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「え!? あ、あの! ク、クロード様!!?」
な、何事!? なんでこうなってるの、どうしたの、何が起きてるの!?
訳がわからなくなってパニックになっていると、耳に小さく声が届いた。
「……お前を一人にしたくない」
「へ!?」
「俺が、お前と一緒にいたいんだ」
腕に少しだけ力が入って、体が更に密着する。これ、私の心音が聴こえてしまうのでは……。
そ、そもそもこれはどういう状況なの? 一緒にいたいとは、これ如何に?
「……あっ、クロード様も家で一人は寂しいということでしょうか?」
「……そうきたか」
「え?」
「いや、もうそれでいい。今はもう何でもいい」
……投げやりに言われたわ。また力が入ってぎゅっとされたし。ちょっとずつ力が入ってきて、次にまた力を入れられたら痛くなりそうなのだけど。
「あ、あの、そろそろ離してほしいです……!」
「……ディーネが戻るまで」
終わりが見えない!
ディーネが戻るまでって、朝まで戻らなかったらどうするつもりなのか。というか、戻ってきてこんなところ見られたら恥ずかしいでしょう!
「と、ところでどうしてこんな状態になったんです!?」
「お前を一人残したくなかったからだ」
「わっ、わかりましたから! クロード様が迷惑でないなら一緒にいますので!」
私はよかれと思ってのことだったけど、クロード様も寂しいなら無理に帰すつもりはない。一人暮らしだから、たまには誰かといたいと思っても不思議じゃないものね! でもだからって抱きしめるのは違う気がするけど!
何とか逃げようとしてもがっちりホールドされて、身を捩ることしか出来ない。それでももぞもぞ動いていると、頭上で軽く笑われてしまった。
うう、離してくれる気配がない。本当にディーネが戻るまでこのままのつもり? これ何の耐久テスト?
誰もいないのがせめてもの救いかと一旦抵抗を諦めて密着したままの胸に手を置き、ため息をつく。
「これ、他の女の子にやったら絶対勘違いされますよ」
「……俺を何だと思っているんだ」
「寂しんぼさん」
「…………はあ」
呆れたようなため息をつかないでほしいわ。
……わかってるのよ。本当は。
私だってここまでされて、そこまで言われて何も気付かないほど頭の中がお花畑ではないわ。ただ、見て見ぬふりをしているだけ。誤魔化しているだけ。
決定的な言葉を聞かない限り、私は鈍い女で通させてもらう。
だって、そうしないと本当にダメになってしまうから。もう手遅れだけど、引き返せないけど、今はまだこのままの関係でいさせてほしい。
それでも、ディーネが戻るまで本当にこのままだったらいいのに、と心の中で思いながら私はクロード様に気付かれないよう厚みのある胸に頬を擦り寄せる。
(……あったかいなぁ)
無言のままどのくらい抱きあって……もとい、抱きしめられていたのか。
時間が経って、クロード様も徐々に冷静さを取り戻したのか私を抱く手がピクリと動いて体が緊張して強張ってきたのがわかった。
あ、これ離すタイミング失ってどうしようか困ってるやつだわ。ディーネが戻るまでなんて言ってたけど、その場の勢いでやったことって長く続かないもの。そして恥ずかしくて穴があったら入りたい気持ちになるのよね。
……って、それは私も同じなんだけど。
とはいえ、いつかは離れなきゃいけないわけで早くこの状態を解除するに越したことはない。
今なら離してくれるだろうと胸に置いたままの手を突っぱねようと力を入れると、それに反応してクロード様の手が動いた。
「……?」
あれ、離れられない。
それどころか、今度は肩が掴まれた。どういうことかとクロード様を見上げると、私を見つめる瞳とかち合って思わず固まる。
「レイラ……」
「あ、の……っ?」
いつもとは雰囲気の違う、熱っぽい視線で見ながら顔が近付いてお互いの吐息が掛かる距離まで詰められる。
あれ? これ、ちょっとでも動いたらキスして……しまう、よう、な……。
「っ……!」
ええええ!
ま、待て待て待って! 恥ずかしくなるどころではない、悪化してる! 先に進もうとしてる! ちょっと待ってこれ本当に後戻りできないやつ!
ど、どうしよう。肩も掴まれて動けないし今動いたらキスするし動かなくてもするし!
詰んだ!
こ、こうなったら魔法で吹き飛ばすしかない。その後で覚醒のビンタ! どちらも正当防衛で私に非はない。家の中が散らかってしまうとか後始末のことを考えたら終わりよ、やったるわ!
意識を集中して下から巻き上げるように風魔法を行使して、吹き飛ばして、もう二度とこんなことしないようお説教してやる。
そう、頭の中で完璧に順序だててシミュレーションしてる、のに――。
……どうして、体が動いてくれないのだろう。
魔法はちゃんと使えるのに、肩は掴まれてるけど暴れればきっと離れられるくらいの強さなのに。“嫌だ”って言えば、きっと止めてくれるのに。
どうして、どれも実行できないのだろう。
今、彼を受け入れたら私の死亡エンドがほぼ確定になるかもしれない。そう遠くない日に彼の手に掛かってしまう、のに。
――それでもいい、なんて。
(ああ、もう……考えるだけ無駄かも)
髪色より少し濃いブラウンの瞳に自分が映るのが見えて、心臓がうるさく脈打つのがわかる。
その心音が聴こえないよう願いながら、私はそっと目を閉じた。




