20話目 乙女ゲー世界の悪役令嬢の弟に転生したので、僕はお姉ちゃんを甘やかして改心させるのに必死です
乙女ゲームーーそれはーーうん、やったことない。けど、きっとギャルゲーの逆バージョンで逆ハーレムとか、何の実力もないけど何故か異性に好かれるとか、隠された力があって、実はーー、的なお約束に違いない。
僕は、今、そんな乙女ゲーム世界にいる。
なぜ僕が乙女ゲームをやったことないのに、その内容を知っているか。それは僕が某tuberの炎上ゲームネタが好きだったからだ。最近では、ムカイド氏のクソゲーを見まくっていた。
その中で、『シン・フォニア学園ーーマリア・タスク』を酷評していた。このゲーム、学園モノなのに、女神の試練という謎システムを実装、魔法バトルというおよそ合わないモードがあり、そのせいか処理速度が檄落ち、終わらないロード画面で、発売して数日、定価から70%値引にもなっていたらしい。
だいたい、マルバツで進めばいい選択系のゲームに、そんな負荷の高い無駄機能をつけるくらいならば、グラフィックと声優に金をかけておけ。
さらに酷評は続く。いわく、女神の試練から魔王を倒すゲームへとメインシナリオが進むのはいいが、このゲーム、主人公含め学園を卒業しないし、ほぼ動かない。学園と近くの村や街しか行けない。攻めてくる敵を倒すだけで、魔王設定が危機感薄すぎる。
だからーー、こうなる。
「いやぁ、悪役令嬢を追放するまでは楽しかったけど」
「なんで、そこから本格バトルへ移行する、わけわからん」
「なんだか突然、別のゲームに繋がったよう」
「特定しました。どうも開発に奴がいるようです」
「実験、失敗。ワロタ。百歩譲って魔法は許す、でも戦闘モード消せ。せめてコマンドバトルにしろ」
「乙女ゲーから男性が多いアクションゲームに導きたいのは分かるが、ジャンルの違いを理解しろ」
さて、だが、まあ、転生してみれば、悪くない。そんなテキストグラフィックとアクションゲームの混ぜ物でも、転生したら関係がない。世界はリアルで情報量100%だから。
でもね、最近気づいたんだ。どうも、俺の姉が悪役令嬢なんじゃないかって。このゲーム追放までは面白いとか言われてるからなぁ、女子って怖い。
しかし。何よりの問題はーー。
「弟、可哀想すぎる」
「完全なる巻き込まれ」
「制作陣は、弟に恨みでもあるの」
「人の死は最高のスパイスなんだね」
うん、これ、俺のことっぽいぞ。いやぁ、シン・フォニア学園で攻略組で関係ありそうな女性キャラをあたってみたけど、近い弟、俺しかいねぇ。
全然、穏やかで優しくて明るい姉なんだがーーこれから闇落ちでもするのか。
たぶん、ルドフィン家のシンシアという子が乙女ゲーのヒロインなんだろうけど。やたら美形で男子を多く集めているし。
うん、とりあえず、乙女ゲー世界が、どうなろうと興味はないけど、デッドエンドはごめんだ。とにかく姉のメンタルケアに邁進しよう。
ちょっと姉は鬱陶しいとか思っていたけど、無下にあしらうのはやめよう。
「弟くーん」
抱きついて来た。ブラコンラブラブ姉がーー。というか、この人、ホントに悪役令嬢ですか。ほんわかポジションにしか思えない。でも、俺死んだら、覚醒しそうなーーそれが狙いか、ゲーム会社!!
くっ、炎上ゲームネタだけ楽しんで、実際にやらなかったことが悔やまれる。全然キャラや設定が掴めてない。普通、こういうゲームに転生というのは、世界観とかストーリーとかを知っているから楽しめるものだ。今の俺は、完全なる迷い人だ。
正直、シン・フォニア学園とか言う学園名を聞くまで、ただの異世界転生だと思っていました。
「オネエチャーーン!」
いつものように抱きつかれて充電されるだけの一方的なハグではなく、思いっきり受け止めてやった。ふっははははははははーー我慢、我慢だ俺。まあ、美人だし、全然問題ないけど……姉じゃなければ。
「つ、ついに、ついに、弟くんがデレた。デレ期来た!う〜ん、いい匂い。あったかーい」
そのまま俺の胸に、すりすりと顔を近づけて幸せそうにしている。
おかしい。ほんとうに、これで悪役令嬢になるのか。ヤンデレルートの方がまだ信用できるぞ。だいたい、誰に悪さをするんだ、この人畜無害というか天然おっとり姉さんがーー。でも俺の死亡フラグは、悪役令嬢の弟ということ。
だから、俺はーー。
「姉さん、今日も綺麗だよ」
「お、弟くん、あ、姉をからかうもんじゃないんだよ」
さあ、もっとデレデレにしてやる。もう俺しか見えないくらいに。他の女生徒をいじめるなんて考えにも及ばないくらいにな。
「そこの二人。姉弟でいちゃつかないの。ここは学園よ。風紀を守りなさい。せめて帰ってからにしなさい」
注意してきたの男女の二人組、セレスティア家のヴィレッタとバーシー家のクラウド。おそらく風紀委員のような立ち位置のキャラクターだろう。
帰ってからならオッケーなんだと思ったが、ここは乙女ゲー、たとえ姉弟でも婚姻可能な世界だ。血のつながり、なんの問題がーー、という感じだ。
はっ。
でも、待てよ。もしかして、こうやって風紀委員ポジションに止められることで恨みを重ねて、いずれはーー。
「姉さん、帰ってから。存分に楽しもうね」
「もう、弟くん。まだ早いんだから。そんなセリフは。背伸びしてるのも可愛い」
姉は俺の頭をなでなでする。もう実際、合計年齢は30歳を超えているのだが。まあ、おかげで、こんな思春期男子ならば羞恥心で逃げ出す状況でも、気にせず立ち振る舞える図太さを獲得しているわけだ。歯の浮いたセリフも、舌の根を乾かす必要もない。
姉を甘やかす。それが俺の生きる道。どんなことがあろうとも、姉のジゴロをやめないぞ。悪堕ちさせない。
さて、姉が好みそうなお茶請けでも作るかな。些細な知識チートでも少しは改善されるだろう。
その後、どうやら乙女ゲーの主人公は姉のようだった。そして悪役令嬢はというと、ルドフィン家のシンシアだった模様。うーん、姉が全く他の異性に関わらなかったせいで、学園のトラブルは一切解決されたようだ。まさかシンシアに弟がいたとはーー、全然想定していなかった。
さて、問題はというとーー。
はい、魔王です。
すっかり忘れてました。俺、魔王との戦闘で死ぬんだよね、どうせーー。本質を見失っていました。というか、もっと大幅な知識チートが欲しいです。
ん、でも、俺、結局は悪役令嬢の弟じゃないから、死なないはずではーー。
いや、でも、これはーーーー。
「戦闘モード、キツすぎ」
「どうしてハード・イージーとか設定変更がないんだ」
「ライフが分からない。MPが分からない。そこを非表示にするなよ」
「クソゲーでした。全滅しまくり、もうやらん」
ああ、この、ゲームバランスが、ぶっ壊れてるんだよ!!課金アイテムでもないのか、このゲームは。貢げるなら、貢ぐぞ、女子に貢ぐように。
命には変えられないからな!
今日もブラコンキャラをやめられず、過酷な戦場を駆け巡ります。