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 情報整理のためサーシャさんと一度別れ、(ホテルは一緒だけど階層は別)私達は急ぎ街へ出た。大通りから裏路地の迷路みたいな細い道を抜け、突き当たりにある店へ一直線に向かう。引き戸の前には『準備中』の札が掛かっていたけど、私は構わず戸を開けた。


「炎青さん!」


 少し怒りのこもった声に短い間を置いて、奥の部屋から炎青さんが変わらない笑顔で出てくる。


「や、そろそろ来る頃だと思ったよ」

「……聞きたいことがたくさんあります」

「だよねー!」


 あはは、と普段通りに笑うのは私の言いたいことがわかっているのか適当なのか……。両方っぽいわね。

 いつものカウンター席に座ると、炎青さんは笑みを崩さないまま肩を竦めた。


「ハーヴィス卿の件についてサラムさんから伝わってますか?」

「うん、聞いた。リオルド・ハーヴィス卿の言動と真意についての調査だよね。求婚されちゃって、レイラさんモテモテ~」

「茶化さないでもらえます?」

「あ、本気で怒ってるね。ごめんなさい」


 イラッとしたのが伝わったのか、炎青さんは苦笑に変わって一歩下がる。

 出された緑茶を一口飲んで不満をため息で落とすと、改めて炎青さんを見た。


「炎青さんを雇っていた方はハーヴィス卿ですか?」

「直球だねえ。どうしてそう思ったの?」


 質問に質問で返さないでほしいわ。軽く睨んだけど、とりあえず堪えて自分の考えを伝えることにした。


「あの魔獣使いが伯爵の別棟にいたこと、彼が口にしていた黒幕の存在、そして魔法使いの血を欲するハーヴィス卿の言葉に繋がりがあるように思えたので」

「なるほどねぇ。そうだよね、ザライアがあそこにいたのは明らかにおかしいもんねー」

「……ハーヴィス卿が炎青さんの雇い主であれば、あの男と炎青さんが別棟にいたのも頷けます」


 私が話し終えると、黙って聞いていた炎青さんは笑みを強めて軽く拍手した。


「七割正解~、僕の正式な雇い主はリオルド・ハーヴィス卿でーす」

「七割……。正式な、雇い主?」


 疑問符を浮かべて首を傾げると、ディーネは含みのある笑みを浮かべながら両頬を包むように頬杖をつく。


「正式じゃない雇い主がいるって口振りだよねー」

「……知っているような言い方だな」


 クロード様の言葉にディーネは笑みを崩さないまま目を向けると、炎青さんに視線を移した。


「何となくわかるだけ。炎青は嘘は言ってないけど真実も言ってない……いい加減、観念したら? また心にダメージ与えるよ?」


 ディーネの言っている意味はわからなかったけど、最後の言葉で炎青さんの笑みがひきつったのが私にもわかった。その変化は一瞬だったけど、苦笑してうつむいたかと思うと私に目が向く。


「怖い精霊と契約しちゃったものだね」

「え?」

「こっちの話。さて、どこから話すべきかな……サラムがいると進めやすいんだけど、出掛けちゃってるからなー」

「そういえば、姿を見ませんね……お買い物ですか?」


 お店に入ってから違和感があったけど、サラムさんがいないからだわ。それぞれ単体で会ったことはあるものの、お店では炎青さんと一緒にいるイメージがあるから彼がカウンター越しにいないのは少し寂しさがある。


「買い物っていうか、最近ちょこちょこ出掛けるんだよね。聞いても教えてくれないし、何日か帰ってこないこともあるし」

「そうなんですか……」


 サラムさんには色々お世話になっているから、お礼に火魔法の魔石を贈ろうと思って持ってきたのに。炎青さんが知らないってことは個人的なことか、知られたくないところに行っているのかしら?


「ま、レイラさん達が来る頃なのはわかってるはずだしその内戻ってくるとは思うけど。さて、話を戻してリオルド様のことだけど――そろそろご自分で説明してあげたらどうです?」


 私達ではない、別の相手に向けられた言葉に応えるように短い沈黙後――奥の部屋に繋がる扉がゆっくり開いた。

 現れた人物に私とクロード様は目を開いたまま固まる。


「ハーヴィス卿……!」


 ダークブルーの髪を軽く揺らし、ハーヴィス卿は困ったような複雑な笑みを浮かべた。

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