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「クロード様は?」
「外で鍛練してるー」
「えっ、怪我も癒えてないのに?」
「体が鈍るからだってさ」
……もう。相変わらず真面目というか……やることなかったから仕方ないかもしれないけど、こんな時まで鍛練なんてしなくてもいいのに。
戻ったら包帯替えないとね。
「そういえば、昨日使った道具箱ってうちのじゃないわよね? クロード様の持ち物かしら?」
クロード様の包帯を替える時に使った薬などが入った道具箱。あの時は何も考えずに使っていたけど、いつの間にあったのだろう。
「ラナが持ってきた物だよ。彼女の気配が染み付いてる」
「え、ラナさんの?」
そっか、ラナさんはクロード様が怪我をしていたのも知っているし手当ての為に持ってきていたんだわ。それでクロード様とのやり取りがあったので、うちに置き忘れたと……。
あんなことがあった後じゃ取りに来にくいわよね。かといって返さないと向こうも困るだろうし……。
「クロードに返させれば?」
あっけらかんと言い放つディーネに苦笑いが浮かぶ。
言いたいことはわかるし、効率がいいのもわかるのだけど人の感情は丸っきり考えられてないから素直に頷けない。
「でも、話すきっかけにはなるでしょ? 気まずいまま村にいるのはお互い嫌じゃない?」
「……それもそうね」
二人がどうしてるかはわからないけど、気まずいのは確かだろうし食堂でご飯を食べているクロード様も居心地はよくないはず。せっかく美味しいご飯を食べているのに、気持ちが入らなかったら味にも集中出来ないだろうし料理をしてくれている夫妻にも失礼だわ。
私だってまた食堂でご飯食べたいし、一刻も早くラナさんの機嫌を直してもらわないと。
……けど、クロード様はラナさんの告白を断ってしまったのよね。私の死亡エンド回避がまた危ぶまれているし、困ったものだわ……。クロード様が告白を断ったってことは、私のことを意識しているのかしら?
いや、でもラナさんの問いに関してハッキリ私が好きだと言ったわけでもないし、まだ恋愛感情の段階ではないかもしれない。
何より、お互いに立場があるもの。国の務めと犯罪者の女を天秤に掛けて女の方に傾くなんて、真面目堅物騎士のクロード様にあり得ることなのかしら?
「あ、戻ってきた」
ディーネの声で思案を止めてドアを見ると、汗を拭きながらクロード様が入ってきた。
「ん……結晶作りは終わったのか?」
「いえ、少し休憩しようと思って。お昼も過ぎてますし、昼食にしませんか」
「ああ……」
「それとも、リーゼ村まで送りましょうか?」
「どうしてそうなる」
意地悪で言ったわけではないのだから、睨まないでほしいわ。
「いつもは食堂で食事されているのでしょう? 魔法で送りますのですぐ着きますよ」
「そういう問題ではなく……とにかく、行くつもりはない」
「そうですか……」
ラナさんと話すきっかけを作りたかっただけなのに。ラナさんもきっと待ってるわよ、振られても好きな気持ちは簡単に消えないものなんだから。
とはいえ、これ以上突っ込むと昨日覗いてたこともバレそうだし大人しく引き下がりましょう。
「では、簡単に準備をするのでその間に汗を流してきてください。お湯と水、どちらにします?」
「傷のこともあるからな、水だけでいい」
「じゃあ、ディーネ。手伝ってあげてくれる?」
「ぶぅ……レイラが言うなら仕方なくやるけどー……」
ディーネは頬を膨らませながらも渋々クロード様とバスルームへ向かう。
「レイラとなら楽しいけど、クロードのお風呂はつまらなそう……」
「い、一緒に入っているのか……!?」
「レイラの肌、白くてつるつるだしおっぱいも大きくて柔らかいんだよー」
「ディーネ! 変なこと言わないで!!」
まさかの発言に思わず声を上げると、二人は逃げるように部屋を出ていった。
悪気がないだけに質が悪すぎる……! あとでお説教しないと。
「はあ……もう」
バスルームから激しい水の音やら二人の賑やかな声が聴こえるけど、会話の内容はわからない。きっと、ディーネがクロード様で遊んでいるのね。相変わらず、仲がいいのか悪いのかわからないわ。
そんなことを思いながらキッチンへ行き、鍋を取り出してお湯を沸かす。その間にパンを取り出してホットドッグやチキンサンドなどのお惣菜系のパンを火魔法で程よく温める。
あとは半分にカットして二人分のお皿に盛っておく。菓子パンは甘味類が苦手なクロード様は食べられないみたいだから、別のお皿に盛ってメインはこれでよし。
あとは鍋にざく切りにしたニンジン、キャベツとコンソメにウインナーを入れて煮込めばポトフの完成。
買ったパンを盛りつけてスープを作っただけの簡単料理だけど、パンの種類が多いから見た目は結構豪華なのが救いだ。食欲に負けて食べたいものを片っ端から買ってしまってどうしようと思ったけど、クロード様がいれば安心だわ。
結晶作りで疲れたし、こういう時は甘い菓子パンで糖分摂取ね。
少しするとバスルームから出た二人が戻って、クロード様と目が合うと気まずそうに顔を背けられた。……水浴びなのに顔が赤い気がするのはどうしてかしら。もしかして、またディーネが余計なことを言ったの?
……クロード様が帰ったらディーネにきつく言わないと。
「う、何かレイラが怖い……」
「ディーネ、話は後でね?」
プルプルしているディーネに優しく言い置き、気を取り直してスープ皿を出しながらクロード様を促す。
「色々なパンがあるな」
「ええ、美味しそうなパンがいっぱいあったのでつい買いすぎてしまいました。傷んではもったいないので、一緒に食べてもらえると助かります」
ホットドッグを手にしたクロード様は気付いた様子でパンを凝視する。
「……温かい」
「お惣菜パンは少し火魔法で温めておきました。具材まで通っているといいのですが……」
スープを置きながら説明し、首を傾けつつパンにかぶりついた相手を窺う。レンジをイメージして熱を送ったつもりだけど、パンが焦げたら困るのであまり長くはやれなかったのよね。
「うん、旨い。出来立てに近い温かさだ」
「本当ですか?」
同じものを取って食べると、パキッとウインナーが割れてパンと野菜と共に肉汁が広がった。熱を通した影響でパンと野菜がややしなってしまったけど、ウインナーの味付けが好みだったのでさほど気にはならなかった。
「これ、ウインナーだけ温めれば良かったですね……」
うう、失敗した。横着しないでもっと拘れば良かったわ。
「……お前は食べることが好きなんだな」
「そ、そうですか?」
「散策や食堂でも思ったが……楽しそうに食べているように見える」
それ、食い意地が張ってるってことよね。否定はしないけど……。
だって、美味しいものを食べるときは誰だって楽しいものでは? 状況にもよるけど、基本的に食事って楽しいものではないの?
「変でしょうか……?」
「いや。……ただ、王都で食事をしている時はそんな風に感じなかったから不思議に思っただけだ」
そうだったかしら……でも、そうかも。令嬢のレイラは美味しい食事が普通だし、感動しながら食べた記憶はあまりないのかも。テンションが高いのは、王子がいた時だけだった。
クロード様は護衛として近くにいたから、レイラの食事風景も知っているものね。
私、そんなにがっついて食べてるのかしら。一応品位が損なわれないようには気をつけているつもりだけど、前のレイラを知っているクロード様とはなるべく食事をしない方がいいのかもしれない。
でも今さら中断するにはわざとらしいし、かといって食べたくて買ったパンを残したくないし。
……そうだ!
「そろそろ、作業に戻りますね。お先に失礼します」
「ん? 食事はもういいのか?」
「他のパンは、作業しながら頂きますわ」
自分用のお皿に菓子パンをいくつか乗せてトレーに置き、スープや飲み物と共に自室へと退散する。
パンなら片手で食べられるし、一人だから人の目も気にしなくていいものね。
「よし、結晶作り再開!」
無色の結晶を前にして、意識を集中させる。
さっきの感覚を思い出しつつ魔法が途切れないよう、注意しながら力を注いで強弱をつけずに維持する。
目を開くと、無色だった結晶は仄かに光り始めて魔法の色へと徐々に変化していく。今込めているのは風魔法。結晶を包む光が緑へと色づき、先端まで色彩が伸びていく。これを越すと魔法の込めすぎで器にヒビが入ってしまうので、ギリギリまで調整して慎重に進める。
魔法を止めて手を離すと、そこにはエメラルドに似た輝きを放つ魔結晶があった。
「ふんふん、色もちゃんと細部まで届いてるわ。ヒビもなし、と……」
我ながらいい出来ではないかしら。ものすごく神経は使うけど、疲労に見合った完成なら問題ないわ。
でも、やっぱり一つ作るごとに小休止を挟まないとしんどいわ。と、いうわけで菓子パンの時間ね!
「ジャムパンうまー」
ふわふわのパンにぎっしり詰まったジャムが溢れて口の中に広がる。苺の旨味とほんのりバターの甘味がいい具合に混ざってくどくない甘さに仕上がっている。食べやすいからいくらでも進むわ。
他のパンも残さず食べて、ベッドに座って一息。はあ、満足。
「これを完成させたら納品に行かないとね」
次からはクロード様も同行することになったし、怪我が治ったらシヴィアに行く日程を組もうっと。
……何だか小旅行みたいだけど、これはお仕事。変なフラグ立てないよう気を付けよう……。




