牛乳取り出してくんな」


 この世界にも冷蔵庫のようなものはある。

 その構造は、少し変わっている。

 木でできた保冷庫上部に魔法陣の書かれた小さな棚があり、そこに魔石を置くことで保冷庫内が冷やされるようになっている。

 魔石の魔力によって、箱の中が冷えるのだ。


 魔法とは本当に便利なものである。


 私は、バターと牛乳を取り出すと、紙に包まれたバターはそのままテーブルへと置いた。

 それから、棚から二人分のコップとプニチ用の食器を取り出した。


「ナスって牛乳飲むー?」


「液体なら基本なんでも吸収するだろうよ」


「じゃ、ナスの分も用意しよっと」


 ナスもひとまずコップでいいかともう一つコップを用意する。


 マイアさんは、私が牛乳を入れたそれらをテーブルに置いたのを確認すると、ある頼み事をした。


「悪いがシノギ、裏の畑で寝ているナスを起こしてきてくれないかい?」


「ナスがまだ起きてないの珍しいね」


「今日のあんたが早いだけさ」


「そっか」


 家の二階には、二つ部屋があり、一つはマイアさんの部屋である。

 もう一つは、一応来客用の部屋だったらしいが、今は私が使わせてもらっている。


 ナスがうちに来た際に、私と一緒の部屋を使うことを提案したのだが

 “別にアタシは土に埋まって眠るから気にしなくていいわよ”と私の提案を突っぱねた。


 そうして、ナスは家の裏にある畑の土がふかふかで気持ちいいからと、そこで寝ているらしい。


 シノギは、早速家の裏にある畑に行き声をかける。


「ナス〜朝だ…よ?」


 ナスに向けた声が変に切れた。

 そして、私は肝を冷やすことになる。

 裏の畑で裸の女性が横たわっていたからだ。


「だ、大丈夫ですか!?」


 私がすぐさま駆け寄ると、頭のてっぺんが双葉のような形をした特徴的な髪型の深緑色のロングヘアーに、色白の肌、丹精な顔立ちをした女性が倒れている。

 年齢は、私より年上だろうか。


「んぅ…」


 目を閉じ土に突っ伏すように倒れていた女性が、小さく息を吐いた。


 よかった生きているようだ。


 急いで、マイアさんに伝えなければと私が家に戻ろうとしたところ腕を掴まれた。


「あさっぱらから、なにさわいでんのよ」


 聞き覚えのある声だった。


「え?」


 女性は、起き上がると、何も気にしないといった様子で欠伸をした。


「ふわぁ〜、んん、おはようシノギ」


「………おはようございます」


 え、何この人怖い。

 この異常な状況で普通に挨拶してくるし、何よりもなぜ私の名を知っているんだろう。


「なんだかあんた顔色悪くない?」


 女性が私の顔の前で手をひらひらと振る。


 私の体がカタカタと震え出す。

 この声、この話し方、頭の双葉、俄には信じ難いがこの女性はきっと。


「ナス?」


「なに?アタシの顔に何かついてる?」


「えええええええええー!!!!!?」


 私は、目玉が飛び出しそうになるのをなんとか手で押さえて阻止をする。


「うるさいわね…」


「あ、え、えっと、マイアさんからナスを起こしにくるように…って、え?え!?」


「そりゃ、どうも。あんたの大きな声のおかげでバッチリ目が覚めたわ」


 ナスが笑みをこぼす。

 ナスが眉を吊り上げて”大きな声出すんじゃないわよ”と怒らないとは、まだ寝ぼけているのかもしない。


 それよりも今私が一番気になるのは、服を着ていない点だ。

 私は、ナスから目を逸らしつつ発言する。


「色々聞きたいことがあるのだけども…なんで服着てないの?」


 ナスは、私の発言にとても意外だと言う顔をした。


「はぁ?土に埋まる時、服着たまま埋まると思ってんの…?今更、何顔赤らめてるのよ」


「それはそうだけど…」


 正直、マンドラゴラの姿のナスはダイコンのようなものだし。

 服を着ているダイコンの方が違和感かわあるし、何も身に纏っていなくても気にならなかったのだが、人型では話は別だ。

 いくら女の子同士だといっても、一糸纏わずの姿を見るのは、気恥ずかしいものがある。


「あれ…?どうしてアタシ人型に!?」


 ナスは自身の姿を見て、目を見開くと、すぐさま体を捩り、手で自身の体を抱きしめるようにして前を隠す。

 顔を真っ赤にして、昨日とは全く別人のような、羞恥を孕んだ隠し方をした。


「あの…ナスさん…?」


 体を隠しつつ、ナスは震える声で言った。


「ふく…服―!」


「ちょ、ちょっと待ってて」


 顔を真っ赤にして、目に涙を溜めて叫ぶナスに緊急性を感じた。

 シノギは、急いで家に戻るとマイアさんが私にくれた服を持つ。

 そして、慌てて家から出て行った。


「朝から元気で結構なこったね…」


「ンプニュ」


 マイアとプニチは、シノギがドタバタと出て行った扉を見つめた。


 私から服を受け取ると、それをナスは早急に着込んだ。

 それから地面に突っ伏し、ひどく絶望した、まるでこの世の終わりだという顔をした。


「み、見られた…もうお嫁に行けない…」


「いや、そんなに気にしなくても」


「あんたは、お風呂以外で他人に裸を見せるわけ!?それも外よ!?畑で裸を見せることがあるわけ!!!?とんだ痴女じゃない!!!!!」


 ナスに至極真っ当なことを言われてしまったが、シノギはなんとかフォローしようと試みた。


「それは…うん。でも、出会った頃も服着てなかったし」


「あれは、植物の姿だったから、まだマシなのよ。だからといって裸を見られるのはあまりいい気分ではないけどね。アンタ、野菜が服を着てなくてもおかしいと思わないでしょ。でも人が服着てなかったらおかしいと思うでしょ。そういうことよ」


「ごもっともでございます…」


 植物族の中でもそういう認識だったんだ。


「でもなんで人の姿に?」


「ここでの暮らしに慣れて…油断していたわ…。結界内で住む前はこんなことなかったのに。ここは…外敵もいないし…見る人なんていなかったし…」


 要するに気が抜けていたというところだろう。

 ナスにも可愛いところがあるのだと思った。


「ところで、どっちの姿が本物なの?」


 植物の姿と人の姿、どちらが本来の姿なのだろうかふと気になったので、聞いてみた。


「どっちが本物って、どっちも本物のアタシよ。植物族ってそういうものだしね」


「どういうこと?」


「私たち植物族は、基本的に外にいるときは、人型なのよ。ただ、普段土に埋まって、土に含まれた養分を吸収したり、眠る生活しているの。人間の姿で土から養分を吸収することはできないけども、植物の姿になれば、土から養分を吸収できるのよね。それに土に埋まっていれば、保温性と安全性がそれなりに確保できるもの、眠るにはうってつけよ」


「へ、へー」


 ナスがため息をつく。


「はぁ…アタシは顔というか…全身洗ってから行くから、先に行ってていいわよ。服も洗ってから返すわ…。起こしに来てくれてありがとうね」


 植物族の話をしている時に、少し気が紛れたかと思ったが、未だに裸を見られたことを気にしているようだ。

今はそっとしておいた方がいいのだろう。


 私が家に戻ると、すでに料理が並ばれたテーブルを前にして、マイアさんが席についていた。

 食事に手をつけていないあたり、私たちのことを待ってくれていたのだろう。


「なんだかバタバタしていたけど、なにかあったのかい?」


「待たせてしまってごめんね。うん、ちょっと色々と…」


 マイアさんは、ふわりと笑う。


「そうかい。別に、食事はみんなで摂るものだからね。気にしなさんな」


 マイアさんは聞いてきたものの、大方何があったのか察しているのだろう。

 私は、頬をかきながらマイアさんの向いの席に座る。


「おはよう。待たせて悪かったわ」


 それから少しして入ってきたナスは、人の姿ではなく、見慣れたマンドラゴラの姿になっていた。

 服も着替えたようで、浴衣姿に変わっていた。


「おはよう、ナス」


 マイアさんは私の時と同様にナスに挨拶をした。


 全員が食卓につき、朝食の準備が整った。


「さて、全員揃ったことだし、いただこうかね」


 マイアさんはそう言って、手を合わせる。


「それじゃ、今日の食材に感謝を。いただきます」


「「いただきます」」


 この世界の食事の号令は、日本に住んでいた時とそんなに変わらない。


 食事開始早々ナスは、手を牛乳に入れた。

 するとコップの中の牛乳はゆっくりと量を減らしていく。


 なるほど、こんな感じで土の中でも吸収しているのか。

 その光景を見ていて、私はあることを思った。


「思ったんだけどさ。これは土に含まれてるわけじゃないから人間の姿で飲んだ方がいいんじゃない?」


 ナスは、目を細めて、眉を下げ、私に一体何をいっているんだという顔をした。


「アタシはずっとこうして食事を摂ってきたのよ?それを今更変えるだなんて…でもまぁ一度試してみてやらないこともないわ」


 試してくれるんだ…。


 突然ナスのまわりに煙が出てきてナスの姿が見えなくなってしまった。

 今度は一体なんだろうか。

 驚きはしたものの、それを顔に出さないように見守る。


 煙が晴れると、人の姿をしたナスが現れた。

 不思議なことに、服は人の大きさのものへと変化していた。

 なんだか妙な色気を放っている気がする。


「そんな簡単に変われるんだ。あと服…」


「魔力の流れを少し変える感じを意識すれば、この通りよ。服はマイアに特殊な魔法陣を施してもらったから、そこに魔力を流し込めば好きなサイズに変化可能よ!」


 本当に魔法って便利だな。

 というかマイアさんは一体何者よ。

 なんでも出来るじゃん。


「では早速」


 ナスは、目の前のコップを持ち上げ、牛乳を口に含んで飲むと目を見開いた。


「な、なによ…これ」


「…やっぱり慣れないことをするのは体に負担が」


 私は、ナスの体を心配した。

 しかし、そんな心配は無用と言わんばかりに、ナスは嬉しそうに笑った。


「なによこれ!とんでもなく早く吸収できるわ!!すごいわよ」


 そう言って、あっという間に牛乳を飲み干してしまった。

 シノギはナスの体調面に何か悪いことがあったのではないと分かると、安堵の表情を見せる。


 同様に二人のやりとりを穏やかな表情で見守っていたマイアが口を開く。


「シノギ、ナスが姿を変えたときに魔力の流れがと言ったろ?」


「うん」


「神気力でも流れを感じ取ることが大切なんだよ。食事が終わったら早速修行開始といこう」


 マイアの言葉に、シノギの緩んだ顔つきが真剣なものへと切り替わった。


▽△▽△▽△


 朝食を終え、私とマイアさんは外に出た。


「さて、それじゃ早速、これから神気力の流れを掴む修行をするわけだが、本当にその服でやるのかい?」


「本当は、剣道着が一番気合が入るのですが、あいにくこの場にはないので…次点で気合の入る制服です!」


「なるほど。気持ちは大切だからね」


 マイアさんは、頷きながら、倉庫から持ってきたという二つの蝋燭のうちの一つを私に渡した。


「これは、神気力が燃料となる特殊な蝋燭だ」


 マイアさんは、蝋燭を上へ投げては掴んでを繰り返して説明を始めた。


「上手く神気力を流せば火が灯る。こんな風にね」


 マイアは、投げていた蝋燭の火口部分が上に来たタイミングで掴み、まるでライターの回転式ヤスリを回すように火口部分を指の腹で擦る。

すると擦られた火口部分に火がついた。


「おぉ…」


 私は、その鮮やかな所業に素直に感嘆をあげてしまう。


「三日だ」


「三日?」


「三日で火をつけな」


 マイアさんはあっさり火をつけていたけども、絶対これ簡単に出来るようなものじゃないでしょ。

 私は苦笑しつつ尋ねた。


「ちなみに通常は何日かかるのですか…?」


「三ヶ月はかかるね」


シノギの顔が引き攣る。


「それを三日だなんて…ご冗談を…」


「安心しな。あんたがどれだけ無理しても大丈夫な準備はできている」


 あ、この人本気だ。

 本気で言ってる目をしてる。


 蝋燭だけでなく、マイアの瞳にも火が灯っていた。


 何はともあれ、ひとまずやってみるしかないかとシノギは、深呼吸した。

 それから今日まだ結んでいなかった髪を、いつものように後ろで一つにまとめて結ぶ。


 マイアに触発されたのかシノギの目にも火が灯ったようだった。


「いや、目じゃなくて蝋燭に灯すんだよ」


 マイアの一言によって、せっかく整った空気が乱れるまで、あと5秒。

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