幼馴染と呪いのメールを回し続けてましたが、返信を忘れてました
「このメールに24時間以内に返信しないと、不幸なことが起こります」
テンプレート。
幼馴染とのメールのやり取りをしていた時、辞めたくなくて付けたのがきっかけだった。
こうして、僕たちの終わらないメッセージ返しが開始した。
それは、デバイスが変わっても、変わることはなくーー。
「宿題やったか」
「やったよー。まだ終わってないのー(笑)」
毎日のように、たわいもないこと連絡を取り合う。
「終わってるよ」
不幸のメールのおかげで、何も気にせずに、メールを送り合える。そう、ただ不幸にならないために、メールを送っているだけで他意はない。
他意はないんだ……。
ある日。
あれ、昨日、もしかして俺から送らないとダメだった日か。
待っている間に、寝てしまっていた。
「おはよう。24時間以内だ。少し時差が激しくて」
返事がかえってこない。
いや、朝だしな。とりあえず、朝飯をーー。
スマホが震える。
「なにを言っているのかな?呪いのメールだから、もう間に合わないね」
「いや、きっとメールサーバーで止まってただけなんだよ」
「残念ながら、もうあなたは呪われてしまいました」
「いったい、どうなるんだ」
「もう一生、離してあげない」
うん、ご褒美だ。
「話してあげない」
それは、ご褒美じゃない。
変換ミスをするな。一瞬、呪いは祝いかと思っただろうが。人を呪わば穴二つで、一緒にフォーリングラブかと思っただろうが。
「黒歴史を一つ漏らしまーす」
「バカ、やめろっ」
「この呪いは強力だよ〜」
そう、こうやって返さなくても、謝り倒せばすむと考えていた。
だが、甘かった。
呪いのメールの効果は実在する。
その日から俺の周りで不幸な事態が起き始めた。
まさか、本当に、幼馴染が沈黙を通し始めるとはーー。
そしてーー。
「反省するまで話さない。呪いのメールだから。簡単に許したら、また返事忘れそうだし」
「いや、忘れないって」
「反省、してる??」
「してるしてる」
「嘘っぽいなぁ。試練を与えます」
「無理なのは無理だぞ」
「かぐや姫より簡単」
「かぐや姫の要求は不可能な無理難題だぞ」
数週間経っても、本当に話してくれない。
というか、試練の話は、どうなったのだろう。
話しかけても、繋がらない。
そんなある日、スマホのメッセージが来た。
「なんか、本当に話せないんだけど」
「いや、話してるだろう」
「口からの声。文字じゃなくて。映像、音声」
「冗談。ちょっと待て。いや、そもそも返信しなかったのは俺の方だが」
「どうしてくれるの」
「どうすればいいんだ」
「わたしの声を取り戻すために、旅に出てもらいます」
「ごめん。人魚姫?呪いならイバラ姫か白雪姫の方が良くないか」
「とにかく燕の子安貝を取ってきて」
「かぐや姫が混じっているが。そういえば、童話は人魚姫ってバッドエンドじゃなかったか」
「無理だった場合、わたしはメールだけのやり取りの存在になります」
どうすればいいんだ。
幼馴染が理解できない。無理なものは無理なのに。
そして、結局、燕の子安貝なんて見つけられるわけもなく。
幼馴染の家にも行ったけど、そこにも誰もいない。当然か。
けどメールだけは毎日のようにやり取りしていた。
ある時からメールはただ一方的に来るだけで返信しても返ってはこなくなった。ただ毎日決まった時間に時報のように、メールが届く。たまに、予定外の時間にも来る時があったけど、その回数も減っていった。
内心焦っていた。このまま一生会えないんじゃないかって。このメールのやりとりの先にアイツはいるのだろうか。まだ、そこにいるのだろうか。
だんだん返信するのが嫌になって、中を見るのも嫌になって、ただ未開封のメールが溜まっていった。
まだ月なら近いのに。
もう空を見上げる天体を越えていっているのだろう。肉眼で見える距離を抜けていったんだ。
僕たちの間に、空間と時間が寝そべっている。
24時間以内に返信できないほどの。
『わたしの声を取り戻すために、旅に出てもらいます』




