エロゲの世界に転生したけど、まだ童貞なので勘弁して欲しい
エロゲーとは、18禁のゲームなのだが、まぁ、当然、紳士たる者は、隠れて、こっそり、18歳だと思って嗜むものだ(自己責任)。
コンビニのエロ本も回収されて、エロ本自販機も無くなって久しいが、まだ俺のチェリーは、どうやらお隠れになっているようだ。
俺は、大学生でも、高校や中学のように思春期をこじらせて、さらには、ブラック企業にダイブ。
若かりし頃を、ドブサライに捧げたわけだ。
そして、現状、ブラック企業を辞めたが、労災も降りず、失業保険も、払っていたはずなんだが、なし。
もう一度働けと言われても、身体がボロボロすぎて。
もうゴールしていいよね。
俺、頑張ったよな。
俺は背後から近づいてくる死神に気づかなかった。
「こんな雨の路上で、歩いていたら、死神に会うぜ」
傘をさしたフロックコートの男。
タバコを吸いながら、いかにも健康の悪そうな肌の色。
「死神か」
「お前は死ぬ」
「待ってくれ。まだ俺は童貞なんだ」
「そんなやつ、山ほど見てきたよ」
「人生、もっと楽しくてもいいじゃないか」
「死神は、話し好きじゃない。じゃあな、来世に期待しな」
俺は、男の背中に、大きな鎌が見えた。
男の身の丈の数倍はある鎌が、俺の首をかっ飛ばした。
そう思った。
そうして、俺の肉体は、雨の中で、息絶えた。
◆◆◆
「ハッ」
どこだ、ここは。
部屋。知らない部屋だ。
死んだんだよな。
死神。
意外と優しいやつだったのかもな。痛くなかったし。
ああいう最後も悪くはないか。
犬死にという言葉の意味通りだ。
「もう、仕方ないんだから。わたしが起こさないと、いっつも」
明るい声がする。
ドアの向こう。
そして、何の遠慮もなくドアが開かれる。
「って、起きてるぅ!?」
起きてて悪いか。
というか、この美少女は。
エロゲーの『ドキワクメモリーズ』の美波サラ。幼馴染キャラの。
「どうして、修一が、もう起きてるなんて、お腹痛いとか、大丈夫」
起きていて、病気を心配される。
たしかに、この主人公は遅刻魔だったけど。幼馴染に起こされた後に、二度寝した時もあったな。
「大丈夫だ」
「ほんとにー」
サラが自然とオデコを押し当ててくる。
おい、そんなこと、人生で誰にもされたことないぞ。
近い。美少女が近い。
「もう、熱はないみたいね。よかった。なんで赤くなってるの。こっちも恥ずかしくなるでしょ」
「ば、赤くなってなし」
「うそー。めちゃくちゃ赤いからね。鏡見てくればいいよ。起こしたからね、早く下に来てよね。それと、朝から元気だね」
サラが俺の下半身にチラッと視線を向ける。
最悪だ。
おいおい、このエロゲ世界め。あからさまに、タテスギだ。
「今日の修一ちょっとおかしいよ」
「ん、なにが」
「朝食に感動したり、一緒に登校を嫌がらないし」
「そうか」
俺にとっては、他人が作った朝食なんて久しぶりだし、女子と登校なんて、学生時代には一度もない。これで、気分が上がらない方がおかしい。しかも、隣にいるのは、超絶美少女なんだから。こんな少女を邪険にしながら、他のヒロインに行く主人公はバカだ。一途で献身的で、優しい。男の理想の妄想じゃないか。ツンデレとか要らない。そう、もうただただ甘やかしてくれるヒロインこそ最強。
「ねえ、修一。わたし、何の部活入ろうかなぁ」
そうだ。今は入学式後。
ゲームの始まりと同じ。
この選択肢で、結構ヒロインルートが決まった覚えがある。
バド部だったか。運動部だったはず。
家庭科部や帰宅部、ミステリ研究会。みたいな選択肢が並んでいたような。帰宅部だと生徒会の雑用ルートだけど。
「運動部でいいだろう。中学と同じ」
「バトミントン?」
「そう」
「そっか、じゃあ一緒にやろうね、また」
「ああ」
よしよし、完璧に幼馴染攻略ルートだ。
俺はサラちゃんと、幸せな生活をするんだ。美少女がいるだけで頑張れる。ブラック企業も、周りが全員美少女だったら我慢するだけど。
エロゲ主人公は最高だなぁ。
初めから安パイが、強すぎる。俺のコミュ力だと幼馴染を作るのに苦労しそうなのに。すでにできた関係にのっかるだけ。
学校の授業は、もうつまらない。
転生の無駄骨だ。同じような授業を聴くなんて。
俺は気晴らしに、学校の屋上へと上がった。
これが、失敗だった。
このエロゲー、そういえば、もう一個ルートがあったような覚えが。
「誰っ?」
赤い目、赤い髪。制服をキッチリと着ている。
一ノ瀬ルカ。隠れキャラにして、このエロゲーの世界観ぶっ壊しキャラ。
俺は静かに屋上から後退りして、このストーリーのルートから降りようと。
「言わなくてもいい。分かってる。へぇ、転生者なんだ。異物が混入しているのね」
「な、なんのことだが」
やばいやばいやばい、このままオカルト大戦争みたいなルートには入りたくない。この世界の裏側みたいなルートはノーサンキュー。この世の表参道を歩きたいんです。バトル展開をするには歳を取りすぎています。
「アクト・バインド」
「ぐっ」
鎖のような赤い光の輪に両腕とともに身体を拘束された。
「さぁ、眼を見るのよ」
「絶対に断る」
記憶を読み取る魔眼。覚取の魔眼。
もう分かってるですよ。人の記憶を盗み見るな。プライバシー、守秘義務絶対。
「開けないと、一生まぶたとおさらばすることになるけど」
痛いんだけど、今、まぶたに針のようなものが当たってないか。冗談がすぎる。エロゲをしにきたのに、まだ童貞なのに。
開けます。開けますよ。
俺のじいの記録を読み取ればいい。
開ける。
あ、この子も美少女だ。
まぁ、絶対にノーだけど。中身って大事だよね。
「フーン、あなた、心の声も読めるのだけど」
「なにも思ってないです」
「面白いわね。この記憶が正しいとすれば、わたしとあなたはチギってしまうことになるのね」
「そのチギるの言葉は、なんだか俺を細切りにするニュアンスになってないか」
「さーて、どうかしら?あなたの記憶だと、ここはエロゲーの世界なのね。ちょっと読めない部分もあるけど」
「はい、そうです。エロです。エロエロです」
「変態ね、クズ。死ねばいいのに」
あ、やっぱり、女子は優しいのが1番だ。
この罵倒に付き合うのは、Mなる精神が必要だけど。ブラック企業で鍛えられた精神を持ってしても、ご褒美がないとやってられない。そう、こう強気な女性が、ころっと二人きりになると。
「ならないから。もうだいたいは分かったから。そのエロゲー通りに進むわけないでしょ」
「攻略しがいのないヒロイン。たとえ何があっても、攻略なんてしないから安心しろ」
「さーて、幼馴染のサラちゃんにないことあること話してこようかなぁ」
「待て。あれは最後のオアシス。天がくれた最高のヒロインなんだ」
「じゃあ、パシリよろしくー」
ああ、このルート、もう避けられないようです。
封印が解かれた妖魔と争う、このオカルトルート。
きっと製作者が触手とかを欲したせいです。マニアックな。いや、分かるけど。詰め込むなよ。
◆◆◆
近くの廃校舎。
木造建築の地下には、かつて防空壕代わりの大きな空間があってーー。
「きゃあああああっっ」
「なんで、そんな女みたいな声を」
「見るな、変態っ」
触手の妖魔に逆さまに吊るされるルカ。なんというテンプレ。てか記憶読んだんだから、捕まるなよ。
「こんなに暗いと思わないでしょ」
たしかに、映像だったから明るくしてたんだなぁ。
灯りひとつないみたいな描写だったし。
今も懐中電灯二つだけのライト。一個は、ルカの手を離れて転がっていて、もう一つは俺が持っている。
「さっさと倒せよ」
「斬りづらいのよ」
ルカが大きな日本刀を振り回しているけど、力が乗らないせいで、妖魔の触手を切り落とせない。
仕方ない。カッコよく助けてやろうゲームのように。
本当はもっと酷い目にあってから助けるんだけど、そこまで非情ではない。
ちゃんと、刀を持ってきてよかった。
こうして、妖魔を倒したわけだけどーー。
「惚れたか」
「バカなの。さっさと助けなさいよ」
うん、やっぱり、ダメみたい。
そうだよなぁ。記憶あるのバレてるし。
マッチポンプ感。
あー、サラちゃんルートに帰りたーい。
このオカルトルートは最後どうなるんだったか。
覚えてないなぁ。
おまけルートみたいなもんだし。
主人公死亡ルートとかはやめてよね。
「連続通り魔事件?」
「そう」
「なんで、そんなバカな犯人を負わないといけないんだ」
「これきっと、妖魔がらみね」
「あのさ、この妖魔って、いつになったら、終わるの?」
「すべての妖魔を倒すまでね」
エンドレスエイトな香り。
まさか負けるまで続くとか。
「あのー、俺の学生生活は」
「妖魔退治。人生二回目だしいいでしょ」
「俺、まだ童貞なんだけど」
「それが、何か」
エロゲー世界でも、童貞を全く捨てれる気配がない件について。