HAO
『そこに、ラブはあっても、愛はない』
20××年、『ハートアートオンライン』、通称HAOが発売された。世界初のフルダイブ型恋愛シミュレーションゲームだ。
100台限定生産のVRギャルゲーを手にした猛者たちは、今、かつてない挑戦を受けていた。
『わたしは、このゲームの開発者兼非モテの百手薙伊だ。まことに勝手ながら、君たちは、このゲームをクリアしない限り外の世界には帰れなくなった。このゲームに登場する8人のヒロインを見事攻略してみせよ。また、一度でも女子に振られた場合、君たちのチンケなハートでは確実にショック死してしまうことだろう。くれぐれも女子に振られないように』
「勝手なことを言ってくれやがる」
「だが、安心しろ。ここに集まったのは、生粋のギャルゲーマー」
「そして、なんと、あの落とし神様がいるぞ」
「おおっ、どんなギャルゲーをも攻略してきたといわれるあのーー」
「付き合えなければ死ぬ。ふっ、ギャルゲーなら、ありがちな設定だ。攻略の失敗と死は、いつも隣り合わせ。成功と失敗はコインの裏表のようにハッキリしている。けど、その差は、コインの厚み程度の差。
まずは、データを調べろ。いいか、振られないかぎりは、死なない。とにかく女子のデータ化を急げ」
「「「「「ブッ!!ラジャー!!」」」」
「お前らって奴は、ほんと、モテることやめてるぜ。サイコーだな」
「さて、99人は、引き立て役だ。全力で女子を落とすサポートに徹する。いいか、この一人は、振られたら死ぬ。誰かやりたい奴はいるか」
「誰もいないか。ならーー」
「あ、あなたはーー」
「匠さん!!」
「一級フラグ建築士のっ。実在していたのか。まさか落とせないだろうと思われたヒロインの裏ルートを見つけたり、サブヒロインの魅力を熱く語り、アップロード版では攻略可能にしてきたという伝説のーー」
「そこに女子がいるならば、フラグは立つ、デスっ!」
「ダメだ、俺は、これだけは攻略できねー」
「そんな、最後の二人ですよ」
「じ、実妹とJSは対象外なんだ」
「そんな、匠。現代の光源氏と名高いあなた以外に、誰が落とすというのですか」
「くっ、ここで義妹派がアダになるとは」
「お助けキャラはいないのか」
「ここはベイカーストリートじゃないんだぞ」
「ここは、我が輩の出番でござるな」
「あなたは、まさかーー。身体は大人。心は子供。幼女キラー、マイスター佐藤」
「我が輩に落とせない女児はいない。JSは任せてくれたまえ」
「おお、さすがは、世界で最も知名度の高いロリコン、そこに痺れる憧れるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
「よせ、我が輩はロリコンではないでござるよ。ただ、心が惹かれてしまうんだ。幼形成熟にーー。だから、俺はロリコンじゃない。ちゃんと彼女もいるんだ。身長140cm、Aカップ、童顔の、完璧なロリ熟女がな」
「「「「ぐあああああ、リア充、爆発しろっ!!」」」」
「じゃあ、行ってくるでござる。我が輩、このゲームが終わったら、結婚するんだ」
「あんたってやつは、ここまで完璧な死亡フラグを立てるなんてっ」
「それで、実妹には、誰が行くんだ」
「俺が行くよ。実妹に手を出す勇気があるやつなんて、他にいないだろう」
「あんたはーー、誰だ??」
「妹に手を出して、刑務所にぶち込まれた経験のある本物のシスコンだが」
「よーし、他のやついないか。性犯罪者に慈悲はない」
「え、ちょっ、まっーーぐはぁあ」
「しょうがない。わたしが行くよ」
「あなたはーー、誰だ?」
「『実妹トライアングル』『実妹だけど義妹だよね』『妹が11人いるなら、一人くらい実妹もいるよね』の脚本家だ」
「ということは、あなたこそが、妹萌えを書かせれば、右に出るものはいないと言われる、シスターメイカー、マイネーム!!」
「今まで、一万人以上のシスターズを作ってきた。わたしに攻略できない妹はいないよ」
「たしかに、あなたならばーー。自分の女体化クローンと恋愛する『妹はクローン』最高でした!」
「ふっ、あれをやっているとは。マニアだね」
こうして、8人全てのヒロインが次々と攻略されていった。
総プレイ時間、21時間。
誰も死ぬことはなく、事件は、全く表沙汰にはならなかった。このゲームを買った選び抜かれた精鋭の攻略組に、解けないヒロインの心はなかった。




