幼馴染が貧乳だったので、貧乳好きと公言していたのに、いつのまにか大きくなっていました
「シンデレラバストこそヒロインの証なんだ。大きいだけの脂肪の固まりをぶら下げていたら、ツンデレ当て馬金髪ヒロインになってしまう」
「お、大きいのは嫌い」
「どんぶりよりもお椀派なんだ。品乳こそ日本の文化」
貧乳論、かく語りき。
小さい胸を気にしているであろう幼馴染に、俺は、圧倒的な優しさを込めて言った。
大事なのは大きさじゃない、と。
巨乳なんて成長限界に早々に達して、垂れ下がるのみ。貧乳こそが、その小ささにツヤと曲線の美が込められた志向の噐なのだ。
大和撫子はつつましさが大事なのだ。
わたしは、親友と、部屋で勉強会をしながら、愚痴っていた。
「ううぅ、幼馴染が貧乳派で困った」
「わたしだったら、ソッコーで幼馴染だったという黒歴史を、抹消したい勢いになりそう」
「あ、あれで、優しいところもあるんだよ。それに、わたしが巨乳がいいのって聞いちゃったから、その反動のようなもので」
「あー、言ってたね。お姉ちゃんの胸に視線がいってたからって。ムッツリ」
「わたし、ムッツリじゃない」
「というか、もう正直に言ってしまえば?」
いまさら、言えるわけないでしょう。実は、サラシで無理やり、大きくなっていったのを抑え込んでいたなんて。
意味が分からない人だって思われる。引かれる。負い目にもなるかもだし。
あー、でも、もう、結構、キツい。
「今、何カップ?」
「Cだけど」
「C、意外と男って、胸のサイズわかってないから、Cで普通かもよ」
「あんなに胸に関して力説しているのに」
「リアルな胸なんて見たことないんだから、どうせ。グラビアとかHな動画とかばっかで。あんなに胸は普通ありません。ざっけんじゃねぇ。スリーサイズなんてのせて、自信満々か」
あーー、荒ぶる乙女だ。たしかに、モデルのスタイルは現実離れしているけど。
「どうどう」
「よーし、やっちまおう。ギャップで誤魔化せ。幼馴染に見せてしまえ。パットを入れて、Fカップぐらいに盛ってみようぜ。反応見よ、反応」
親友曰く、一度膨らませて縮めれば、バレない。
わたしには、理解できない理論だったけど。藁にもすがる想いだったので、受け入れたのだった。
わたしは、バカだった。
風船のように、煙と一緒に高いところに上がっていった。
俺は、親友と、部屋でゲームをしながら、男同士の真剣な会話をしていた。
「幼馴染の胸が育ち盛りで、どうすればいい」
なんだ、最近のあの超乳は。
第二次性徴とは、メタモルフォーゼのようなものだったのか。
胸とは、風船に空気を入れるように、ドシドシとつくものなのか。コブ取りじいさんに、つけられたりしたのか。
「お前、あれはパットだろう、おそらく。いくらなんでも、女体の神秘を超越している」
親友の冷静さに、僕は冷静になりかけた。
パッド。
どのみち、混乱は残った。
「え、なんで」
パッドなんて、胸におさめるのは、巨乳への憧れを腐らせた人間だけだ。
あ、今、大多数のパッド使いを敵に回した気がする。
「女の見栄。というか、婉曲な、幼馴染ウザいじゃない。貧乳貧乳言われすぎて」
あっ、衝撃の事実。
というか、途中で、やりすぎじゃね、俺って、思ってました。
やめ時を見失ってました。
だって、もう、それを言うのが日常だったから。
「え、俺って嫌われて。まさか、実はウザいだけの腐れ縁、幼馴染と、そろそろ縁を切りたい件について」
そういう展開なのか。
謝った方がいいのか。同い年の男子の下ネタに、もう付き合えないから、巨乳化して、その真意を伝えているのか。
「あー、気づいたか。親しき中にも、なんとやらで」
「俺、謝ってくるよ」
潔くーーそんな傷付けるつもりはなかったんだ。
僕は純粋に、好きな女子のオッパイが好きなだけの、どこにでもいる健全な青少年なんだ。
わたしの部屋で、親友と、女子トークをしていた。
「そろそろ、いいんじゃない。パット減らしてこーう。錯視を利用するんだ。今なら、Cぐらいの普通のバストに戻してもバレない」
ホントかなぁ。
鏡で見ると、普通に、あるサイズだけど。
「うん。わたし、Cでも貧乳」
思い込みって大事。
Cは貧乳です。
「うんうん、相対的貧乳だよ」
あとは、着痩せするみたいに、服で誤魔化そう。
なんとかなるよね。
なんたって、サラシで抑え続けてバレなかったんだし。
胸の大きさなんて、観察なんてしないし。
でも、最近、目立ってたしなぁ。自然と、サラシ外せばよかった。
後の祭り。
よし、謝ろう。
俺は、朝、一緒に登校しようと、幼馴染の家の前で待っていった。
貧乳貧乳って、もう言わないって。おっぱいに貴賎なし、と。
そして、乳ネタは、封印すると。
僕もいい加減、デリケートな問題に触れないことの重要性ぐらい知っているんだ。
「あ、ーーえっ、えええぇぇっ」
俺は、幼馴染の胸元を見た瞬間に、逃げた。
教室に乗り込むと、朝早くから来ている親友をつかんで、渡り廊下の自販機前に連れ出す。
「おい、どういうことだ。萎んだぞ。今度は。なんのトリックだ。俺は、胸について理解が足りないのか。もしかして、胸って大きくなったり小さくなったり」
動揺が隠しきれない。
俺は狐につままれているのか。
おっぱいの呪いなのか。
「まぁ、呼吸すれば少しは」
「そんなレベルか」
見てないから言えるんだ。あれは、風船に針を入れて、指でシューと少し抜いたぐらい縮んでいた。
推定Cカップだ。
Fぐらいあったのが、Cになっているんだ。
いや、俺も覚悟していたさ。FからG、Hへと上がっていくことを。胸は大きくなるものだから。
でも、あんなに小さくはならないだろう。
「着痩せするタイプなんだろう。隠れ巨乳かもよ」
「どれだけ、キツく服を着ているんだよっ!」
「もう、生で確認してこい。めんどくさい」
「生で見てるよ。俺は、この目でーー」
「そうじゃなくて、もう服の上からじゃなくて、直接見てくればいいじゃん。幼馴染だろう」
「お前、知っているか。幼馴染の裸を、無条件で見ることはできないんだ」
「そうか。意外と、『お風呂入ろう』『うん、いいよ』ってならないのか」
「そんなエロゲもビックリな展開を俺は知らない」
ダメだ、こいつは頼りにならない。
もういい。
やることは変わらない。俺は、誠意を持って、謝罪をするんだ。
そして、伝えるんだ。
「僕は、キミの胸のサイズに関係なく、キミのことが好きだ」
「誰もが、初めはAカップなんだ。初心忘するるべからずと言ってだな。結局、一周回って、ちっぱいへと戻ってくるんだ。思い出の中には、いつも小さい胸があるんだ初恋は貧乳とともに」
「はー」
「だいたい、小さい胸を気にして恥ずかしがっているところが萌えるだろう。身長高い女子も、コンプレックスが可愛いだろう。だいたい貧乳という漢字が良くない。貧富の差を胸で表す差別表現に違いない。まな板とかタイラーとかペッタンとか、失礼にも程がある。平地こそ安住の地。少しの丘と起伏で十分なんだ。みろ、ヨーロッパの平原のなだらかな美しさを。実りは、そこにある」
「そこに山があるから、って知ってるか」
「巨乳派は黙っていたまえ。大きければいいなんて薄っぺらいことを言うな。山も谷もいらないんだ。日本の技術は小型化が得意だし、小さいものを大事にするのが日本人らしさなんだ。小物にこそ魂が宿る。小さく見せるブラさえ流行るのだから、原点回帰こそ大事。柔よく剛を制す如く」
「後ろにいる幼馴染が引いてるぞ」
「そもそも、小さい方が安心感があるだろう。包容力とか、母性とか言っても、小さい胸の魔力には勝てないわけだ。巨乳というロケット砲には、攻撃性を感じるわけだ。しかし、げふぉぉぃええじき」
「ごめんなさい。回収してくね」
「よろしく」
「あっ、そうだ。巨乳派の親友くん、わたしの親友が、お怒りのようです」
「え、なんで」
「じゃあね」




