幕間・商業都市にて
レイラ以外の視点で区切りがついた場合は幕間使用が分かりやすいかなとつけてみました。今更感が否めない…。
カラカラと音を立てて引き戸が開き、聞きつけた炎青は珍しく思いながらもカウンターに出た。
「すみません、店は終わってるんですよ」
店内に入ってきた新緑の髪を持った美女は、豊かな胸に手を添えて美しく笑う。
「夜分にごめんなさい、サラマンダーはいらっしゃるかしら~?」
「……サラム?」
彼の正体を名指しする相手に炎青もすぐただ者ではないと察し、奥から出てきたサラムを見上げる。
「来たか。会ったな?」
「ええ、今さっきねぇ」
二人の会話に疑問符を浮かべながら見る炎青を一瞥したサラムは、面倒くさそうに口を開いた。
「こいつはシルフだ」
「シルフ……風の精霊? どうしてここに?」
「うふふ。サラマンダーからお話は聞いてないのねえ、いけずなんだからぁ」
「確証がねえから無駄話してないだけだ」
「わたしにはその無駄話を持ち掛けたのに~?」
「精霊だからだ。案の定、一枚噛んでただろうが」
「あらあら、わたしは悪いことしてないわよ~? 頼まれたからお手伝いしただけ、理由も意味も真意も企みもいちいち聞く必要はないでしょう? サラマンダーじゃあるまいし~」
鈴を転がすように笑ってはいるものの、気配はどこか不穏だ。サラムは軽く舌打ちすると、本題に入った。
「それで、感想は?」
「そうねえ、大事にされてるわね~って感じ。大事にし過ぎてる気もするけれどぉ、まあ契約したなら過保護になるのもわかる範囲ねぇ」
「……度を越してない、と」
普通の人間であればサラムの迫力ある眼差しに臆するが、シルフはむしろ愉しげにエメラルドの瞳を細めて見返す。
「……あの子ね、レイラちゃんと騎士くんがいい雰囲気になった時に気になる言葉を言ったわ。それがちょっと引っ掛かってるのよねぇ」
「気になる言葉?」
「ふふ、口付けで子供ができるって思ってたみたいよ。お子様よねぇ」
その時のことを思い出し、シルフは楽しそうに肩を揺らす。黙って聞いていた炎青は状況がわかったのか「アオハルだなー」とにやつきながら呟いていたが、当のサラムは厳しい表情で床を睨んでいた。
「レイラに触れられるのを極端に嫌がってるってことだな」
「ま、ただのやきもちって線もあるけどぉ?」
「あのイカれた奴にそんな可愛げがあるとは思えねえがな」
鼻で笑い、シルフに視線を戻す。
「わかった、それだけ聞けば十分だ。手間掛けたな」
「あらぁ、お役ごめんみたいなこと言わないでくれる~? レイラちゃんとはお友達になったのだからぁ」
「どうせ魔力目当てだろ」
呆れた物言いも気にせずシルフはうっとりした表情で笑みを強める。
「あの子の魔法は心地いいわねぇ。サラマンダーが気に入るのもわかるわぁ~」
「すり替えんな! 俺はあの馬鹿に腹が立ってるだけだ!」
「はいはい、そういうことにしておいてあげる~」
ブレない相手に舌打ちし、サラムは用が済んだとばかりに奥の部屋へ戻っていく。
残された炎青はサラムの背中を見送ってからシルフに目を戻すと、頬杖をつきながら口を開いた。
「……僕はその話の内容を詳しく聞いてもいいのかな?」
「サラマンダーが教えてないならわたしから言うわけにはいかないわねぇ」
「それもそうだね。じゃ、別の話。レイラさんは元気にしてた?」
「健康という意味では元気よ~」
「レイラさんとクロード、進展あったんだ?」
「ウンディーネが邪魔して口付けは出来なかったわ~。お互い満更でもなさそうだったのに、残念ねぇ」
「ふーん……やっぱり原作補正からは逃げられないのかな」
複雑な心境で一人ごちると、シルフは興味深々で覗き込む。
「なぁに? なんのこと~?」
「あはは、何でもないでーす」
精霊とわかっていながらも、こんな美女に詰め寄られるのは心臓に悪い。炎青がすぐに体を引くと、シルフはつまらなそうに口を尖らせた。
「あら、つれない。恋のお話したいのに~」
「そういうのは女同士の方が盛り上がるよ。レイラさんと女子会してみたら?」
「まあ、楽しそうな響き~。今度提案してみるわぁ!」
両手を合わせて目を輝かせたシルフは、奥の扉からこちらを覗き見している鈴に気付くと軽く手を振った。
「ふふ、貴女も女子会に来るかしら?」
「鈴にはまだ早いでしょう」
「あらぁ、生まれた瞬間から女の子は女の子なのよぉ? 異性を見る目は物心つく前から身に付いているのだから」
「……ところで精霊に性別の概念あったっけ?」
「何か言ったかしらぁ?」
素朴な疑問を口にした途端に殺気のこもった笑みを向けられ、炎青は無言で頭を横に振った。




