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She is a robotーー僕の幼馴染がアンドロイドだった


 水無月エリンは、優しくて誰にでも人気がある学校の正ヒロイン。裏表のない性格、眉目秀麗、スポーツ万能、頭脳明晰ーーおよそ非の打ちどころはない。

 しかも、この両親は世界的に有名な科学者で、かなり裕福な家庭だ。


 そんな完璧超人でエリート街道のど真ん中を平然と歩いていけそうな彼女に対して、佐藤ユウトは平々凡々、並々と注がれる『並』の文字、パッとしない顔立ち、平凡な肉体、凡人の頭脳ーーよって、平民街道を顔を斜にして歩くのがお似合いのはずなのだ。


 両者の道は限りなく遠く、交わることは、もう、ないはずだった。



 きっかけはーー、交通事故だった。


 水無月エリンが、登校中、軽く車と接触して倒れた。その時は、全然問題ないとされたが、心配した彼女の両親は一応病院で診てもらった。その診察の時、彼女は突然意識を失った。原因は、不明。

 今も、彼女は、ずっと病院のベットの上で、意識を失っーー。


「佐藤くん、空を見つめてどうしたの?」

 

 佐藤ユウトは、教室の自分の席に座ったまま、顔だけを向ける。

 水無月エリンの顔をした少女。容姿端麗な日本人離れした顔立ちの才媛。

 彼女はエリンの双子ではないし、ましてやエリンの幽霊でもない。

 ーー彼女は、ロボットだ。


 幼少期から小学生ぐらいまでの水無月エリンの記憶と知識をインストールされて、中学生や高校生の常識や知能レベルまで引き上げた機械人間。彼女の両親が作ってきたものの試作品。


 なぜ佐藤ユウトが、この彼女の相手をしているかというと、病院へクラス代表としてお見舞いに行ったからだ。担任のご命令に従って、病室に行った。そうしたら、佐藤ユウトは、アンドロイド実験のお付きの人となったのだ。水無月エリンの両親はなかなかサイエンティストのようで、これ幸いと実験をすることにしたらしい。まだ意識が戻らない娘は、治療のために海外に行っているらしい。


 詳しいことは、そこまで知らない。

 とにかく、このロボットの水無月エリンを、普通に学校に通わせて、周りにバレないようにすればいい。報酬も貰えるし、ぱっと見は水無月エリンと同じく美少女だ。なにも文句はあるまい。


「なんでもない」


「なんでもないのに、空を見上げるの」


「そうだが、なあ、俺を覗き込んで楽しいか」


「照れてるんですか。少し顔が赤いですよ」


 水無月エリンと僕との関係は良好だ。小学生の頃は一緒に遊んだりしたい仲だから。そして、ちょうど、今の水無月エリンの記憶には中学、高校の記憶はない。僕との気まずいような、どっちも知らないふりをしていた記憶はない。だから、周りから見たら、どうして僕と水無月エリンが仲良くなったのか、不思議がっている人は多い。


「水無月、僕は君に協力をすると言ったけど、いつも近くに来られると、周りの目がーー」


「でも、近くにいないと、もしもの時に困る」


 もしもの時ってーー、今まで見ていたけど、バレる気配なんて微塵もない。というか、僕も彼女がロボットかどうか分からないレベルだ。もしもロボットだと言われなかったら、そのまま水無月エリンとしてみていただろう。それぐらい精巧にできている。

 正直、少し興味が湧くレベルだ。全身を調べてみたくなるくらいに。

 でも、手を触っただけで真っ赤になり出すからやめた。全く、思春期の女子の反応を、敏感にしすぎだ。罪悪感というか、いかがわしいことをやっている気分になるからやめてほしい。


「そういえば、私の記憶の中では、あなたと私は、結婚の約束をしているようですが」


「は?いつ、どこでーー」


 身に覚えがない。そんな法的な契約を理解していた年ではないだろうに。


「タコの公園です。相合い傘もかいたはずです」


「ーーーー…………」


 あ、なんか思い出してきた。

 たしか水無月エリンがタヌキを見つけたとか追いかけていくから、道に迷って、公園の奥に入ってから戻ってくるのが遅くなったんだ。それで、ちょうど雨が強かったから、タコの滑り台の頭の中に隠れてーー、何故かせがまれて、落ち着かせるために、そんな約束をした気がするぞ。

 昔の僕ーー、女の子を泣き止ますために、結婚を約束する。美人局(つつもたせ)や結婚詐欺に引っかかりそうだな、僕。


「時効だ」


「いえ、わたしにとっては、つい、この前の記憶なので」


 なるほど、タイムスリップとかができるSFだと、時効の概念が変わるように、アンドロイドも同じようにーー。いや、よく分からないけど、まあ、アンドロイドとは結婚のできないから、放っておいていいだろう。


「わかったわかった。結婚の約束をした」


「時効ではないですね」


「うんうん」


「では、正式に婚約者ということで、高校卒業後、籍を入れましょう」


「うんうん」


 こうして、ぼくはアンドロイドと婚約した。


「じゃあ、キスしてくれますね」


「それは、ちょっとーー、まずいというか、男心というか、水無月さんに悪いというか」


「え、してくれないんですか。婚約者なのにーー」


 落ち着け。

 これは機械パーツ。良くても生体のバイオ的な素材なんだ。

 彼女の皮膚は人工で、当然唇のその艶やかな光沢は油なんだ。愛車にキスをするように、そう、簡単じゃないか。俺は機械に恋に落ちたりしない。


 柔っーー、柔らかい。

 温かい。

 そして、なぜかレモンの味。柑橘系のリップクリームか。


 てか、ここ、教室。

 周りが凄まじいものを見たという目になっているんだけど。

 ただ、そんなことよりもーー。

 唇を離した瞬間に聞こえた言葉。


「実はわたし、人間」


 え、まさか、本人!?

 アンドロイドというのは嘘っっっ!?


「えーっと、僕は、キミが、機械でも、愛している」


「なんで、そんなにカタコトなの」


 どうやら、僕の方がロボットになりそうです。


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