プロローグ
◆ ◇ ◇
少年はどうしようもなく自分のことが嫌いだった。どんな悪人より、如何なる悪魔より、第一に己が嫌いだった。満たされないバケツに幸せを注ぐ。そんな行為が許せない。
自分が嫌いで、自分のそんなところも嫌いで。誰を理解することも難く。誰もが彼を理解し難い。
◇ ◆ ◇
少年は器用だった。できないことなんてないし、何をやっても人以上。家庭も平均より裕福で、はたから見れば何不自由のない生活。少年は何もかもできて当然だった。だからいつもそれ以上を求められた。本当は褒めてほしかったけれど。そんな機会は永劫ない。そんな生活をしているうちに、少年は疎まれた。どこにでもいる小器用な少年は嫉妬の対象になってしまったのだ。奴隷のような扱いは受けた。罵倒され、行動は制限された。しかし少年は抵抗しない。集団において、生贄を用意することは珍しくもなんともない。自分が虐げられて相手が喜ぶのなら、それは善いことなのだろう。だから追い出される時も何も抵抗はしなかった。次の生贄が選ばれるのは少し心残りだけれども、とりあえず自分は一人でも生きていける。食うのに困ることはないし、野垂れ死ぬのもおあつらえ向きな末路だとすら考えた。死を考えたことはある。されど死ぬには至らない。
思うに、人とは生きる何かを犠牲にしなければ生きることはできず、生まれたときにすでに咎人なのだ。罪から逃れるのは罪の上塗りでしかない。だから生き続ける。
それ以上に理由はいらなかった。
――欲を言うなら、少しでもいい、愛してほしかった。
過去を振り返りながら砂漠を進む。荒野を進む。風は吹きすさみ日は照り付ける。
その日暮らしで街を目指して歩き続ける。しかし街に行ったところで何があるというのだろう。頬を叩く。浮かび上がる考えを排除してまた歩き続ける。
いつしか器用だった彼は新しい"特技"を身に着けた。一つは、人を殺める技。一つは、風を操る技。
それから、さすがにただ歩くだけなのは暇に過ぎるので、趣味も作った。星読み、あるいは占星術。古くは吉兆を占うものとされたらしいが、そんなことはどうでもいい。ただ、ただ星を見る。
ヒトはあまりに脆く儚いヒトの命に悲観する。だから空の星に神を重ねた。永遠に変わらない不変のものとして、ヒトはそれを見上げ続ける。それに救いを求めて。
今日もただ、星を見る。
そして少年は"目が合った"。人々の願いはついに届いたのだ。
瞬間、爆音と閃光に包まれる。
眩い、眩い光。少年を包み込むように広がってゆく。
「おはよう。初めまして。」
少年は、少女に出会う。ありきたりで月並み。お約束の範疇を出ない出会い。砂漠の月夜の逢瀬。
どこにでもいる少年がどこにもない出会いをする。そんな物語。