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見送りの夫妻と共に店を出ると、用事を終えたクロード様が戻っていた。
「終わったのか?」
「はい。こちらがこのお店を営むヤソリムさんと、奥様のシャーリィさんです」
「おお、こちらが護衛の方ですな。初めまして、ヤソリムと申します」
「クロードです」
挨拶を交わす二人の様子を見ていると、シャーリィさんが小声で話し掛けてきた。
「レイラさんは素敵な方に護衛して頂いてますのね。恋人ではありませんの?」
「ち、違います……」
「あら、勿体ない。私の見立てでは、結婚しても大事にしてくれるタイプかと思いますよ?」
むしろ殺されてしまうのです。
そう言えるはずもなく、私は笑顔を張りつけて誤魔化しておいた。
夫妻と別れ、納品も終えたので私達は自由行動をすることにした。
けど、監視役のクロード様が別行動するわけもないので、揃って観光することになるのは言うまでもなく……。
懐はとても潤ったけど、前回来た時に大体のものは買ったので私は見て回るだけでいいかな。
「クロード様は気になるお店はありませんか?」
「そうだな……いや、大丈夫だ」
辺りを見回し、軽く首を横に振る。
でも、私の目は武器屋さんを見たのを見逃さなかったわよ。興味があるけど、女の私にはつまらないだろうからって遠慮したわね。
「もう、街なんてなかなか来ないんですから変な気を遣わないでください。気になるなら行きますよ、私もちゃんと付き合いますから!」
「……ふっ」
「なんです?」
「いや、よく見てるなと思って」
褒められてるのかしら……? いや、以前のレイラと比べているのね。確かに前の私だったら気にせず自分の用事だけ済ませたらさっさと帰ったでしょうね。
比較対象が酷すぎて今の私はさぞ優しい女性に見えているでしょう。
……あ、これもまたフラグ立ててしまった……?
けど、今さら気が変わって止めるなんて出来ないし他にすることもないし。このまま武器屋直行だわ。
「……色々ありますね」
お店に入るとナイフやショートソード、ロングソードの剣類はもちろん斧や弓矢、槍など多種類の武器が壁に飾られていた。
熱心に見ているクロード様の後ろで私も店内を見回し、見本として置かれたナイフを持ってみる。
小さいけれど、鉄製だからか女の私には重く感じる。振ろうものなら体ごと持っていかれそうだわ。
護身用に買っておいてもいいかと思ったけど、使いこなせそうにないわね……。
「あら、これは……?」
目に入った一振りの杖を見ると、眼帯をした強面の主人が声を掛けてきた。
「そりゃ魔石使い用の杖だよ」
「魔石使い……?」
「名前の通りさ。魔石や魔結晶を使って戦う奴専用の杖だ。先の円が陣の形に彫られているだろ、その中に魔石を投げ込めば魔法が使える仕組みになってるんだよ。ま、金持ちの道楽用だがな」
魔石や結晶を使うなんて、富裕層でないと難しいものね。魔法使い気分に浸るために買うのかしら?
それはさておき、陣とは何だろうとディーネと揃って首を傾げると、店主さんは私を値踏みするような視線を向けた。
「……もしかして陣と魔石の仕組みを知らねえのか。あんた、どっかいいとこのお嬢か?」
う、どう返せばいいのかしら。さすがに魔石の存在は知っているけど、ルーリエ家でどう使用されてたか知らないし魔法があるから魔石なんて使ったこともない。ただ壊して使うものなのかと思ったのだけど……。
すると、隣にクロード様が来て腕を引かれた。
「待たせたな、出ようか」
「えっ、あ……はい」
半ば強引に店を出たところで店主との話を聞いていたらしく、クロード様が説明してくれた。
「魔石は陣を使って魔法を発動させるのが基本的な使用方法だ。キッチンやバスルームなど普段からよく使用する箇所には道具に直接陣が描かれていて、他は専用紙に描かれた陣の上に乗せて発動させたりしている」
「陣がないと発動しないのですか?」
「器に魔力を与えるか破壊したりすれば可能だが、周囲に被害が及びかねない危険行為に当たるので禁止されている」
なるほど……火魔法を封じた魔石が家の中で壊れたら大変だものね。器の石や結晶の硬度が高かったのも、容易に壊れないようにしてあるからだったのね。
……そんな魔石を噛み砕いたサラムさんの顎と歯って、一体どうなっているのかしら……。
「それで、陣が描かれた紙というのはどこで手に入るのでしょう?」
「大抵は魔石を買えば付いてくるが、紙だけなら雑貨や書籍を扱う店にも置いてあるはずだ」
「なるほど……」
リーゼ村では見なかったなーと思ったけど、魔石自体が高価なので置いてないのかも。
「魔法使いが魔石を作って陣も描けば、その魔法は長く持続するとも聞いている。本人作成であれば当然相性もいいからな」
それはいいことを聞いたわ。
私が魔石と一緒に陣を描いた紙を作って出せば、調度品でなく使用品としても売れるかしら。
私ので使われなくても、陣の紙は他の魔石でも使えるだろうし今度おまけとして作ってみてもいいかもしれない。
「その陣はどのような文字なのでしょう。私でも描けるでしょうか?」
「俺は門外漢だからわからないが……魔法書に書いてあるんじゃないか?」
「魔法書……確かに」
商業都市だから本屋さんもあるわよね。陣が描いてある紙でもいいし、せっかくだから探してみようかしら。
魔法書があれば私が知らないことも書いてあるだろうし、勉強の為にも買っておきたいわ。
「本屋を探すか」
「クロード様は他の武具屋には行かれないのですか?」
「いい砥石があれば欲しいくらいだな」
「あら……もしかしたら、いい砥石を持っている方を紹介出来るかもしれません」
「え?」
クロード様を伴って大通りを抜けて、狭い路地へと足を進める。目的地半ばまで来ると、今まで静かだったディーネが口を開いた。
「レイラ、もしかしたら人がいないかも」
「え?」
「アイツの気配がしない」
アイツ……もしかして、サラムさんのことかしら。また買い物に行っているとか?
わからないけど、炎青さんはいるかもしれないし一応行ってみましょう。
狭い裏路地をしばらく歩くと、突き当たりの手前に構えたお店に着いた。
けれど掛かっていたはずの暖簾は片付けられており、戸の前に休業中と書かれた札が掛けられている。
「お休み……!」
まさか休業とは考えていなかった。肩を落とす私に、ディーネが小さく声を上げる。
「あ、あの子はいるっぽい」
「え?」
ディーネが指した先を見ると、二階建ての窓に白い猫耳が見えた。閉められたカーテンの隙間から覗いている赤い瞳と目が合い、私に気付いた相手が窓を開けて顔を出す。
「鈴ちゃん!」
「に、にゃ……おねえちゃん……!」
一度顔を出してくれたけど、すぐカーテンの影に隠れて顔半分だけになる。
どうしたのかと思ったけど、視線がクロード様にいっていたので知らない相手に警戒しているのだとわかった。
「クロード様、ちょっと失礼しますね」
「な、なんだ?」
「少しこちらにいてください」
クロード様を軒下に押しやり、鈴ちゃんから見えない位置に隠す。ディーネは精霊だから、サラムさんといる鈴ちゃんも怖くないはず。
改めて二階を見ると、鈴ちゃんもそっと顔を出してくれた。
「鈴ちゃん、久しぶり。元気にしてた?」
「は、はひ……みんな、げんきしてます……!」
「今日はお店はお休みなの?」
「ん、えんとさらむさま……しばらくおでかけ、りんはおるすばんです……。おみせも、おやすみ……」
「そうなの……」
前に言ってた出稼ぎの用事かしら……。お店は趣味って言ってたし、いつもやっているわけじゃないのね。
炎青さんのご飯食べたかった……残念。
「しばらく留守ってことは、鈴ちゃんはご飯どうしてるの? ちゃんと食べてる?」
「えんが、いっぱいつくってくれた……です。さっき、たべました」
「そう、良かった……」
いいなあ、どんなご飯を作り置きしたのか気になるわ……。
「おねえちゃんも、たべる……ます?」
「だっ、大丈夫よ! 鈴ちゃんのご飯なんだから、鈴ちゃんが食べてちょうだい。私はまた日を改めて来るから!」
いけない、顔に出てしまった!? 獣人は勘が鋭いみたいだから羨ましさが前面に出てしまったのかも。
いくら私でも、お留守番をしている子からご飯を貰うわけにはいかないわ。人としてそれはダメな気がする……!
せっかく来たのに休業中なのは残念だったけど、いないものは仕方ないから諦めよう。
「それじゃ、鈴ちゃんまたね。炎青さんとサラムさんによろしく」
「にゃう……また、たべにきて……です」
「ええ!」
手を振って別れ、名残惜しく思いながらも来た道を戻ることにした。
途中、静観していたクロード様が店があった場所を振り返って口を開く。
「先ほど話していたのは獣人の子供か?」
「ええ。あそこのお店の人と暮らしているんです」
「そうか。ルミナートでは見なかったが、ここでは普通にいるんだな」
「クロード様は……獣人をどう思ってます?」
この街では獣人は奴隷扱いになっている。ここではそれが普通みたいだけど、ルミナート出身のクロード様はどう捉えているのだろう……。
「ほとんど接する機会がないからな。身体能力が高いと聞いているから、男の獣人であれば一度手合わせをしてみたいと思っている」
「そ、そうですか……」
こんな時も鍛練……クロード様らしいといえばらしいけど。
けど、特に差別的な意識はなさそうで安心した。これで嫌いって返事が来たら、私も反応に困ったもの。
「あの店は食事処だったのか?」
「はい。ルミナートでも見ない珍しい食事ですが、とても美味しいんですよ。紹介できなくて残念です」
「……お前が言うくらいだから、余程なんだな」
しみじみ言わないでください。食い意地が張ってるのは自覚しているだけに、他の人に言われると余計恥ずかしいわ。
「店主の方は鍛冶もやられているので、いい砥石に当てがあると思っていたのですが……」
「そうか……では、次に会えたら訊いてみよう」
はあ、炎青さんのご飯も食べられなかったし砥石の相談も出来なかったし今日は残念な日だわ。
でも、飲食店はいっぱいあるから外食は楽しみましょう! 前回諦めたスイーツ店は行きたいわっ。
そう気を取り直しつつ、まずはクロード様が取っておいてくれた宿に荷物を置くことにした。前回は宿の指定があったけど、今回は通行証があるから好きな宿に泊まれるのだ。
……まあ、私は特にこだわりはないんだけど。屋根があって柔らかいベッドがあれば十分。




