私は肉塊になりたい
ここはとあるところのとある何でも屋さん。その何でも屋を営業しているのは何田毛さんという人でした。何田毛さんは自分の莫大な資金を駆使し様々な依頼を解決してきました。ですがそんな何田毛さんにも頭を抱える依頼が過去にいくつかあったそうです。
夏も真っ只中。蝉は狂喜し地面は火炎の如く焼き上がっています。何田毛さんは急いで事務所に駆け込み。クーラーを付けました。このクーラーが夏の暑さを忘れさせてくれます。何田毛さんが涼んでいると。ドアを丁寧に開ける音がしました。見ると1人の男が立っていました。その男の印象は目につく大量の汗、大きくガッシリした身体。スキンヘッド。そしてこんな夏なのに私服で長袖シャツと長ズボンを着ていたことでしょうか。
「あなたが何田毛さんですかな?」
低い声で男は喋りました。
「ええ私が何田毛ですが」
「では率直に言いましょう。私は肉塊になりたいのです。手助け願いたい!」
何田毛さんは呆れました。きっとこの男はこの夏の暑さで頭がおかしくなったのだろうと。
何田毛さんはとりあえずその男を座らせました。男は失礼しますと小言を挟み座りました。何田毛さんは嫌々ながらも仕事に入ります。
「改めて、私は何でも屋の何田毛です。」
「おやおや、私の挨拶を忘れておりました。申し訳ない。私は何東大学で生物学を研究している水作烏と申します。以後お見知りおきを。」
水作さんは深々と頭を下げました。彼のゴツゴツしたスキンヘッドが眼前に迫ります。
「で、何であなたは肉塊になんてなりたいんです?」
待っていたかのように水作さんは喋り出しました。
「それはとても簡単な理由でございます!肉塊こそ人間の最高に美しい姿だと考えているからであります!」
「はぁ…私には肉塊なんてただ醜いだけだと思いますがねえ」
すると水作さんは顔を真っ赤にして言いました。
「とんでもない!あなたは肉塊の美しさをわかっていない!私は先程も申し上げた通り生物学を研究しております。そこで私は気付いたのです!動物、特に人間は実に無駄が多く醜いものだと!脳、手足、五臓六腑に至るまで、全て、全てが無駄なのですよ!かつての古代地球に跋扈していたシアのバクテリアを思い出してください。実に単純、無駄がなく、美しいとは思いませんか。その小さな塊1つに必要な機能が全て備わっているのですよ。これを美しいと言わずなんと言いましょう。今私たちに備わってしまった無駄で愚かしい部品を取り外しかつての単純な生物になる。これが私の願いなのですよ何田毛さん。あなた何でも屋でしょう。ぜひ叶えてくださいな。」
水作さんは鼻息荒く早口で語りあげました。
「でもねぇ水作さん、私は生物学やら医学はペーペーでしてね。何をどうすればいいやら。」
「ご心配なく。ただこれを作って欲しいだけなのですよ。」
水作さんはポケットからくしゃくしゃの図面を取り出しました。汗が染み込んでいるのか少し黄ばんでいます。
「これは何です?」
「これは私が創案した装置でございます。私が肉塊になる為に寝る間も惜しみ描きました。この装置は実に完璧なのですが必要材料が希少なものばかり。それに創案したは良いものの複雑で私の手ではとても作れそうにないのです。そこであなたの資金力、顔の広さ、権力を駆使して頂きこの装置を作って欲しいのです。」
「はあ…何とも…わかりました。私の総力を挙げこれを作りましょう。できあがりしだい連絡しますね。」
「ええ、ぜひ。それと作業場は近い方が良いでしょう。何東大学に作業場を設けますから。ご活用ください。」
「はいはい。」
水作さんは不気味な満面の笑みを浮かべていました。
何田毛さんはそれから世界の5本指と呼ばれる名工を雇い、世界中の工場から従業員を雇いました。また世界中の鉱山を買い漁り、希少な金属を何東大学の作業場に送るよう指示しました。各国から批判が相次ぎましたが知ったことではありません。準備が整ったため何田毛さんは名工たちを連れ何東大学に入りました。何東大学は国内随一の理科系に特化した大学。研究施設は数多くあります。工学専門作業場。どうやらここのようです。名工たちに図案を見せたところこの装置はかなり複雑で骨が折れる。完成には時間がかかるとのことでした。期限は決まっていないため焦らず丁寧に作るよう指示し何田毛さんはその場を去りました。名工たちは仕事にとりかかります。
1年後、夏の終わり頃に作業場から完成したとの連絡がきました。何田毛さんは急いで何東大学へと向かいました。作業場に到着し中に入ると、そこには見事なまでに図面通りの装置がありました。
「おお、皆ご苦労。ではこれを水作研究所へ運ぼう。」
従業員は嫌な顔をしましたが知ったことではありません。
丁寧に梱包し研究所へ向います。水作研究所。探すのは簡単でした。白くペンキで塗られた直方体の巨大な建物。その単純さは彼の性格を表しているようでした。ようやく到着です。
「皆ご苦労。今回稼いだ金でどこか旅行にでも行くと良い。ではな。」
そう言って作業グループを解散させ。何田毛さんは研究所に入ります。研究所は大きく2部屋あり1つは実験室、もう1つはガラス板を挟みそれを観察するための部屋といったかんじで別れていました。実験室には子供のようにはしゃいでいる水作さんが見えます。
「おお、何田毛さん!いやあ感謝致します!図面通りですよ!ハハハハ。」
「いえいえとんでもない。では私はこれで。」
何田毛さんがそう言った途端、水作さんは何田毛さんの腕を掴み、満面の笑みを浮かべました。
「いやいや、最後にあなたにもいくつか手助けして欲しいことがありましてねぇ。お願いできますかな?」
何田毛さんは仕方がなく残ることにしました。
水作さんは装置の装着にとりかかります。装置というのはヘルメットみたいなもので頭にそれを被せました。いよいよ始まるようです。
「何田毛さん、よく見ていてくださいね!この為に爪と歯を尖らせたのですから。」
そう言って水作さんは自らの胸、そして腹を切り裂きました。
「ああああああ痛い!あああああああ!」
壮絶な叫び声が部屋に響き渡ります。水作さんは悲鳴をあげながら手で腹をこじ開けました。何田毛さんは言葉を失い絶句していました。激痛を伴っても意識を失うことはなく水作さんは狂喜しています。それが何とも不気味でした。
「ああ素晴らしい!私の創案通りだ!さあ愚かな臓器どもを排泄せねば!ハハハハハハハハハハ!」
そう言って水作さんは手で臓器をちぎり取り捨てていきます。血管が破れ、血が吹き出し、部屋は真紅の如く赤に染まっていきました。
「ああたまりませんねぇ。この音。私の体をより崇高な段階へと誘う良い音ですよお!」
水作さんは次々と臓器をえぐり取っていきます。肝臓、腎臓、小腸や大腸、そして心臓に至るまで全てを取り去りました。水作さんの体は空っぽでした。
「見てくださいよ何田毛さん!美しいでしょう。美しいでしょう。美しいでしょう。もうすぐだ、もうすぐで私はフフフフフ…ハハハハハハハハハハハ」
どこか美しいのやら。何田毛さんは恐怖心を抱きながらそう思いました。
「さて、何田毛さん!あなたの力が必要です。そこにチェンソーがあるでしょう?それで私の四肢を切断して欲しいのですよ」
「はあ!?無理ですよ。私はできません!」
「あなたは何でも屋なのでしょう!何でもするのでしょう!ごちゃごちゃ言わず私の四肢を早く切断してくださいよ!ほら!」
何田毛さんにもプライドがあります。依頼は最後まで受け持つと。仕方がありません。やるしかないのです。何田毛さんは震える手でチェンソーを握りしめました。緊張が走ります。息が荒くなり汗が吹き出ます。ああ神様よお許しください。
「おお、良いですよ何田毛さん!その調子ですよ!」
目は開けたくありません。骨が砕ける音そして生暖かい血が何田毛さんの顔面に飛び交います。はやく終われ!はやく終われ!そう願うばかりでした。
「もう大丈夫です!ありがとうございました。」
その言葉で急いでチェンソーを投げ捨て観察部屋に戻りました。震えが止まりません。そんな気持ちなど知る由もなく水作さんは笑います。
「ハハハハハハハハまだ仕事は残っていますよ。その時になったら声をかけますね?」
そう言って水作さんは自分の四肢を食べ始めました。ああもう聞きたくない。やめてくれ。けど耳は何田毛さんの気持ちなど無視し音を拾い上げます。骨が砕ける、音水作さんが高笑いしている声。何田毛さんは怯えていました。
「何田毛さーん!出番ですよー?」
元気な声で何田毛さんを呼ぶ声で我に帰りました。けど待つのは地獄でした。ヘルメットはいつの間にかなくなっていました。
「何田毛さん、そこにハンマーがあるでしょう?それで私の頭を粉々にしてくださいよ!」
「もういい加減にしてくれ!私はもう…やりたくない」
「おやおや何でも屋が逃げるのですか?何でもするのでしょうほらハンマーを持ってはやく来てください。」
何田毛さんはその酷く青白くなった両手でハンマーを持ち実験室に向いました。これ程ドアが恐ろしく感じたことはありませんでした。もうはやく終わらせよう。私は帰ってビールを飲みつまみを食べ元気よく笑うのだ。自分を鼓舞しいざ向います。
「ああああああああああ」
骨が砕ける音がします。けどもう知ったことではありません。聞き慣れてきたその音をよそに何田毛さんは狂乱しました。叩け!叩け!叩け!叩けええええ!一心不乱に叩きました。
「何田毛さん、もういいですよ。目を開けてください。」
もう人間とは呼べない体になっていました。水作さんは笑いながら呟きました。
「フフフフフ私の創案通りならもうすぐのはずなんですが」
次の瞬間水作さんの塊から機械の腕が飛び出し水作さんの飛び散った肉片を掻き集めました。
「そういえばあなたは怯えて見ていませんでしたな。ヘルメットは私が四肢を食べた後チップ状になり私の脳に潜り込んだのです。そして何田毛さんが叩いたことでチップが起動し今こうして私を完璧な姿にしているのですよ!」
機械は手際良く肉片を集めます。そして遂に団子状態の水作さんが完成しました。
「ハハハハハハハハハハハ!見てください!これが私の求めた人間の理想の姿!ああ麗しきシアノバクテリアよ!私はあなたになれたのですよ…ハハハハハハハハハハハ!」
水作さんがどうして生きているのかはわかりませんでした。ですが理由など聞きたくもありません。何田毛さんは急いで研究所を後にしました。さっきまでの疲労はとうに忘れ、がむしゃらに走ります。太陽が眩しく何田毛さんを照らします。私は助かったのだ!救われたのだ!ああ神よ!何田毛さんは何東大学を出て事務所へ駆け込みました。
それから何田毛さんは5日間高熱に苦しました。医者が言うには強いストレスが原因とのこと。無理もありません。それからというもの何田毛さんは何東大学からの依頼が出る度に頭を抱え拒否するようになりました。何でも屋の権威は地に落ちましたが何田毛さんは知ったことではありません。




