ーデトイワホ
ホワイトデーとは、もともとアメリカのハーシュ・W・ホワイトさんが結婚禁止は素晴らしいとローマン皇帝クラウディウスの政策を賛美して、結婚をしない代わりに女性への感謝を独身男性が祝うものとして発祥したものだ。妻を持たない身でも、年に一度ぐらいは女性への感謝を表明するのも悪くないとされた。
ハーシュさんは最後、『結婚十五の歓び』を胸に、南ミシシッピのシチリア湖畔の別荘で、孤独死したそうだ。
まぁ、そんなことは、くだらない陰謀論と同じくらいどうでもいい話だ。現代を生きる僕らは、フェイクニュースにも引っかからずに、情報リテラシーを持って、バレンタインデーに満を持して対策と傾向を準備している。
よって、僕はバレンタインデーを貰わずにして、ホワイトデーを実行する権利を得たのだ。間違いを信じろ、されば救われん。
バレンタインデー当日ーー。
僕は、それとなく、チョコを要望している容貌を見せて、望洋とした教室空間を茫洋とした目で見ていた。チラっと視界の隅に女子たちが持ってきた教室内のロマンスをローマの皇帝のような気分で麻呂は見ていた。
せめて一つぐらい、小学校からの同級生がくれるのではないか、と淡い期待を砂糖菓子のように握りしめていたけど、粉々に砕けて、全て淡い水の中へと溶けていった。冷たい水の溶解度でも溶けるようなぐらいの小さな砂糖のかたまりは、飽和量に達することはなかったのだ。
だが、しかし。
来年への布石・城跡・ピラミッド!!
ローマの道は1日にしてならず。全ての道はローマに通ず。
ゆえに、ロマンスの条件は、布石。お返し、贈与こそが経済を回す。年賀状をもらえば、なんか返さないとダメかな効果。
そして、僕はホワイトデーを勘違いして、バレンタインデーのZERO個状態から、女の子に手当たり次第に渡すのだ。
でも、シンプルに、シンプルなのが大事だ。
肩維持をはらず、ただのホワイトデーの商品を、メーカーの既製品を高校生レベルのお小遣い程度で渡すのが、セオリーメモリーコレクトリー。
これによって、僕は、教室内で、親しみランクをプラス1する。
と、思っていた時期が、僕にもありました。
どうやって渡そうか問題勃発。
おいおい、ホワイトデーに随分と変な荷物を持ってきている男子がいたもんだな。いったい、ユーはそれを誰に渡そうってユーんダイ。
チキショー、どうして、僕がちょっとホワイトデーのお返しっぽい袋を持ってきているだけで、視線が螺旋状に回転してしめつけるをしているんだ。
いいじゃないか、僕はね、行事というものに踊らされる哀れなバカでいたいんだ。同じ阿呆なら踊らにゃソンソンシャンソン、と言うだろう。
シャニ構えても、現実はシャイニングしないんだ。
陽キャ万歳、酔うっきゃない。
「ねぇねぇ、それ、誰に渡すつもりなの」
ドキュン、ドキっ、ちゃん。ふぉ、は、ああぁあ。
落ち着け、落ち着くんだ。女子と話すなんて、朝飯前の半年前だろう。女子から声をかけてくるなんて、前世にもあったはずなんだ。落ち着け俺、落ち着け。ノートを開いて閉じてパタパタとするんだ。風が気持ちいいだろう。イエス、ブロー。ゴッドブレスユー。
「佐伯さん、あげるよ」
僕は、袋、大きめな袋、数うちゃ当たるホワイデー袋を、丸々と一つ、1人の女子にリリースした。過剰な爆撃の美しさ。
クラス中の女子に分け与えれる量の存在物が、佐伯さんの胸の中へ。
「え、どうして」
「ほ、ほほ、ホワイトデーだから……」
「……あげてないよ」
イグザクトリー、でもサレンダーしない。言い訳は美学。こじつけこそ人類の宗教。
「前払いだ。もしくは いつかの満期債権が、償還されたと思って欲しい」
うん、初めから、最初に声をかけてきた女子にあげようと思ってました。僕も、バレンタインデーには女子に声をかけまくった方がよかったのかな。そうすれば、運という総当たり作戦で、確率の問題で成功していたかもしれない。
「さ、すがに、多すぎるよ。少し配ってもいい?」
「も、もちろん。分け合うことが経済の基本。最後通牒ゲームのように、ばらまいてくれて、いいです」
「なんのゲームか分からないけど、うん、分けてくね」
そこで、僕は、机にうつ伏せで、寝たふりで、これから起こる何かを、逃れようとするのだ。女子から声をかけられまくったら、僕の挙動が不審になることは、ホワイトチョコよりも真っ白な頭になる僕の精神的に明らかな範ちゅう。
無事、教室内のやり取りを終えて、僕は帰宅へと赴いた。帰宅部の足取りは早い。帰宅に全てをかけている。
これ以上、僕は、学校に、いられない。
ホワイトデーをした。あとは知らん。恥ずかしいから。
「しかし、佐伯さんかぁ」
僕の好感度ランクが、1000追加されました。
男は単純であるほどいいとされる。
ちょっとしたことで一喜一憂雨あられ。
話しかけれるだけで喜びますよ。
で、まぁね、僕も、そんなホワイトなアルバムを忘れていたわけだよ。一年も経てば、過去は時効で忘れるのです。
僕、ホワイトデーにそんなことしたなぁ、と記憶の片隅でうる覚え。うるう年の年を忘れるように、綺麗さっぱり、微々たる記憶として、いささかビビットではあるけど……。
翌年の2/14日、バレンタインデー。
女子生徒一同から、バレンタインデーを受け取った僕の立場ですよ。困った。
現実問題、もらいすぎて困った。
あれは男子一同があげたホワイトデーということになりませんか。同性の目が痛いんですが。男子たちの憎しみの目が。
ホワイトデーに贈ったものが、予想通りながらも、鋭利な状態で帰って来ました。営利目的で全く非営利じゃない下心丸出しの行為に、僕の自愛心が防御せよ、と言っている。
クラス1義理チョコをゲットした男。本命はないようです。
100の義理チョコは一個の本命に負ける。
でも、義理チョコは目立つ。隠す必要がないから。
大丈夫。みんな安心してほしい。
僕は今年、佐伯さんだけにホワイトデーを渡すのだから。
最後通牒をもらいいこうか。
ホワイトデー当日。登校して、すぐの下駄箱で佐伯さんが、下駄箱にちょうど靴を入れようとしていた。
「あれ、今年は、サンタさんじゃないだ」
「え、あ、その、今年は、えっと、こ、これ」
「ん、わたしの分?ありがとう」
佐伯さんは、受け取ると、僕を下駄箱において、歩いて行った。
あれ、渡しただけになっちゃった。まぁ、いいか。
ちょっと、今からひとっ走り、ホワイトデーのお返しを揃えてきます。
来年に、持ち越しだぁあああああ!!!
完全にタイミングミスった!!




