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レンとミクの双子の日常


「日常生活に潜む謎を解き明かすのが探偵の仕事ならば、事件を作るのは私の仕事っ!」


 レンは、コージ・ミステリの和菓子の本を、本棚に戻す。妹のミクは、そんな姉の言葉を無視して、ベッドに腰掛けたまま、館モノを読み進める。


「そんなファンタジーで怪奇な事件、起きないよ。現実に潜む本モノの謎を追い求めようよぉ〜」


 レンは、どさっと、ミクの太ももに頭をのせる。サワサワと両腕で脇を撫でられて、ミクは本に栞を挟んでベッドに置いた。


「お姉ちゃん、わたし読書してるんだけど」

「わたしは終わっちゃった。速読って便利だよね」

「そんなスキルはわたしにはないから。一人でお外で事件を探してきてね」

「チッチッチ、事件を探すより、事件を作る方が簡単だって、よく言うでしょ。待っていても、事件は起きないんだよ。事件の方から、寄ってきてくれるのは、小学生までだよ」


 はぁ、とため息をついて、ミクは、太ももの障害物を寄せて、立ち上がる。ゴロンとレンは、重力に任せて寝そべってしまう。

 

「それで、何がしたいの。暗号でも作るの?」

「そんな面倒なことしたくな〜い」

「じゃあ、なんかネットで拾う。適当に謎解きっぽいーー」

「わたし、ナゾナゾを求めてるわけではないよ。もっと芳醇で新鮮な味わいのあるリアルなナマモノな謎が欲しいの。上質で舌の上でとろけるような脂身がいるの」

「なるほど……」

 

 ミクは適当に相づちを打ちながら、ベッドの本を手に取って、小説の世界に戻ろうとーー。


「ちょっ、人と話をしている最中に読書したらダメってお姉ちゃんから習わなかった」

「……うーん、記憶にない」

「じゃあ、今習ったということで。でねでね、わたし、事件を演出したいわけなんだよ」

「それは分かったけど。それで具体的には?」

「そこは、探偵と一緒に考えーー」

「自演乙。完全なるヤラセじゃない」

「新しいミステリだよ。探偵役と犯人役が結託しているという」

「絶対、もうやった人いるって。それに探偵が犯人はタブー」

「ええ、双子だし、いいじゃん。タブーはね、破るためにあるって、お姉ちゃんから習わなかっーー」

「同じギャグを繰り返してはならない」

「それはサーストン」

「謝ってないよね」


「事件を製造、もとい捏造するために、ミクはどうしたらいいと思う」

「事件ねぇ、トイレの水が流れないとか」

「それは乙女の事件だよ。ホラーだよ」

「体重が、5キロ増えた」

「それは、もうやった」

「やられたねぇ」


 わざと太ったかのように見せる体重計事件は、すでに解決済みだ。主に、犯人の軽挙によって。


「最近、コンビニに現れるおかしなコスプレの二人のーー」

「それはわたしとソーヤ。たまにお姉ちゃん含む」

「この世の謎は、全て解明済みなのかなぁ」

「謎でもなんでもないし。というか、お姉ちゃん、自分で作るんでしょ」

「じゃあさ、学校の七不思議作りに行こうよ。絶対必要だって」

「お姉ちゃん、だから、それはホラーなんだって」


 ミクの言葉を無視して、レンはミクを引っ張っていった。普段は運動なんてしないぷよぷよな姉だが、こういう時だけ活力が湧いている。

 ミクはしぶしぶ、休日に学校へと出向くことになった。

 わざわざ制服に着替えてーー。


「さて、どこに仕掛けるか」

「定番なのはトイレの花子さん、音楽教室の無人で弾かれるピアノ、理科室の動く人体模型とか」

「ありきたりすぎる。それで新人賞取れると思ってるの」

「そんなことカケラも思ってない」

「設定がだいじなんだよ。設定が、ねぇ。人っていうのは、未知のものに恐怖するわけよ。けど、その未知のものにも、起きる理由っていうのがあるの。それが妖怪なわけで。だから、妖怪を作らないと」

「うん、途中からわけがわからないけど。日常の謎作りが妖怪作りになったことはわかった」

「分からない現象に、こじつけを付ける力こそ、脳の本質だよ」

「大脳で成長が止まってそう。で、どうするの」

「うーん、桜の木の下にーー」

「私のありきたりと同レベルじゃない」

「思考っていうのは、いきなりギアを上げれないの。文句ばかり言わないの」

「お姉ちゃんが先でしょ」

「そうだっけ。まぁ、いいや。突然、姉にキレる妹、いやいやミステリだよ。いや、妖かーー、あ、ちょ、拳おろそ。冗談だって」

「もう、ふざけすぎ。いつも、そんな調子なんだから」

「お調子ものだからねぇ」

「だからねぇ、じゃないです」

「怒ると、シワが増えるよ。ほら、にっこり笑顔。ニコォー」

「……それで私たち、どこに向かってるの」

「開かずの屋上だけど」

「それは、ただ先生が鍵かけてるだけでしょ」

「鍵開けは、探偵の基本だよ」


 レンとミクは、屋上の前の扉までくる。


「えっと、お姉ちゃん、まさか、本当にピッキングするつもり。バレても知らないよ」

「ミクが教唆したっていうから。双子は道連れだよ」

「わたしは止めた。お姉ちゃんは聞かなかった」

「もっと本気で止めてくれたら、わたしも思いとどまったんだけど。具体的には、24時間モフモフ券とかで」

「交渉は決裂しました」

「はーい。よーし、開けるぞー」


 ガチャーー。


「えっ」

「さすが、わたし、タイムは1秒を切りました。さす姉と呼ぶが良い」

「お姉ちゃん、鍵持ってるの」

「冷静すぎ。ーーさて問題です。どうしてわたしは学校の屋上の鍵を持っているでしょうか」


 レンのスカートが風に捲れる。


「お姉ちゃん、あのね、解けない問題は出したらいけないんだよ」

「ミクちゃん、諦めたら、そこで推理は終わりだよ」

「ソーヤのお父さん」

「……」

「なに、固まってるの」


「探偵は、偶然や第六感によって事件を解決してはならない」

「って、何。当たってるってこと。え、なんで持ってるの?そっちの謎が気になるんだけど」

「ミクちゃん、妹には、まだ早いと思うんだ」

「意味深にしないでよ」


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