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「こんなところにご飯屋さん……?」
しかも、引き戸だわ。珍しい。
少し緊張しながら戸を開けると、お客がいない店内のカウンター席で項垂れた様子で座っている小さな背中が見えた。
「あの……」
「にゃっ!? あ……さ、さっきの……」
耳と尻尾がピンと立ち、泣きそうな顔で私を見る。きっと、さっきの通行人みたいに怒られると思っているのね。
やっぱりシヴィアは獣人には当たりが厳しいみたいね……。
「さっきは私のせいで怖い思いをさせてごめんなさい。これ、渡したかっただけだから」
部品を見せると、女の子はもじもじしながら耳を伏せる。
「あ……そ、そのため……に?」
「え?」
「あ、あう……あの……うう……」
何か言いたそうだけど、私が怖いのか上手く言葉に出来ていない。これ以上お邪魔するのも迷惑かと差し出すと、毛皮に覆われた小さな手は震えながら受け取ってくれた。
ピンクの肉球可愛い……。
「――ったく、ちゃんと話せねえなら最初っから喋んな! 終始黙っとけ、腹立つ!」
「にゃうっ!」
奥から乱暴な声が聞こえて、女の子も私も驚いて目を向ける。厨房があるであろう奥から出てきたのは、燃えるような赤い髪とオレンジの瞳をした褐色の男性。しかもあの服装は着物よね……身長も、私より頭一つ分以上あるクロード様より高いかもしれないわ。前髪を上げて晒された眉間はシワが寄っていて、目付きも鋭いから私の中でその筋の人というイメージが真っ先に浮かんだ。
……怖いわ。走って逃げていいかしら。追い掛けられる理由はないわよね。
もしかして、この店の店主かしら? お客がいないことに納得してしまうのは私の偏見かしら?
「ええ、と……。お邪魔してすみません、すぐに出ていきますので」
「……おい、お前。コイツに文句はないのか?」
「え?」
「歩いていてぶつかったんだろ、しかも獣人のガキだ。普通は蹴っ飛ばすなりすんだろ」
……ん? この人、何を言ってるのかしら。獣人の子供がぶつかったら蹴っ飛ばすのが普通なの?
「……何を仰っているのかわからないのですが」
「馬鹿なのか? 獣人は家畜以下の奴隷だろ、そんなクソみたいな奴にそのお綺麗な服が汚されて腹が立たないのかって聞いてんだよ」
私、喧嘩売られているのかしら。どうして初対面のヤバい顔の人に馬鹿呼ばわりされなくてはいけないのかしら。獣人のことも下に見すぎではないの? この人は何様なの?
どうしよう、怖い気持ちが吹っ飛んでめっちゃムカついてきたわ。
「……やっぱり意味がわからないわね。ちゃんと人に通じる言語で話してくれるかしら?」
「ああ?」
「貴方の顔に比べたら、獣人の方がよほど愛らしく見えるわよ」
これでキレて襲い掛かってくるなら受けて立つわ。この男の店なら魔法で吹っ飛ばしても気にならないし、どうでもいい。とにかく一発かまさないと気が収まらない。
女の子の保護はディーネに任せようと色々考えながら構えた時――別の声が店内に響いた。
「あっははは! 言うなあー、確かに!」
「っ……!?」
まだ人がいたの? 気付かなかった。
赤髪男の仲間かと警戒していると、厨房から出てきた男の顔を見て私は無意識に動きを止めた。
出てきた彼は、今まで見たことがない、けれど私にとって懐かしい人種の顔立ちだったから。
「炎青、てめぇ笑いすぎだぞ」
「いやいや、だってお前に向かって本当のこと言える女性がいるとは思わなくて……くくっ。ヤバい、ツボった……!」
赤髪男の肩を叩きながら笑い転げる炎青さんとやらは、呆然と見つめる私に気付くと涙を拭いながら細い目で微笑んだ。
「いや、彼が失礼しました。この街じゃ獣人の扱いがよくないので、鈴を追ってきた貴女を見定めたかったようです」
「……それにしては、子供に聞かせる言葉じゃなかったのでは?」
「あ……り、りんはだいじょぶです。さらむさま、こわいけど、やさしい……です」
「そうなの……?」
怖いけど優しいとは……? でも、さっきまで私に怯えていたこの子が庇うくらいなのだから優しいところはあるのでしょうね。
サラムと呼ばれたこの男も、私の言葉に怒っている様子はない。てっきり殴りかかってくるかと思ったけど……。
それより、炎青さん……この人、アジア系の顔なのよね。服も和装っぽいし、名前は中華系だけど……。アジア系民族の国があるのね、どこにあるのかしら……気になる。
「サラムが失礼したお詫びといってはなんですが、うちで食事をしていきませんか? まあ、見た通り客の来ない寂れた食堂なんですがね」
「だったら畳んで本業やってろっての」
「趣味くらい好きなことさせてくれよ。お嬢さん、嫌いな食べ物あります?」
「え? あ、何でも頂けます」
「それは良かった。では、今日のオススメ出しますね」
そういって厨房に戻る炎青さんの背中を見て、サラムさんが舌打ちする。
「オススメって……あれを出す気か? 性格悪いぞ、お前」
「にゃー……りんはすきだけど……」
鈴ちゃんにも心配そうな目を向けられ、私はどうすればいいのかと視線をさ迷わせた。
……何を出されるの?




