表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
189/227

家にダンジョンができたから

ダンジョンなんてあるわけないのに。しかし、サンタに煙突がつきもののように、ダンジョンは一家に一台は欲しい。


「家の地下室を掘っていたら、ダンジョンが出てきたんだ」


 と、冗談で言ったつもりが。


「見たーい。ダンジョンって、どうなってるの」



 さて、困った。純粋な女子に、まさか冗談でした、というわけにはいかない。昔から女子供は純真と決まっていて、その無垢なる瞳を汚してはならないとされている。


「ダンジョンに入るには、レベルが必要なんだ」


「れ、レベル?」


「僕の鑑定スキルによると、ダンジョンに入るにはレベル10が必要なのだけど、君は、残念ながら3なんだ」


 よし、これで諦めてくれるだろう。


「頑張る。頑張ってレベルを上げる」


 なんだとっ。レベルを上げる?

 どうやって?

 できるだけ無理なことを言うしかない。ただし、俺もクリアできるもので。長引かせれば勝ちだ。できるだけ時間のかかるやつ。


「そうだな、毎日スクワット100回腕立て100回、これを2ヶ月ぐらいすれば上がるんじゃないか」


「分かった、頑張る」


 やる気モリモリだ。

 実は嘘でしたー、が、さらに言いづらくなった。

 まぁ、二ヶ月もうちに、こっちもダンジョン風に地下室をアレンジすればーーって、できるかいっ!!



「頑張った。筋肉ついた。これでレベル10」


「ああ、そうだな」


 やってしまったよ。頑張らせてしまったよ。

 ここで、ダンジョンが嘘だなんて知られたら。世の中のお子さんとの約束を、平然と破る嘘つき親みたいになってしまう。言った覚えないよ、と口約束の意味のなさを知ることになるんだ。

 テストで10番以内だったら、買ってあげるーー、無理だと思っているから約束したのにクリアされたらたまらない。神話の悪役もかぐや様も、どうせできないと思って、試練を与えているんだ。クリアされたら、たまらない。

 それでもーー。


「待て、念書がいる。誓約書が。ダンジョンは危険だ。命の危険がある。ちゃんと書面がないと」


「書く書くっ」


「いや未成年の念書には意味がない。ちゃんと保護者の許可を取ってこないと」


 はは、どうだ。

 できまい。ダンジョンに入るために、誓約書にサインする親など、存在しまい。

 根掘り葉掘り、ダンジョンって何っと聞かれて、しどろもどろになって、ダメと言われるがいい。



「持ってきたよー。さあ、行こー」


 最悪だ。まさか娘を旅に出させる系の親とは。

 可愛い子にはダンジョンを経験させよ、と。


「し、仕方ないな。じゃあ、地下室に行こうか」


 ああ、なんで、本当のダンジョンがないんだ。地球も、そろそろ進化してダンジョンの一つや二つ作ってもいい頃なのに。化石燃料を全部使ってしまうぞ。


 地下室の入り口前。


「よし、ちょっと、先に行って、入口の近くが安全かどうか確認するから。安全が確認できたら、呼ぶから来て」


「うん。ついにダンジョンとの遭遇だ」


 さて、ダンジョンボスに擬態するとしよう。

 一階層しかないダンジョン、しかも一部屋しかない。

 なんて、エコなダンジョンだろう。質素倹約をモットーにしています。


「いいぞ、入ってきて」


 魔王のようなマントを着こなし、頭には、ハロフィンの仮装用の悪魔のツノ。さらに、鬼のお面をかぶる。完璧すぎる。

 玉座は、椅子をデコレートしました。黒い布をかけて、ドクロのオモチャをつければいいんだよ。

 ドアが開く。少女がついにダンジョンの最奥に来たのだ。黒歴史の深淵を垣間見せよう。凝視せよ。我が名はーー。


「よくぞ、たどり着いた。わたしがダンジョンマスターだ」


「地下一階の一部屋目なんだけど。というか、何してるの」


「ダンジョンマスターだ!!」


「う、うん。ごめん」


 勝った。ツッコマないでくれ。ツッコミは負けだ。


「ここまでーー来たからには、わたしも本気を見せるしか……」


「あ、わたし、武器、持ってないよ」


 しまったああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 肝心のところで、いったい、ダンジョンにスポーティ女子の服装で入ってくる人間がいるか。剣と鎧はどうした。ローブと杖はいずこ。


「ふっふっふ、装備もなしに来るとは、愚かな。ダンジョンのオブジェの一つに変えてくれるわ」


 しかし、ダンジョンマスターのムーブを終えることはできない。メンタルが崩壊するから。


「わ、わたし、食べられるの。はっ、誓約書はそういうことっ。ああ、姫騎士みたいにされる。エ○同人みたいにっ」


 ごふっ。

 クリティカル。

 なんて周到なシチュエーションを設定してしまったんだ。


「抵抗は無駄だ。もう逃げられないぞ」


「いや近寄らないで変態。露出狂。スケベ」


 どこも露出してないだろっ!!

 なんだ、あまりの黒歴史の黒いケムリの放出のことを言っているのか。こうばしすぎるのか。


「いやぁあああああああああっ」


 だぁあああああ、この地下、防音力はあっても、上には聞こえるんだぞ。俺の家庭内戦力が。

 というか、もう殺してくれ。俺を、俺をやってくれ。ひと想いに。

 

「それでは、ダイスをロールしてください」


「え?」


「SAN値チェックです」


「産地チェック?産地は、この街だけど。いや、正確には隣街の病院?」


 ダメだ。ここからTRPGに持っていくには、相手の知識が足りない。


「このダンジョンをクリアするために、まずは、キャラクターシートを埋めようか」


 強引だけど、それが、どうした。

 ここで、姫騎士とダンジョンマスターの愛の蜜劇をママゴトするよりも、俺の正気度ポイントがましだ。


「ところで、わたし、騙されたよね」


 いや、サンタがいるんだ、と叫んだら、純粋な子供が、自分から網にひかかってきただけで。

 騙されたと後で、言い詰めるために、わざと騙されてないかと疑いたくなるというか。


「騙されて悲しい。シクシク」


 シクシクなんて言わせてしまうなんて。

 女を泣かせてしまうなんて、ダンジョンマスター失格だ。


「ごはっ。君の涙に、やらーれーたー。ばたり」


 もういいよ。ママゴトやります。演技、楽しい。ダンジョン、サイコー。


「よし、これでダンジョンマスターも倒したし、ダンジョンの財宝を探そうかな」


 地下室に保管されているものを調べていく少女。

 新しそうな箱を、少女は手に取って、開けてしまう。


「ノート?」


「まっ!!」


「屍は動かない」


 ああ、パンドラの箱が。希望だけが残った黒歴史が。

 厨二ノートが。


「我が家の家宝にしましょう。お宝ゲット。また、遊ぼうね」


 や、やつの手から、なんとしてでもノートを取り返さなければ。

 純粋な女子の手に渡っている間はいいが、もし変なやつに渡ったら、脅迫の材料になってしまう。





「僕は知っている。この家には隠し扉があると。秘密の部屋が、夜な夜なーー」


「や、やめろ。朗読するんじゃなーーーいっっっ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ