出来心でスク水を買ったら、ちょうど盗まれた幼馴染の物と勘違いされたので、犯人探しして汚名返上しますというような感じでいいでしょうか
ネットショッピング。
ついつい、猫耳やらサンタコスやらナース服などのコスプレ品が目についた。
検索に欲しいものを検索していたはずなのに、いつのまにか女性用の服や下着とかへーー別に女装願望なんてなくて、純粋な性欲がなせるワザだが。
「スク水……」
ごくりと喉が鳴る。
思春期学生が触ってみたいランキング3年連続1位とも言えそうな魔性のフェティシズム。プリーツスカートのコスプレ服が次に続きそう。その次にニーソとか。
カタカタとさまざまなスク水が目の前を踊る。されど進めず。購入してみたい。別に着ないけど。
おそるおそるカゴに置く。
大丈夫大丈夫、これは誤ってカゴに入っただけ。家族に購入がバレたらどうしよう。思春期なのね、と母のニヤケ顔が浮かぶ。
ダンボールを自分で受け取れば何も問題はない。
日曜日に来るように配達時間をセットしてーー。
買うのか。
買ってしまうのか、俺。
支払いをコンビニ決済にして、他の物で誤魔化すために本も入れて。
ポチ。
【注文を確定しました】
やってしまった。
俺は、今、バレるとやばい秘密を一つ作ってしまった。
日曜日はあっという間に訪れた。
内心ドキドキが止まらず、俺はピンポンがなったら、速攻で受け取りに行った。他の家族に受け取られて、商品名を見られたら、危険だ。
さっさとサインして、部屋の中にカムバック。
ダンボールを開けて、本を脇に置き、スク水の入った袋を手にする。
ついに俺はスク水を手に入れた。合法的に。
ひとしきりスクール水着のゴワゴワ感を楽しみーー、まぁ、あれだ、覚めた。
俺、何やってんだろう。ベッドの横にスクール水着。別に顔を擦り付けたりしてないからな。
さて、楽しみを終えて、こっそりと隠しておこう。また見る日まで。いつか、彼女ができたら、着てーー、一瞬で振られそうな気がするけど。
絶望は忘れた頃にやってくる。
「あれ、ない?」
ドアが開く音。
「お兄ちゃん、何を探しているのか知らないけど。あれは没収しました」
「ちょっと待て。まさか、お前ーー」
「この前、美也ちゃんにスク水借りたから、代わりにあげておいたよ。プールだって忘れてたよー」
幼馴染に兄のスクール水着を渡す妹、現る。
そして、新品にして洗って返したと、俺の物で。
それで、幼馴染の使っていたスク水はどこに……、いや、そうじゃなくて。
「いったい、いつから……」
「お兄ちゃんがなぜか日曜日の宅配に急いで出てから。ちょっと履歴をさかのぼらさせていただきました」
プライバシーを詮索することに余念がない妹だった。
高校生がスク水を持っていて何か問題でもあるというのか。高校生だからスクール水着は持っているに決まっているじゃないか。そして、オスメス揃えるのはゲームの基本。
とか頭の中で藁人形の議論相手には正当性もなく主張できるけど、なぜか喉をつっかえて言葉は出ない。
とりあえず妹への口止め料は、次のお小遣いを渡すことで済んだとして、契約を守ることだけは信頼性がおける妹だ。今後、秘密を暴くことをやめさせたいけど、それは探偵的な好奇心ゆえ無理らしい。
妹はいいとして、幼馴染へのエクスキューズをどうすればいいんだろう。
「最近ね、水着が盗まれたんだ」
犯人は妹です。というか幼馴染知ってますよね。貸したんだから。
「なぜか新品のものが入ってたんだけど」
はい。そうですね。なぜかね。
下着ドロボーも、新品のものを代わりに置いていくやつもいるらしいですよ。最近は、下着の値段もバカにならないとわかってきているので。なぜ知ってるかって、そんなものネットで一発だ。下着ドロなんて金銭目的じゃないのが普通だから。
ちなみに、妹は幼馴染の水着をどうしたのだろう。俺は余計な詮索をしないことが自衛行為だと知っている。好奇心は悪だと、身をもって知ったから。中世キリスト時代のように、知ってはいけないことは知らないことだ。1984にも無知は力なり、と書かれている。
知らない方がいいじゃないですか。女性は秘密を着飾って美しくなりにけり。
「なんで無言なの」
真実を知っているがゆえに黙秘する権利を行使しているから。犯人は多くを語らないのだ。共犯ですらないとばっちりだけど。万引き冤罪のために、バッグに、商品を入れられたごとき、冤罪だけど。
「まぁ、どんまい。新品になってよかったと考えよう。何事もプラス思考が大事だ。盗まれるということは、それだけ女子として可愛いということだから」
「でも、弁当箱とかリコーダーの先とかなくなると困るんだよね」
「すぐに捕まえて極刑にすべきだ」
「わっ!?なに、どこにラインがあるの」
絶対に、変態だ。変態は処すべき。更生の余地はない。
学校内ならば無罪になる理論は適用されません。窃盗罪でしょっぴいてください。
水筒も関節キスとか言って盗むんだ。唇フェチの変質者め。
「もう時効だよ。中学の頃だし」
時効が早すぎる件について。
「ロリコンと」
「なんか、追加の罪が入ったぽい?」
さて、過去の事件は追うことができないとして、今の事件は発覚させると俺の方にまで火蓋が切って下ろして捌いてくるから、新しい事件を起こすとしよう。マッチポンプ探偵は、火のないところに煙を起こすのだよ。頑張って、古代の火おこしします。回転キリモミ発火。
カタカタカタカタカタカターー、タッーーーンッ!!
注文確定。
バニー衣装を手に入れた。
どうだ、妹よ、さすがに、これには手がでまい。スク水とは実用性が違うぜ。
俺、なんで、こんなもの買ってるんだ。
いや卯年だしな、オッケーだよな。
バニー衣装は、とりあえず、一回ピョンピョンして、クローゼットに寂しげに放置された。
絶望は忘れた頃に回ってくる干支の如し。くすぶる愛はいつのまにか焦げついて。火元確認を忘れるな。
「お兄ちゃん、ウサギの衣装が寂しくて死にそうだったから。着てみたよー」
妹はバニー。
バイバイ、俺のバイタル。
妹の横に、バニー姿のようでスク水にウサ耳の幼馴染が一匹。
「寂しいので二人になりました」
「犯人逮捕と」
妹の手首を掴む。何の犯人かは知らないけど。
「いやいや、これだけ誘惑しておいてないよ。教唆だよ教唆」
「俺は女性がミニスカでいても誘惑されたとは言わない男だ」
「こういうのが好きなの?」
幼馴染は黙っていて。
俺はもう思考を放棄して脊髄反射しているだけだから。
妹にかまうことで、うやむやにごまかす作戦だから。
純粋に、コスプレっていいよね、という欲望はベッドの下にまで持っていきます。
探偵は、男のフェチを暴くものではないのだ。
秘密を守ることで、男はカッコつけているのだから。




