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妹にメイクされただけなのに、高校デビューがおかしなことに

 高校デビューというものをしようと思った。とにかく、凡人の凡な中学生活を送ってきた私。でも、高校生になったら、さすがに、恋の一つもしたいし、せめて、同級生と楽しく学生生活を送りたい。

 だから、だからね。

 妹にメイクをしてもらったんだけどーー。



「これ、わたし?」

「え、そだよー。わたしのメイクテクは、プロ級だからね」


 プロ級なのは知ってたけど。お母さんのメイクもしてるし、美術部だと、メイクも習えるの。そんなわけないよね。石膏像で遊んでたりするの。


「これは詐欺メイクじゃない。エグくない。やりすぎでしょ」

「ええ、ナチュラルでしょ。ちょっと化粧しているだけにしか見えないって」

「見えないから。さらに、詐欺感が強いんだけど」

「姉の高校デビューのために、頑張りました」


 妹は、そう言って、嬉しそうにしている。鏡の前には、美少女二人。一人は、生粋の純粋培養、もう一人は、養殖。


「だいたいお姉ちゃんも、顔はいいんだから。あとは、ちょっとアイメイクして、小顔に見えるようにすれば、童貞を落とせる高校生の完成だよ。あっ、姿勢も注意してね。お姉ちゃん、ほっとくと俯いちゃうし、しっかり前向いて、バッチリ自信あるふうに歩けばいいよ」


 自信がないのは、母親と妹と一緒に歩くと、あんまりにも自分のルックスに自信が持てないせいなんだけど。

 まぁ、でも、これは嫉妬。ダメな感情。なんで、うちの家系は、こんなに綺麗なのか。漫画やアニメの世界から飛び出してきているの。現実は、もっと優しくあっていいでしょうに。


「ほらほら、スマイルスマイル。男なんて、微笑むだけで、キルできるよ。チラチラ見てくる男に、ニコリするだけの単純な作業だよ」


「姉の高校デビューを(いくさ)と勘違いしてない」


 恋は戦争とは、言うものだけど。


「クラスルームは、戦場だよ。まぁ、わたしは女子校だから、関係ないけど」


「ひ、卑怯なっ」


「お姉ちゃんも、女子校にすればいいのに」


「わたしは、こういうのがしたいの」


 本棚の一角を指差す。


「ああ、それ。少女マンガ、ねぇ。わたしはパス。ドロドロ感がたりませーん。やっぱ、サメに食べられたり、恐竜に食べられたり、牢屋から脱獄したりしないと。甘すぎて角砂糖食べてるみたい。ヴィーナスにはヴォイオレンスがないと」


 R15、守ってるのかな、うちの妹。


「いつから、うちの妹は、血に飢えてるの」


「そっち系の特殊メイクも、する?個人的には、そっちの方がいいんだけど」


 うわー、楽しそうだなぁ。ブラシを縦にもてあそぶ。

 美術部には問題がありそうだなぁ。


「……え、遠慮しとく。てかっ、時間。これ以上、ダベってられない」


「食パンくわえていけばー」


「それは、さすがに古いし」


 どこの石器時代なのよ。

 ダメダメ、妹と話していたら、遅刻ギリギリになる。





 電車にギリギリ乗り込み、なんとか間に合う。この電車に乗れないと、うちの学校には間に合わないんだよなぁ。


 ああ、少し崩れちゃったかな。

 いや、大丈夫か。

 でも、本当に、これで行くの。わたし、これからずっと、これ。

 電車のガラスに映る自分とは思えない整った顔の美少女。

 いや、ムリじゃない。こんなメイクを毎日朝にして、学校に通う。

 ムリムリ。絶対っ。

 妹に、そこまでさせられないし、自分でしろと言われても、もはや神業すぎて。


 やっぱり、やめよっかなぁー。

 これは、やりすぎ。



 わたしは、学校前のコンビニに入る。同じような制服の少年少女。トイレでクレンジングシートで適当に、メイクを落としてしく。

 うん、普段のわたしだ。どこにでもいそうな少女。

 さっき、駅から学校近くまで歩いた感じ、高校生だし、まだメイクをしている人もいればしてない人もいる。

 とりあえず、ノーメイク、もう、当たって砕けろだ。

 結局、メイクで変に気合い入れて目立つよりいいでしょう。

 ああ、空回ってるなぁ、わたし。




 クラス。知り合いもいないし、誰にも声をかけられない。

 別に振り向かれることもなく、クラスの女子生徒Aとして、空気に溶け込んでいく。

 これじゃあ、中学と一緒だなぁ。ため息を吐く。部活、どうしようか。中学は、なんちゃってテニス部だったけど。一回戦負けする弱小選手。


「いや、マジ、可愛かったって」

「ウソウソ、いないって」

「いや、リボンの色、一年だったし」

「後ろ姿だったら、誰でも可愛く見えるもんだって」

「いや、ちゃんと顔、見たって」


 ああ、はいはい。クラスの可愛い女子探しね。見た感じ、後ろの席の二人組とか、前の席の本読んでいる人とか、可愛いと思うけど。

 うーん、あんな目、向けられたくない気もする。いや、でもなぁ、空気系女子もイヤ。

 

「噂されてるぞ」


「え、っと誰?」


 ツンツンとワックスと立てた、顔は悪くはない男子。でも、ちょっと怖いんだけど。近っ、初対面でしょ。


「さっきメイク落としただろう」


 うわー、女子がトイレに行くの、見てた宣言。ストーカー男子と。変態俺様系はムリ。守備範囲外。

 しかも質問にも答えない。ありえない。


「ん、あれ、分かんない。雲雀(ひばり)耕助(こうすけ)。中学一緒だっただろう」


 んんー、えっと、雲雀耕助?

 いやいや、雲雀くんは、なんか教室の隅で、丸メガネをかけて、根暗っぽい感じのーー。

 

「高校デビュー狙いだったんだろう。一緒に頑張ろうぜ」


 ああ、男子三日合わざればーー、を実感しました。

 だいたい、そんな顔がいいなら、メガネかけるな、髪をセットしておけ。メガネ外すと、容姿端麗は、もう使い古されてるのっ。

 外すメガネが欲しいです。

 驚きよりも呆然が勝ちました。






 入学式も終わり、ホームルームも終了。あとは帰るのみ。

 代わり映えのしない高校生活がスタートしそうです。

 そして、雲雀くんは、見事に、高校デビューを飾っているようで。


「やっぱ、いねーじゃん。幻の美少女」

「上クラスなんじゃね。リボンの色、見間違えたんじゃん」

「いやいや、ぜってぇ、ねぇって」


 うわぁ、これって、わたしの噂なの。名乗り出たくない。第一話、幻の美少女、完。

 そして、にやにやと笑う雲雀くん。全てを知って、ほくそ笑む性格悪っ。

 バラすなよ、絶対に。

 わたしも中学のあんたを知っているだし。まぁ、わたしは陰キャほどじゃなかったし。別に、並オブ並。


「あ、見つけた」


 廊下の方から、男子の声。振り向くと、さっきの入学式で、新入生代表挨拶をしていた人だ。たしか、朱雀(すざく)小五郎(こごろう)だっけ。

 あれ、わたしの方に歩いてくる。なんで?


「一目惚れしました。付き合ってください」


 はい?

 わたしは、硬直した教室と同じように、完全に固まっていった。

 なんて、潔い、告白、キュンとしましたーー嘘です。

 新入生代表って、成績トップだし、頭いいはずだよね。なんで、こんな教室のど真ん中で、いきなり、ド直球で公開告白をしてくるの。冷静さと成績は、比例しないの。

 頭の中のツッコミ回路だけは、グルグルと回り、そしてーー。

 保留、保留、返事は後でいいはず。こんな見られているところで断るのも、できないし。


「ほ、ーー」


「待ってよ。こいつは俺が狙ってるんだ」


 ひ、雲雀くん。ちょっと、まって。そのキャラやめよっか。

 高校デビューを勉強する本が、きっと間違ってるから。ヤンキーブームも、もうかなり前に終わってるよ。


「タイム、タァーーーイムッ!!」


 はぁはぁ。

 わたしの叫び。

 ほんと、意味分かんない。

 なんで、入学式終わった後に、同時に二人からの告白を受けないといけないの。

 妹も、入学式で告白された、とか言ってたけど。そんなものは、超絶美少女に、いきなり告白して、印象に残ろうとするバカがする一発芸であって。

 あ、、、この二人もバカでいいか。


「あのね、わたしのどこが好きなの?」


 よし、論理的、ロジカルに振ってあげよう。二度とバカな告白をして、女の子を困らせないように。答えられないでしょう。


「もちろん顔だ」


 うわー、学年一位、どストレート再び。

 ツーストライク。

 いや、スリーストライクで三振アウトとかないよ。


「顔だが、俺には他にも分かる。妹が一人いるな。それから、そうだなぁ。少し自信がない。でも、本当は勝ち気な性格だ。中学はテニスをしていただろう」


「なんで妹がいるって」


「姉っぽい雰囲気があるからな」


 あ、論理的じゃない人の思考だ。天才系の方ですか。どうせ、なんで分からないか分からないとか言って勉強を教えれないタイプだ。

 それで、それは推理なの、ストーカーなの、どっち。

 ミステリで、なんとなく犯人っぽいから犯人とかは失礼だよ。


「これ、俺も答えるの。全部だけど」


 はい、定番な解答が来ました。全部?

 雲雀くんに、わたしの全部を見せた覚えはない。決してない。


「頑張ってるし、それが空回りしているのも見てて、飽きないし。中学の時は、ずっと見てた。テニスも下手だけど、努力してるし、それに、僕に声もかけてくれた」


 僕に戻ってるよ。そして、声をかけた、いつだろう。ごめんね、憶えてない。

 というか、サラッと、ずっと見てた発言。やっぱり、ストーカーですか。


「はい。まずは顔が好きな、朱雀くん。それはメイクです。幻想です。諦めてください」


「え、今の顔も好きだよ。どっちも美人だし」


 はい。スリーストライクっと。

 ダメだ。正直ものだし、本気で言ってそう。

 顔、赤くなってないよね。


「えっと、次、雲雀くん。努力家が好きなのは分かったけど、世の中、頑張っている人はたくさんいます。わたし以外にも、女の子はたくさんいるので、まずは、見る目を養ってーー」


「でも、僕はキミだから、頑張っているところが好きなんだ」


 ううぅ、もうダメだ。

 ここは、もうダメだ。なんで、高校デビューしようとして、好き好き言われないといけないの。もっと遠慮しろ。

 それは、後半戦でしょう。いきなり前半戦で飛ばしてこないでよ。


 よし、逃げよう。

 少女マンガでも、もっとゆっくりとした展開だよ。いきなり、食われるシーンから始まるヴァイオレンスな映画じゃないんだから。

 脱兎の如くーー、あばよ、二人とも。




 

「妹ちゃん、助けてー」


 妹型ロボット、お助け。

 高校生、怖い。TPOを知らないようです。


「どうしたの、お姉ちゃん。高校デビューに成功しなかったの」


「特殊メイクして。男子高校生の恋が冷めるような」


「いったい、何が!?ーーまぁ、いいや。任せなさい」


 嬉々として、妹は、手を動かしていった。

 今までで、一番、楽しそうな妹の姿だった。




「どうだっ!」


「ダメ。これは、ダメでしょう」


 鏡の前の現状に、耐えらません。

 わたしの顔面は、特殊マスクをかぶってるんですか。


「エグくない」


「これで電車は乗れません」


 ホラー映画の怪物じゃん、こんなのーー。

 冷める前に、そもそもわたしと認識されないんだけど。きっと。

 いや、歩き方で分かるとか言われたら、どうしよう。


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