表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/12

星降る荒野

「は?いやえっ?どなた様だ?」


少年は目の前の異変に瞠目する。少女。少女がいる。見れば年齢は同じくらい。あちらから見れば年上に見えるだろうが。


よく見てみれば少女は裸足で、白い布を一枚まとっているだけ。惨めなみなしごにしてはあまりにその恰好は綺麗過ぎる。異常事態だ。さっきの爆発といい、何かがおかしい。


「ごめんね。驚かせちゃった?」

「そんなことはない…いやあるな大いに。君はだれで、もしよければさっきの爆発、アレについてしってたりしないか?」


「名前なんてないわよ。覚えてないわ。で、あなたは?」


普段ならば無視していたかもしれない。しかしさすがにこの荒野に女の子一人とは哀れに思い、一応話を聞いてみる。


「名前もないのか…?珍しいことではないが…。私はオズウェル。」

「じゃあオズウェル、名前を付けてくださらない?」


距離を急に詰められる。いきなり呼び捨てとは。まあ仕方ないので名前を考える。


「アナでどうだ?深い意味はないが、語幹としてはアリだろう。」

「アナ。いいわね。私、アナよ。今日これから私はアナ。」


自分に与えられた名前を気に入ったのか、少女はそう押してくる。


「で、アナ。君は何か知らないか?」

「知らないわね。それにあなた、アレ、どうにかしないの?あの光に寄せられて、魔物が集まってるわよ。」


ふてぶてしい。さっきまでの神秘的な雰囲気はどこへ行ったのか。それはそれとして、魔獣とは、魔力を持つ害獣のようなもの。人のみを襲うが、その理由も出自も不明。基本疎まれる存在だが、気を付けてさえいれば出会わない。まああそこまで目立てば当然のように集まるが。ともかく、一般人がそれを見つけたらすることは一つだ。


「まずいな。逃げるぞ!」

「ひゃんっ!急に触らないでくれる!?」

「仕方がないだろう。抱えていくぞ!」


初対面だがこれ以外に方法がないのでお姫様抱っこ。

複数体の魔獣に単純スペックでは一般人が勝つことは難しい。相手の戦力不明となるならば、相手がどうやっても通れない道を進むほかあるまい


「跳ぶぞ!衝撃に備えろ!着地は何とかする!」


宙を飛ぶ。そして、土埃が舞う。


「おいおいおいおい!聞いてないぞあんなの!」


空を飛ぶ巨獣。恐らくは高位の魔獣。土を破り宙に現出する。蠕虫…ワームのような見た目の馬鹿デカい魔獣。まずい。あの飛び方はどう考えてもよけられない。一直線だ。久しぶりの餌だと言わんばかりに飛び上がる。


「きゃあああああああああ!あれ食べられるってば!きもい!きもい!」


知能指数が駄々下がりだ。まあともかくこれはまずい。抱えている荷物だけは運が良ければ助けることができるだろう。自分だけで逃げることもできるだろうがそれだけは選択肢として認められない。腹を決める。1,2の3だ。

「悪い。運が良ければ生き残れるから頑張ってくれ。」


短く言い残し、彼女を逃がす準備をする。思えば短く空虚な人生だった。しかしまあ幕引きとしては上出来だろう。何もなかった男が何かを救って死ぬのだ。


「ちょっとあんた何する気よ!自分のことはどうなってもいいわけ!?」


ああ、この子は優しいのだろう。ふてぶてしくて生意気で。でもその根幹にあるのは優しさなのだろう。彼女の優しさを踏みにじることを申し訳なく思う。


「行かないでよ!ねえ!ダメってば!」


涙を浮かべてしがみつく。諦めの悪いことだ。ああでも、離れたくないなあ。仕方ないとわかっていても、ほんの少しだけだけれども、未練が残る。あってまだ数分の女の子。例えそうでも、そんな涙を見せられたら、男は答えずにはいられない生き物なのだ。


二度目の奇跡が起こる。願いは叶う。叶えるためにある。叶わない道理などないのだ。

瞬間、彼らの身はヴェールに包まれる。それは彼らを包んだまま浮き上がり、彼らに奇跡を見せる。

それは神の罰。あるいは星の奇跡。降り注ぐ星空。星は少年と少女の願いに答える。


「すごい…きれい…」


言葉をなくすアナ。ああ、なんて美しいのだろう。滅び、あるいは神秘。それは、遍く大地を蹂躙する。それに対抗するには、生き物はあまりにも無力で。星辰からもたらされた奇跡は、ことごとくを飲み込んで。哀れなり名もなき獣。弔いは星の光にて。


「ああ、綺麗だ…」


その一瞬、永劫のようにも思える一瞬だけは。何もかもを忘れて、

子供のように。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ