日々こまごま、オムニバス。Case.5 実録! 親父、アリゾナに立つ。
今からちょうど40年前。ソ連がアフガニスタンへ侵攻し、西側諸国がモスクワ五輪へのボイコットを表明していた当時。今よりもずっと海外旅行が厳しく取り締まられていた時代に、当時高校生だった私の親父は、何を血迷ったのかアメリカはアリゾナへホームステイに行った。と言うのも、本来ホームステイに行く予定だった2人の内1人が、身内の不幸があったとかで急遽辞退したのだ。そこで白羽の矢が立ったのが、私の親父であった。もっとも、特に英語の素養も無く、まるで軍隊の行進の様に1、2が続く通信簿だった親父の事だ。恐らく、興味本位で名乗り出たのは想像に難くない。因みに、親父本人に聞いた話では「クリストファー・リーヴ(初代スーパーマンの俳優)に会いたかったから」だそうだ…。
さて。同級生の友人と共に、飛行機でアリゾナ空港に降り立った親父。彼らは到着早々に、入国審査の為の書類を書かされた。現在の入国審査がどうなっているかはさておき、当時は、例え観光目的であっても、名前・年齢・出身地・職業欄など、多岐にわたる項目全てに記入を求められたそうだ。ブッチャー顔負けのガタイの良い黒人受付の視線に耐えながら、オックスフォードの辞書を必死に繰り、書類の空欄を埋めて行く親父。すると、ここで親父は、ホームステイ最初にして最大の難問にぶち当たった。
「SEX」って何ぞや…?
他の欄は、覚束ないが何とか書けた。だが、「SEX」って何?
…念の為に皆さんにはお伝えしておくが、答えはもちろん「性別」である。「Male(男性)」か「Female(女性)」と書けば済む話である。ところが、当時の親父にはどうしても、この単語が「アレ」を意味するとしか思えなかった。腹を決めて、ペンを走らせた親父は「Sex」の欄に、綺麗な文字で「Strong」と書いたのである。
机から身を乗り出して、隣の受付に座る友人を見やる親父。すると、友人も親父と同じ項目で頭を悩ませていたらしく、自分が書いた書類を見せてきた。
「○○(親父)君、これで合ってるかな…。」
友人が導き出した「Sex」に対する答えは、「月2回から3回」。しかも日本語で。2人は結局、そう書いた書類をそのまま提出。案の定「Sex」の欄を見て訝しんだ職員だったが、意味を把握した瞬間、涙を浮かべて大爆笑。小一時間ほどブッチャー似の職員から懇々と諭された親父と友人は、顔を真っ赤にしながら空港を後にしたのだった…。
次回、「親父とプアホワイトとバーベキュー」に続く。