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教室の授業中でつい宣言したくなるけど、実際にやる人はいないということ


「自殺とかもさ、ついさ、ホームに電車がやってくるからやっちゃったみたいな、朝の睡眠不足の憂鬱とか、月曜日の億劫さとかで、俺は跳べるみたいな、アドレナリンの過剰とカフェインの過剰の相乗効果で、ザブンッと行ってしまうという、そういうことだって、思わないか」


 跳べるか跳べないかなんて、それだけのことなんだ。

 誰だって自殺を考えたり、嫌なやつを殺したいと思ったりするように。

 ちょっと、授業中の静けさが嫌になって、なんだか、ここで叫べば面白いんじゃないかっていう、脳の異常が発生して、大脳皮質や前頭葉が止める間もなく、太古の昔より来たれる爬虫類の大脳に従ってーー。


 告ったんだ。

『ずっと好きでした。委員長、付き合ってください』


「あのさ、自殺した方がマシじゃない。教室で、いきなり告って、しかも、振られるとか」


「いや、あれは、あまりのクラスの重圧に対して、救ってくれるために言った言葉で、本心ではーー」


「本心では、きっと、うざっ、死んで、ぐらいに思ってるよ」


 俺の友人は俺を慰めてくれる気がゼロのようだ。

 ああ、なんで、あのとき、あんなことをやってしまったんだろう。

 だいたい50分もジッとしていれば変な妄想ぐらいするだろう。テロリストが攻めてきたりという考えや、つい同級生の可愛い子をスケッチしたり、即興のメロディにイタい歌詞をつけたり。動物は動く物って書くんだ、止まっていれば植物と変わらない。

 それに、夜の寝るときにも、いろいろ妄想しているだろう。とてもではないが、口にはできないリビドーを。昇華もせずに。枕の下に、お宝本を敷いて寝る機会があっただろう。

 



「あ、可哀想な人」


 俺が一週間登校拒否をした原因である人物が、なんでもないように近づいてきた。

 まぁ、委員長からすると、どう考えてもとばっちりなんだけど。


「委員長。僕の名前は、河合かわいだけど、名前は『そう』ではない」


「まさか学校に来れるなんて不登校になるかと思ってた」


 委員長なのに、委員長とは思えないようなことを口にする彼女は、口元に不適な笑みを浮かべている。本当は、不登校になるなんて思ってなかったくせに。

 てか、このまま不登校しておけば、実は委員長が見舞いに来たりしていただろうか。もう遅いのか、俺は今からでも不登校を連続すべきか。


「委員長、俺のことを可哀想だと思うなら、その勇気のために、付き合ってくれても――」


「バカなだけでしょう」


「仕方ない。今度、高所での紐なし綱渡りで愛を実証するよ」


「やめなさい。紐なしバンジーで我慢して」


「委員長……。それは、なんか止めているようで確実な何かを狙っているよね。今度、遺書を準備しておこう。振られたので飛び降りますって」


 これで、マスコミが、世間が、世論が、四苦八苦だ。ざまぁ。


「なんか全会一致で無罪を取れそう」

「あ、俺も無罪だと思う」


 クラスメイトが委員長に洗脳されている、だと。

 ナイチンゲールとバラを読んでこい。そうすれば愛と死のはかなさが分かるから。


「委員長……委員長なら、オッケーしてくれるって信じてたのに」


「わたしはクラスメイトのおもりまでする気はないの。だいたい何回振られたら、気が済むの。状況が違うから振られているわけじゃないから。ただ、お付き合いするには、ちょっと体裁が悪すぎるから」


「つまり、こういう告白なら受け入れざるを得ないと思わせないと、委員長は手に入らないと」


 委員長、固い女だぜ。


「うーん、そうだなぁ。テストで一番とか取れたらいいけど。あっ、全国模試ね」


 うわぁ、遠回しに完全に振られている気がする。

 しかし、こういう強い否定をするタイプの方が、デレたときに、デレデレになるに違いないんだ。ちょっとクール系というには、お茶目がすぎる委員長だけど。クーデレに近い喜びをくれるはず。


「一週間も休んだ分、成績下げないでね。なんのために、わたしが勉強を見ていると思っているの」


「いや、ほら、勉強を教えてもらっている間に、二人の関係も進捗が――」


「ないない。わたし、いまのところ、彼氏を作る気はないの」


「委員長。受験が終わったら、付き合ってくれるってことっ!」


「ポジティブがすぎるの。落ち着きなさい。そんなことを確約するわけないでしょう」


 そんな年下のお姉ちゃんと結婚するをあしらうがごとく。


「でも、同じ大学に行ってもいいんだろう」


「それは、そうだけど。別に受かると決まったわけじゃないからね。というか、このままだと、確実に落ちるよね」


 委員長の偏差値がバグっているせいだ。偏差値に上限はないのか。70とかの数字は見たくない。どこまであがっていくんだ。


「委員長、受験する大学、変わりませんか」


「変わりません。ご愁傷様」







「落ちました」


 見事に落ちました。番号がありません。

 いや、無理だって。さすがに、一年で埋まる成績差ではないです。

 仕方ない。

 委員長が、手に入らない人生に何の意味があるだろうか。

 人間、自殺は計画的にといって、完璧な計画と理性によって、準備を整えて行うものだ。受験のように。

 さて、できるだけ痛くない方がいいな。


「やっぱり。ないよね。はぁ、仕方ない。わたしも一年休学する予定だったし。もう一年見てあげる。一年しか待たないよ」


 あ、やっぱり、人生、なにがあるか分からないから、やめとこう。予定なんて未定だ。

 そして、俺は二度目の公開告白をしよう。後悔はしない。


「委員長、付き合ってくださーいっ!」


 合格者発表の場所で、落ちた人間が『愛』を叫ぶ。

 それから、赤ペンと付箋ばかりの参考書とノートのある生活に戻っていきました。

 

 ちなみに、また振られました。やっぱり・・・・・・。

 そして、家庭教師が、厳しすぎる。


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