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海賊船の上に転移しました


「お前、どこから、入ってきた!!」


 はい……?

 倒れていたわたしが、周りを見渡すと、清々しいほど筋肉隆々の男たちに囲まれていました。


 あ、異世界転移だ、これ、でもーー。 

 あー、天井は清々しいまでのライトブルー。そして、私の耳には波の音が聞こえ、床を見ると、いい感じに湿った板材。

 一言で言えば、ここ甲板です……。


 召喚の間とかじゃないの!?

 なんで王様や宮廷魔法師とか出てこないの。異世界から聖女を呼び出した的な展開であってよ。それかスローライフや貴族の令嬢に転生とか。

 もしかして、実は地球内転移とかでしょうか。ネット小説の読みすぎでしたか。


「道を開けよ」


 一人の男が、男の肉塊をモーセのごとく分けていく。

 金色の房に、爽やかな顔立ち、長いまつ毛に切長のブルーの目。なんだ、このイケメン、ちょっといる場所間違ってない。


「どこから入ってきた、ソレイユの港からか」


 いいえ、日本の関東のバーで働いていたのですけど。一日を終えて、帰るところだったはず。あれ、最後にお客さんが残っていて、話していたかな。うーん、記憶が少し曖昧ーー。というか、まだクラクラする。


「日本です。ここは、どこですか?」


「カナリア海だ」


 ああ、なるほど、カナリア海。

 どこです、それ。

 スマホで調べれば出てきますか。わたしが無知なだけですよね。西洋とかには、そういう海の名前があるんですよね。まぁ、異世界転移だと思うんですけど、お約束的に。

 わたしが困惑していると、その表情を読みとったのか、目の前の船長らしき爽やかイケメンはーー


「この船はーー」


 私はぼんやりとその言葉を聴いていると、そのままもう一度倒れてしまった。

 





 次に目が覚めると、船室らしきベッドで目を覚ましていた。横には、船医であろう白くて長い服を着た女性。女性は長いタバコのようなものを吸っていた。


「目が覚めた。船酔いね」


「船酔い、ですか」


「ええ」


 ヤブ医者認定しよう。どう考えても転移の時に頭をぶつけたか、転移酔いじゃない。転移酔いってなんだろう。

 まあ、それよりも患者の前で身体に悪そうな煙を出さないで欲しい。最近だと、バーも禁煙なんですよ。


「あの、それはーー」


「これ、薬効のある薬よ。酔いが覚めるから、あなたも吸いなさい」


 異世界の薬学ーー。

 信用していいのかな。幻覚作用とかないよね。

 あ、でも、タバコかと思ったけど、意外といい匂い。ハーブみたい。

 わたしは、タバコみたいな長い葉巻みたいなのを口に加える。


「で、あなたは密航者かしら。それともーー」


「いいえ、偶然偶然、間違った船に乗った一般人です」


「一般人ねぇ、あんな変な服着てーー」


 わたしは自分の服装を確認する。おかしなところはなーー。完璧なバーテンダーの服ーーは、ベッドの脇にかけられてるとして、今は、なんこの布一枚風のワンピースは……。


「男装の趣味があるの」


「あの、今すぐにでも、ちゃんとした服が着たいです」


 防御力ゼロだよ。少し激しく動くと足とか胸とか見えそうじゃない。


「ごめんね、ここ、男しか乗ってないの」


 そう言う女性??


「あ、わたし、こう見えて、結構、いいもの持ってるのよ」


 ああ、どおりで腕がお太い女性だと。

 さて、早く、この世界から帰らないと。というか、まずは、この船から逃げないと。

 酔いは覚めました。今すぐ、この部屋から出ます。わたし、性的趣向には寛容だと思っているけど、目の前にすると逃げるタイプなんです、ごめんなさい。危害は加えないので、逃してください。







 甲板に出ると、男たちの威勢のいい声が、海の心地よい波音と一緒に、聞こえてきた。わたしは、目をつぶって、一度大きく息を吸い吐き出した。同時に、外気にさらされたせいか、お腹がキュゥっと音を立てる。幸い、誰にも聞かれてはーー。


「目を覚ましたか。腹が空いているのか」


 はて、横を見ると、金髪の海の貴公子が、立っていた。横に立たれるとわかるけど、わたしはもう少し華奢なイケメンがいいのだけど。どうして、この人の上腕と前腕は、こんなに大きいのだろう。小顔な身体とアンバランスになってないかしら。今からでも遅くない、少し筋肉を落としませんか。そして、少し日焼けを抑えればーー、もう最高すぎるのに。


「どうした、じっと見つめてきて。そら、これでも食え」


 男性から渡されたものは、乾パンとビスケット。ああ、異世界でも海の食糧事情は、一緒なのね。まあ、どう見ても、歴史の大航海時代にでも出てきそうな木製の大型船だし。後ろを振り返ると、白い大きなマストが広がっている。


「レティは、どうした?」


「レティ?」


「船医だ。お前を見てくれていただろう」


 ごめんなさい。逃げてきました。

 本当にありがとうございます。でもーー。


「あら、子猫ちゃん、逃げるなんて失礼ね。ほら、少し水でも飲んでおきなさい」


 あやや、逃げれませんよね。だって、海の上ですから。まあ、なんだか落ち着いてきました。ご飯が目の前にあるのだから。


「あ、ありがとうございます」


 わたしは透明な液体を受け取る。

 水……らしい。

 アルコールの匂いがすごいですけど…一口いただく。これってあれですよね、グロッキーなるものラム酒の水割りですよね。ということは、サトウキビみたいな植物はあるのね。

 

「どうだ、目が覚めるだろ」


 うんうん、酒は百薬の長だものね。でも、ちょっとキツイ。普通の水でよかったのに。まあ、ここは船の上しかたないか。

 わたしは、揺れる船の上を、よろよろとバランスを取ってなんとか歩いていく。落ちないか心配しているのか、不審者を見張るためか、金髪さんも付いてくる。


 甲板から海を眺める。落ちないように、きちんとデッキの端を持つ。

 ああ、異世界に来たんだ。


(全然、実感が湧かない…………)


 未だに実は、太平洋のどこかを漂っている気分です。でもねぇ、ほら、船に止まっている鳥とか、船員が釣り上げた魚とかを見ていると、ちょっと地球設定に無理がある気がしてくるんです。どこの深海魚の図鑑なのって、突っ込みたくなりまくってるんです。鳥もやたらに、強そうな恐竜みたいなのが上空を飛んでるし。

 

「そろそろ落ちついたか」


 わたしが甲板やビスケットを食べ終わると、横に立っていた男は話しかけてきた。


「うん、なんとかーー」


「それで、君は、どこから、入ってきた。それと、まだ名前も聞いていないが。わたしの名前はジーク。この船、フリートの副船長だ」


「副船長?」


「船長は、戦闘で海に投げ飛ばされてね。だから、実質、今の船のトップはわたしだ」


 ちょっと待ってね…銭湯?先頭?戦闘!!

 この船って、海賊船とかだったりする。もしかして、財宝とか秘宝とか求めて、七つの海を渡っているとか言わないでよ。いやいやいや、まさか、洗いざらい話したら、どこかの島に置いて行ったりしない。そんな宝島じゃないよね。なんだか異世界チートでも悪魔系の実でもいいから欲しくなってきた。


「ええっと、この船って、私掠船だったり」


「私掠船?なんだそれは。この船は、国益のために、敵と戦うための船だが。対アブラ用大型戦闘船だ」


「アブラ??」


「アブラを知らないのか。海の魔物だ」


 ああ、魔物と戦うのね。

 よかったー、海賊船じゃなくてーーーーーーーーーーー。

 ん、なんだか、不穏な船に乗っている気がしてきました。


「ああ、ちょうど見えるな。あれがアブラだ」


 男の人は、向こうを指さす。あまり大きくなさそう。よかった。わたしは、さらに男性から双眼鏡のような器具を受け取る。そしてーー、うん、自分の間違いを悟った。


「クジラだ」


「アブラだ。クジラとはなんだ」


 ああ、捕鯨船のようです。エイハーブ!!白い悪魔がいますよ。もう海だし静かにさせてあげませんか。


「やつは良質な魔力を多くて蓄えているからな。魔道具の製造や魔力の供給源のために必要不可欠なんだ」


 鯨油みたいな感じですか。頑張って、人工で作りません。魔法的世界なのに、やってることは、近世のようーー。

 金髪の副船長の横に、甲板員らしき男が駆けてくる。


「副船長は、追いますか?」


「いや、やめておこう」


「はい」


 男が去っていくと、マストの上の男性に、身振りで指示を出している。


「どうして、追わないんですか?」


「ああ、最近、原因不明の病で体調不良が多くてな。レティの回復魔法も効果がないようで」


 ああ、なんとなく分かりました。

 どうせ壊血病ですよ。定番ですね。ビタミンC不足でしょうね。転生だと、もはや知識チートとも言えない。

 その後、わたしは、ザワークラフトや柑橘類を食べさせるように指示しました。


 



 そうしてーー、月日は流れ、わたし、まだ海の上です。





 あはは、船の中でバーテンダーやってます。なにをしているのだろう。ライムとラム酒を混ぜてシェイクして見せたのが失敗でした。つい、最寄りの寄港場で、新鮮なライムとか見つけて、カクテルの腕を見せたのが、失敗でした。何故か、仕事道具が、バーテンダーの衣装に入っていたせいだ。あと、酔ってました。

 そもそもカクテルが発達していない文化だったようで、ご盛況ーーでもね、海の上では新鮮な果物もない混ぜるものも限られるし、宝の持ち腐れ感すごいですね。

 モヒートやギムレットを作る日々。副船長の氷魔法は優秀ですね。さすがに冷蔵庫は作れないようですが。



 えーと、わたしは、どこまで行くのでしょうか。

 

 我が家で存分に腕を振るって欲しいーー、えっと、どういう家なんでしょうか。そのー、実は上級貴族とか王子様とかはやめてね。わたし、やっぱり、もう少し一般人の自由というものを、満喫したいといいますか。聖女も貴族令嬢もごめんというか、人間は変わりたくない生き物でして、だからーー。

 

 海で生きません??

 なんだか慣れてきました。今では船酔いもしませんし。筋肉にも、レティさんにも、慣れましたよ。

 アブラも可愛いじゃないですか。

 アブラ用小型船が船から出て行くのを見送るだけなので、恐怖とかないですし、船員も優秀ですし。

 なんだか、異世界で海上生活が長すぎて、すでに陸地恐怖症みたいな感じなのですが。いっそ、海賊王でも目指しましょうよ。陸地は異世界です。あまり降りたくないです。だいたい森や陸には、どんな危険な生物がいるか分かりませんよ。ゴブリンとかオークとか、いつも襲われるのは、美人な女性なんですから、その点、海は素晴らしい。海は平等で、定番な化け物なんて、リヴァイアサンかクラーケンぐらいです。ん、触手、美少女ーー、やめよう、不吉すぎる。


 ということで、今日もわたしは、仲良く海の友人達とラム酒を飲むであった。酒耐性が強くなっている気がします。


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