量産型幼馴染と好感度の見える僕
僕は、他人の好感度が数字として見えるようになった。
そして、興味の対象は、幼馴染の女の子。どこにでもいる普通の幼馴染の子。とにかく、彼女の好感度が知りたい。
僕は、幼馴染ヒロインを手に入れることができるのか、それが知りたい。
僕はつぶっていた目を開けて、右手を厨二ポーズに構える。指先の隙間から、見た光景には、僕に対する好感度が数値化されて、頭上に現れる。
30、23、13、20、50、34、40、11、63、83ーー。
平均は50。100ならば、もう結婚レベル。80ならば、カップル。70は、人によっては付き合えるレベル。
さて、幼馴染はーー。
『0』
僕は、もう一回見返した。
『0』
ゼロだった。つまりは、大嫌いだということだ。
無関心で赤の他人レベルで20らしいから、これはひどい。
いったい、僕が何かしたというのか。それでも、0はひどくないか。
いや、分かっただけでもヨシとするか
もうドン底、これからは上がっていくことしかないんだ。
「何か、して欲しいことないか」
「と、突然、どうしたの?」
おいおい、こんな普通の会話をしながら、心の底では大嫌いと思っているってマジか。女子の社交性にびっくり。握手会の後に、除菌ティッシュするアイドル並みのメンタル。
逆に清々しいまである。
「いや、なんか、ほら、僕も、何か助けられることないかなぁって」
「ええ。なにそれ。ノートも取ってるし。ないよ、今のところ。困ってないもん」
「掃除とか変わるよ。めんどくさい用事とかあればさ。宿題代わりにやろうか」
「ダメでしょそれは。自分のことは自分でやらないと。自分でやらないと意味ないでしょ」
正論。正論パンチ。
困っている女子がいれば助けるという妄想をしても、そんな機会なんて現実にはないというね。不良や痴漢から助けるとか、どこのヤラセだよ。
「あー、でも、一つ困ったことはあるかな」
「なになに」
「さっき、わたしの好感度見ようとしたでしょー。ギルティ」
え?
まさか、まかさ。
「うちの神社の神様に変なお願いしないでよね」
はーい。
幼馴染量産型、巫女属性付与バージョン。
「朝、早いねー」
「可愛い巫女さんの朝の掃除風景を見にきました」
「正直に言えば、邪念が許されると思ってるの」
まさか、巫女さんに、俺の好感度視覚化能力が通用しないとは。
「なぁ、まさか、この神社への願いこと、全部、知ってたりするのか」
「知らないよ。叶ったやつだけ。気まぐれな神様が叶えるから」
「本当は悪魔だったり」
「いやいや、こんなに可愛いのに。可愛いは正義と古来から言われてるんだよ」
八百万の神と言って、いっぱい種類があるのは知っているけど、そんな球体に口と手がついたゆるキャラを祀っていていいのか。てか、見えるようになった自分、大丈夫なのか。
「テラちゃん。地球みたいだから、そう呼んでるんだー」
それは神社としていいのか。寺になってないか。神仏融合してないか。
まぁ、御利益があるならなんでもいいけど。それにしても、まさか幼馴染が、独り言を言っていると思っていたのに、実は、こんな丸い変な生物と会話していたなんて。一方的に幼馴染がかまってるだけにも見えるけど。
ぴょんぴょん跳ねたり、転がったり、忙しい神様だ。じっとしていられないのか。
「子供の時はサッカーボールと思って、蹴ってたんだよ」
おそれを知らない無邪気な子供。意外と、このテラちゃんは、泰然自若としておおらかな素晴らしい神なのかも。僕の願いも叶えてくれたみたいだし。
まぁ、役には立たなかったけど。
「というか、巫女さん幼馴染も、何か願ったりしたのか」
「うーん、なんだと思う?」
「はい、おっぱいを大きくした!」
早押しクイズ来たこれ。
「ハズレ」
「身長を大きくした!」
「ハズレ」
「好感度を操作できる能力を持った」
「おお、よく分かったね。すごーい。わたしは、他人への自分の気持ちを完全にコントロールできるのです」
「え、マジッ」
完全感情コントロール能力。すごい、現代人には必須。ストレスなくしたりもできますか。
「嘘。というか掃除が進まないよ。静かにしてて」
くそ。好感度がゼロだったから、そうだと思ったのに。本当にゼロじゃないよね。ちょっと確認してみるか。
『0』
頭上に高らかに挙げられる唯一無二の数字。
実は二桁しか表示できなくて、バグって0なんですとかないですか。よくあるテンプレですよ、数字のマジック。実は、三桁、四桁でチート俺tueee。
「幼馴染さん、僕への好感度をもう少しお上げ遊ばされませんか」
「うーん、テラちゃんに願ってみれば」
「僕の好感度は神に頼まないと上がらないほどですか。そうですか」
落ち葉が悲しく、ホウキで集められていく。あまりの無力。
ああ、落ち葉になって、巫女さんに優しく集められる人生が良かった。
「変なこと考えている」
「僕の思考を読むんじゃない」
「それだよ」
竹ボウキ、こっちに向けてるけど、腕がプルプルしてるよ。
「それって?」
「わたしの願ったこと。人の考えていることが分かるってね」
バカバカしい。そんなことがあったら、僕の叶えてもらった力と差がありすぎる。そんな力があったら、モテ街道の表参道を歩き回る。
「だからね、君のことは大嫌いだって、常に思ってるんだよ。だって、君、わたしのこと好きすぎでしょ」
「それの、何がいけない?」
幼馴染を愛する気持ちに、何か問題でも。思春期になれば、誰だって、身近な女子に好意を抱くもの。それは関係が長いほど深くなっていくのだ。
「憶えてない。わたし、君の幼馴染じゃないよ」
フッと笑う彼女は、悲しい目をしていた。
なにを言っているのか。
いやいや幼馴染の定義問題は重要だけど。
どう考えても、僕たちには普通の幼馴染の普通の記憶があるじゃないか。普通じゃない部分も多いけど。
「かつて、幼馴染の少女は願いました。せめて幼馴染の男の子が悲しまないように、とーー」
巫女さんは、竹ボウキを賽銭箱に立てかけて、テラちゃんを抱き抱えて、ナデナデしている。
「好感度を知ろうとするより大事なことを願う気はなかったのかなぁ。そうすれば、きっとーー」
もっとマシな結果になったんじゃないかなーー。
あなたの記憶に、もう彼女は存在しないーー。
「ぼ、僕の幼馴染は、こんな巫女さんで、変な能力を持っているような少女じゃ……な…………」
いや、でもーー。
「とりあえず、巫女さんは大好きなので、幼馴染という前提で交際をごらぼーるぅ」
テラ様が、直球で投げられて、僕の顔面にストレート。
好感度が0より下がらないのはいいことだ。
「サイテーすぎる。だいたい、君の幼馴染がわたしを身代わりにしたのが、悪いんだけど。振られたぐらいで、大げさなんだから」
「幼馴染量産型よりも、巫女さんレアキャラに惹かれる僕を、神よ、許してください」
テラ様が、僕の頭の上で跳ね続けている。
神のボディランゲージが分からない。
「今は、記憶のない系主人公なんだから、幼馴染も量産系じゃなくなってるでしょ。早く、その好感度が見える能力で一番好感度が高い子を探してきなよ」
ああ、テラ様と一緒に竹ボウキで僕は掃かれていく。
よかった。病院で入院している幼馴染が死の間際に願った的なシリアス展開じゃなくて。巫女さんのミステリアスに呑まれるところだった。
さて、好感度が一番高いのは、『83』という文字が教室で見えたけど、いやいや、あんな美少女を振るバカはいない。『63』もあったな。
というか、これって、双方が幼馴染だった記憶を失っているのか、僕だけ失っているのか、どっちなんだろう。
もし双方だったら、僕はナンパみたいに思われる。片方だったら、誤魔化される可能性もあるけど、まぁ、どうにか幼馴染再生計画を実行しないと。
人は記憶から忘れたときに死ぬのだよ。ああ、僕はクラス内で息しているのだろうか。
そうだ。
そもそも教室内にいるとは限らない。
というか、もし僕のことを『100』愛している謎の未知の少女がいたら、どうするんだ。
巫女さん、破綻しているので、運命力を信じてみようと思います。つまり、女子総当たりです。
『83』にはいかない。安直な解答は引っ掛けだ。毒まんじゅうに違いない。
数日後。とある神社。
「巫女さん、僕の好感度平均が、30ぐらいなのはどうしてですか。傷ついて夜しか眠れないので、膝枕してください」
「やだよ。ーー清々しいほどにクズだからね。同じ学校にいるということが不幸に感じるほど」
幼馴染量産型巫女属性付与毒舌パワー追加。
「わたしのこと、毒舌キャラにパワーアップさせないで。だいたい好感度は20が赤の他人だから、同じ学校の生徒なら、それぐらいで十分でしょう」
「いや、実は、気づかないだけで、実はモテモテハーレムな好感度になっていると、陰ながら期待していたんだ。だけど、蓋をひらけば、平均もこの程度。70なんて皆無。おかしい、世の中、間違っている」
「わたしが、考えていることが分かるからって、建前を捨てないでくださいねー」
この巫女さんの落ちる姿が見てみたい。けど好感度が0から微動だにしていない。硬いぜ、鉄壁のアイアンメイデン。まさか男子が嫌いとか。男性不信なのかもしれない。僕のように、みな紳士とは限らないからな。邪な願望を抱いている男子に幻滅して、おいたわしい。
「勝手に、変な設定つけて同情しないでよ。それで幼馴染とは仲直りしたの」
「わかってるだろう。僕の周りに、そんな好感度が高いやついないんだよ。まさか引きこもってしまわれたとか」
「それはないけど。心を閉ざして、好感度が下がっているとか」
「なるほど。幼馴染は本当は巫女さんだったんだなっ」
「天誅っ!!」
竹ボウキで一本取られた。面あり。
もう分かったよ。分かりました。
好感度『83』の麗しい少女に、行けばいいんだろう。
というか、僕は、このレベルの女子を振るほど、面食いだったか。もう、よろこんで抱きついて、骨までしゃぶる尽くす気がするけど。
なぜ振ったんだ、数週間前か、数ヶ月前か知らないけど。まさか、数年前で、その時は可愛くなかったとか。
「君は僕の幼馴染か」
おお、一度も言われてない言葉ナンバーワンな気がする。幼馴染かどうか、そこが問題だ。
「人違いです」
「そうか。やはりな。僕の中での幼馴染は、神様の股間を蹴り上げて喜びはしゃぎ、同級生の男子を竹ボウキでめちゃくちゃにするワイルドな少女だからな。幼馴染は、僕の秘密を暴きたてて、僕を脅して利益を貪る邪悪な存在だ。いずれ、何か思い知らせてやらないと気がすまない。けど、何もかも筒抜けで、どうしようもない」
「ずいぶん、特殊な幼馴染なんですね」
「そうだよ。そうなんだ。突然、神様と独り言を話し始める痛いメルヘン女子なんだ。もうね、きっと、まだパンツはキャラクターパンツに違いない。いや、もしかしたらトランクスかもしれない。なんでもっと、普通な幼馴染じゃないんだ、と僕は後悔しているんだ」
『85』
あれ、好感度が上がった。やっぱり、これは、幼馴染ということなのか。そうか、そうだな。でも、僕の消された記憶は、もう戻ってこないんだよね。神様は意地悪で、一回しか願いはきかないらしいし、取り消しもできないようだ。
そもそも何を願ったのか、どうして願ったのかも分からないけど、ーーないものはない。どうしようもない。
だから、まぁーー。
「僕と幼馴染からやり直しませんか」
とりあえず、この子を幼馴染と思って、関わっていこうか。
あと、巫女さんもね。僕の記憶の中では幼馴染なんだから。
僕からすると、目の前の少女の記憶はないけど、向こうは記憶がありそうだし。
なんか、変なトライアングルに、なりそうだ。




