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省略の緩急


 語りは、全てを話しているわけにはいきません。時間は有限だし、聞き手の注意力と記憶力にも限界があります。

 ありとあらゆる細部を、神は細部に宿ると、描写していれば、紙面は黒く埋め尽くされ、本は鈍器の分厚さを獲得し、ミステリのトリックにでも使われる物体になるでしょう。


 しかし、逆に、何も語らなければ何も伝わりません。何もかもを省略してしまえば、沈黙は金ですが、しかし、金ピカは、ただの虚栄心のプライドから来るもので、書く筆を取らない自称作家の誕生です。

 沈黙の金ではなく、雄弁の銀の方が、作家としてはマシというものです。

 まぁ、散文精神を胸に、銅こそが、目指すべきものですね。


 省略は、しなさすぎると、クドくなり、やりすぎると意味不明になる。たいがいの描写の分かりづらさは、省略の程度の悪さにある。語彙力や文章力という面も影響が大きいですが。


 エッセイ集の前話を見てみよう。『詠唱魔法が衰退した世界で、僕は詠唱をやめない』ですね。これは、なんとなく詠唱魔法のアイデアでつづった小説です。読むに耐えないものですね。




《「詠唱魔法は、古典魔法と呼ばれ、すでにその役目を終えたものです。もうほとんど使われることはないでしょう」


 学園の講師の言葉を聞きながら、俺は驚きを隠せないでいた。500年前の前世の記憶を持つ俺からすると、詠唱を破棄するメリットを、ほとんど思いつかなかったからだ。》




 こんな始まり方をした挙句、さらに、まだ講師の長文が続き、そして、主人公の説明セリフのような心内文に行きます。我ながら、ひどいストーリーテリングだ、あはは。


 この描写は省略すべきでないものを省略していますね。基本的に、場所が不明すぎます。学園の講師がいるから学校の一室だろう、と解釈を期待し、さらに、どのレベルの学校かも解釈に期待しーー、講師の性別も何の授業なのかも不明。


 当然、省略していいものはあります。天気とかね。これが省略されていることに怒る人はいないだろうし、強いていえば、日時も省略できそう。

 しかし、主人公の年齢層も予測できない。高校生、大学生、いまいち分からない。省略のしすぎなのです。


 ストーリーにすぐに入るべきですが、しかし省略しすぎると、読者の描写が不可能になります。読者に、想像の自由を預けることが小説の良さですが、想像のとっかかりを与えないことはまずい。講師の性別も、セリフの内部に埋め込んだり、ちょっと女性らしい男性らしい描写を入れたりすると良い。この講師の描写を細部にわたってする必要は微塵もないけど、「ちっこい合法ロリ教師がーー」とキャラ付けしながら描いてもいい。この程度が限界だけど。筋肉の張り具合とか髪の色・長さ、ネイル、体重、瞳の色、二重か一重か、鼻の形ーー、バカらしいことは描かないでいい。そこは読者の想像の翼の羽をむしらずにおこう。


 必要限度の描写というものがあります。部屋を描写しても、窓の位置とか日光の向きとか、いらない描写はいっぱいです。

 もちろん、作品の雰囲気作りや、ちょっとした遊び心、全体の文章バランスとかを考えて、省略しない手もあります。

 描写は、読者の負担にならないようにしないといけません(文章・文体で魅せたいというならば別ですが)。ストーリーを滑らかに追わせるためには、描写が不十分だったり過剰だったりすると、読む側はストレスに感じます。



 

 セリフから入ることのマズさは、省略されている性別や年齢、状況を確認して、戻る必要を読者に与えるからです。誰が言っているのか、状況はどうなっているのか、分からない文章は、喫茶店で他人の話を横から聞くのと同じで、ストレスとなりますね。もっとひどいのが、ケータイ電話の会話悪さ聞く時ですね。相手側の会話を省略しているわけです。このストレスは、なかなかです。人は自動的に想像をし、会話内容や背景を補おうとしますが、困難であることがほとんどです。省略のしすぎですね。


 あと、蛇足ですが、一人称を省略も、古典からの伝統ですね。一人称をわざわざ記す必要はほぼないです。だから、基本的に省略します。ええ、省略できるものは省略した方が、読むのも楽ですから。文末の敬語から主語を導くという逆現象を、高校生でしますが、きっと昔の平安貴族はまっすぐ読んで、明確に主語は分かったのでしょうね。




 最大の省略は、説明です。説明してしまえば、自分が伝えたい情報をピンポイントで、効率的に伝えることができます。

 まぁ、デメリットは、説明しては、ストーリーにならないということです。説明は、あっという間に、時間や場所を通り越していけますが、世界史の教科書を読んでいるわけではないのだから、説明は、ほどほどに。

 『彼女は恋に落ちていた』と書くより、『頬を赤らめてうつむいた。グッと手のひらを握りしめて、喉がわずかに動いてはいる。何かを言いたそうにしているーー』とか書いていかないと、芸がない。そもそも説明すると確定してしまうし、だいたい時間の流れの感覚も消えますし。




【描写ー場所、人、行動、心】

 何を描写して、何を描写しないか。

 それはストーリーの必要に寄ります。街をどれくらい詳しく書くか。部屋や宿や売り物や絵画や銅像ーー、場所や空間を占めるものをどれくらい描写するか。

 描写する方が、読者を楽に小説の世界に導けるのならば、描写すべきですね。人の場合、性別や年齢層も書かれない人物は、想像の方向が定まらず負担です。少女なのかおばさんなのか、老人なのか、おじさんなのかも分からないのは大変です。

 声の描写は結構、省略できます。どんな声かは、漫画とかでも書かないで十分ですし。結構、声のイメージは自由です。まぁ、描写するのが難しいですし。アニメになると、声のイメージが違うという意見が頻出。

 髪色とかも描写しないときはあります。現代ならば黒で普通だし、ラノベ的な紫や水色の髪のカラーでも書かない場合が多いし。髪色の想像も読者に放置できます。髪型は書いた方がいいかもですが。

 キャラの人数が増えると区分けもいくつか用意しないと。目立つアイコンでも使って。


 まぁ、身体は意外と無視されがちです。というか、そこは、やっぱり読者の思う理想の像に任せるのが早いですから。胸のサイズも大中小で十分ですよ。というかカップサイズなんて書いても男性は正確にはイメージできないし。ぼんやりとしたイメージで十分ですね。

 もちろん書いてもいいですよ。こだわりがある場合がありますし、こだわりのない作者なんて、全部省略しちまえデス。お椀型でハリと丸みがあれば、だいたいバスト描写なんて終わりだと思っている層もあれば、そこに心血を注ぎ、官能用語辞典の1ページを得たい人もいるでしょうし。

 

 基本は、ステレオタイプ化した身体像を与えれば、いいですよ。読者を信頼してーー。

 重要な身体部位でなければ。



 アクションも省略はします。

 キンキンキンキンキンーー。

 いいじゃないですか。別に、これぞ省略の美学です。

 バトルシーンなんて、小説より映画の方が圧倒的に迫力があるのだから、バトルは省略。

 漫画的な効果音で、スッと想像を読者に任せてしまおうぜ。

 重厚に書いてもいいですよ。『86』とかなかなかに長いですよね。『アサシンズプライド』も長い巻あったなぁ。『スパイ教室』とかは、少し短いのかな。難しいところ。

 当たり前ですが、シーンにも寄りますからね。



 描写で、心内描写を無視してましたが、きっと、この緩急が一番難しいです。行動の描写からも内面は現れますが。

 まぁ、頑張りましょ。

 これについて、言えることはない。感覚的すぎて。

 あまり狂人や精神疾患のある人のようにせず、共感を持てるように、描写しようとか、ですかね。(小説に寄りますが)

 省略しすぎると、意味不明な人になるし、書きすぎると、ひどく内向的にもなるし。方向性が定まらないとウジウジしているラブコメの男みたいに。

 まぁ、キャラに入り込めない時もあるので、思い切り内面を描写してみたり、誰か現実の人をモデルしてみたりするといいかもぐらい。



 描写と省略のバランスは、読者の想像力をきちんと羽ばたかせるように、あまり描写しすぎると読者を信頼していないかのようになるし、想像の羽を折ってしまう。

 作者の小説のイメージする世界を、できるだけ容易に読者が体験できるように。

 読者と作者がである境界線上に、小説が立ち上がるように。

 あまり押し付けても読者は疲弊してしまう。でも、何も伝えなければ小説は浮かんでこない。

 

 


【雑記】

 何もかもを描こうとする描写厨、何もかもを省略してしまい書くことがない省略厨。

 省略厨は、書くことが決まってない、設定、プロットやストーリーのミスだと思いますが。この場合、いくらでも書ける風景描写に逃げてしまうときも。だって、ストーリーに関係ないもん。

 

 「べき」や「だ」とつけると、命令や断言が強すぎて怒る人もいるけど、全部に推量表現をつけたりすると美しくないので、省略する。「ーーとわたしは思います」と毎回は付けないように。


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