素人文体練習ーー文体を学ぶためにできること
1。
本を数冊、準備する。
5ページずつ順番に、適当に読んでみましょう。
冒頭からでもいいですが、冒頭はプロローグで特殊な場合もあるので一章の始まりから読むといいかもしれません。
こうやって、利き酒の如く、5-10冊ぐらいをバラバラと数ページずつ読むと、文体の違いが理解しやすくなります。食事と一緒です。飲み比べとか食べ比べは、比較によって成り立ちます。記憶に頼ってもいいですが、現物をすぐに見た方がいいです。
同じ本をずっと読むよりは、効率的です。同じ本ばかりを読んでいると、あまり文章に意識を向けられなくなるので。ストーリーが楽しくなってきて。
数ページなので、音読してみてもいいですね。
注意点は、気分に任せて、ストーリーのいいところまで読もうとかしないことですね。きっかりと決めた量でやめておいた方が、文体に注目できます。
2。
暗唱。
これは、かなり効果的です。文章を暗記していないとできないので。
これも、5ページと言いたいですが、難しい場合、見開きぐらいでいいです。その本で、最もオーソドックスと思われる見開きを暗唱してみればいいと思います。
3ページぐらい読んだ方がまとまりがある時もあるので、見開きと少しぐらいでもいいですね。
暗唱が効果的なのは、結局、文体をモノにするためには、記憶するしかないからです。最終的には、感覚で文体を操作できるようになるのが目標でも、取り入れるときは、自覚的に摂取するしかありません。
また、暗唱は、キャラクターの気持ち、思考の流れとかも、理解しやすくなるので、そういう点でもオススメです。
この心内分で、この単語を選ぶ、この文章の次に、この文章を、という自分の内省では使わない文を頭で使う行為は、有益だと思います。暗唱のズレで、自分の文体の癖が分かります。
3。
模写。
これもいい方法です。普段、注意がいっていない細かいところが分かります。
ただ、あまりの苦痛に、写経のように書き写す作業になる危険があります。
外国語の勉強をしているように、一字一句気にしましょう。模写は近視眼的になりやすく、ストーリーを気にしなくなるので、文体を見る上ではいいですね。
全文模写は短編ぐらいでやめましょう。長編全文模写は、よっぽど好きならば、やってもいいですが、集中力と時間的に2、3度が限界ですね。
長編も20ー30ページぐらいでいいと思います。小説にも基調があるので、この人はこういう単語や漢字変換をしないとか、ーーや『』、()、……の使い方とかもわかりますね。
4。
音読。
一章分もしくは最後まで音読してみる。
ボイスレコーダーも準備しておいて、録音してもいいです。せっかく大変な作業をするのだから、オーディオブック化して、あとで聴いてみましょう。
音読のメリットは、文体というより、段落の理解にあります。録音を聴いていると、段落の意識が明確化しやすいです。
音読する本は、声で話されることを意識している文章にするといいです。そうすると文のリズムが分かりますね。
記号を多用したり、漢字の多い文章は、声よりも読まれる際の視覚的効果を狙っている場合があるので、注意。
分かりやすいのはーー。
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ」
「あかい赤い紅いアカイ緋い朱いーー」
とか、紙一面に、行全体に、同じ文字、似たような文字を使う文、特殊なルビの多い文は、声よりも、視覚優先です。
当然、文字の見映えは、重要な項目ですが、音読向きではないです。
5。
二度目、三度目と何回も読んでみる。
時間をあけましょう。すぐに読み返すと余韻が残りすぎていますし、やはり文体よりストーリーに注意が向きます。
一週間後、一ヶ月後と決めて、読み返してみるといいでしょう。
気分で読み返すより、いつ読み返すか決めておく方が、文体を見る上ではいいと思います。気分で読むと、読み返したいという気持ちが強くなっているので、物語世界に入りすぎる可能性があります。
ただストーリーを知りたいとかの場合、読み終えると、すぐに、どこが面白かったか、どのセリフが良かったか、どんな構成だったか、などをすぐに思い返した方がいいと思います。
あとは、例によって、ストーリーを3行で書いてみるとか、時系列展開してみるとか、でしょうね。まあ、シナリオ系の本が優秀なので、そちらにお任せします。シド・フィールドとかロバート・マッキーとか。
6。
多読。
特に言うことなし、でいいかな。
方法というか、もはや、ただの習慣ですね。
斜め読みはやめた方がいいです。文体勉強の上ではーー。
まあ、多読していると、気分で斜め読みしてしまう時がありますが。風景描写や長すぎる戦闘シーンやストーリー上不必要に思える部分とかーー退屈だと感じているのでしょうね。
7。
書くこと。
試しに、自分が書きたい文体で、何かを書いてみる。
なんでもいいです。
できれば、何を書くかテーマが決まっている短編で、文体を試すのがいいです。他のことをあまり考えなくてすむので。
文体は、書簡体や新聞文体とか分かりやすい文体から、作家ごとの微妙な違い(漢字の量や句読点の使用頻度、よく使う語句、書くときの順番、比喩の使い方、段落の分け方、一文の長さなど)まであります。
正直、どこから文体で、どこからが作品上の必要なのかと呼ばれたら分からない時もありますが。
例えば、SFの文体は、SFの作品上の必要がかなり色濃いですし、その作中の独特の言葉が、かなりの文章量を占めている場合もありますので。それを含む文こそが文体とも言えるわけですが、ただのノイズだと判断もできます(です/ます調とかを文体の一つとしてみるような、大きな視点から見れば)。
文体と作品の個性が強く結び付いていると、その文体で書いてみるというのが、難しく感じると思います。漫画で言うと、ワンピースの絵柄でドラゴンボールを書いてみようみたいな困難ですね。
まあ、漫画のアンソロジーの方が分かりやすいでしょうか。アンソロジーは、まさしく同じキャラを別々の漫画家が描くわけですから。結構、嫌な人は嫌らしいですね。キャラクターのタッチが違いすぎるので。ある読者にとっては、画風と作品が結びつきすぎているのですね。
最終的には、文体とは比較により理解されています。
文体を決定づけるものは、他との差異ですね。
ーー当たり前ですね。
ですから、文体を知る上では、とにかく多様な作品に触れて、比較検討するしかありません。
一つの小説だけを前にして、文体を理解しようとするより、誰か別の作家の小説を準備して、比較してみた方が分かりやすいです。一つの小説を前にしている時も、記憶の中の文章を比較対象にしていると思いますが。
会話のラノベ風文体を羅列してみると。
1、つっかえ、いい淀み、言い直し、問い返す
「え、えっと……」
「そ、そうなんだけど、そうじゃなくてーー」
「ん、なんて?」
2、聞き違い
「ふぇんたいのほぅい」
「変態の掃除」
「見解の相違!!」
3、最後まで言い切らない
「違っーー」
4、特徴的な語尾やオノマトペ
5、ーーや……や()などの記号の多用
とかですかね。まあ、もう少し、ノリツッコミのような文章や、短い文の繋がりとか、漢字は少なめ、もしくはルビが多いとか。会話が多い、情景描写少ないとか、視覚重視の文章とか。段落の区切りが多い。
会話以外の文体の特徴もバラバラと思いつきますけど。