セーフ!
今日も菫が俺の家に迎えに来て一緒にこれから登校する。
学校までは徒歩で行けるが20分以上かかるので結構歩くことになる。
いつもなら俺から菫に話しかけることは無いのだが、今日はちょっと事情が違う。
「あのさ~ 椿ちゃんと佑助って付き合ってるだろ」
いきなり俺から喋りはじめたので菫は少し驚いていた。
「うん、知ってるよ」
「椿ちゃんって… 結構マジで佑助のこと好きなの?」
「……どうしたの? 珍しっていうか… 何かあったの?」
「い、いや… 佑助は椿ちゃんにベタ惚れだけど大丈夫なのかなって…」
椿とキスしたいって佑助が言ってたなんて言えるわけねーだろ…
「ウフフ… 椿も佑助君にベタ惚れだよ。今度またデートだって張り切ってたよ」
「そ、そうか… ならよかった」
だったら大丈夫… だな? まー、最近の中学生ならキスの一つや2つは…
俺がそう考えていると急に菫が言い始めた。
「でも、椿にはいつも言ってるのよ… 中学生なんだからキスとかそんなのはまだ早いって…」
ギクッ… 何いらねーこと言ってやがる… 俺の弟はそのキスをご所望なんだよ!
大体お前は母ちゃんか? なぜ妹の恋愛に口を出す?
もしかしたら… いや、多分間違いない。
そう言うことか… 菫、それは姉としてケツの穴が小さいぞ。
「それってさ~ 菫がまだ経験したことないからダメって言ってんじゃねーのか? お姉ちゃんがまだなのになんで妹の方が先に… みたいな…」
俺が名探偵も真っ青になるような究極の推理を菫に言ってみた…
すると、さっきまでニコニコとしていた菫の表情からニコニコは無くなった…
いや、全ての表情が無くなった。
俺、やっちまった… 特大の地雷を踏み抜いた。 もしかしたら核地雷の方を踏み抜いたのかも…
まだ誕生日が来ていないんで16歳か… フッ… 案外短かったな、俺の人生。
まだ生でおっぱいも触ったことなかったのに… それだけが無念だ。
以前菫に半殺しにされた時に遺書を書いとけばよかったな… 後悔するぜ。
せめて俺が集めたエロ本の集大成を誰かに伝承しておきたかった…
「泰助…… そんなふうに思ってるんだ?」
何の感情も籠っていない能面のような表情に瞳孔の開いた黒々とした瞳で俺を見つめる菫…
怖いって、怖いって、怖いって~ その目つきをやめろ…
もういいから、早く殺して… 出来ればあまり痛くしないでね。 お願い…
ドラ〇もんがいたら、どら焼き1000個あげるから時間を10分巻き戻してって言うのに…
菫は死人のような目をしてゆらゆらと俺の方へ近づいてくる。
あまりの恐怖に殺される前に自分から死んでやろうかと考えていた時、ふとあることを思いついた。
菫の性格を考えると… いけるかもしれん! 命を懸けた最後の勝負だ。
父ちゃん… 俺はこの1球に命をかけるよ。
「でも本当は菫ってキスした経験あるんだろ? 噂で聞いて知ってるぜ。それを椿に知られたくないんだろ?」
そんな噂なんかどこにも無い! 聞いたことなんてあるわけない…
だって今俺が作った。
さあ、どーでる?…… 菫。
1秒、2秒、3秒、… ヤバい… 外したか?
「な、な~んだ… 泰助も知ってたんだ。せっかく隠してたのになぁ~」
菫の顔には一気に表情が戻り、だんだんにこやかなものに変っていった。
セェ~~~~~フッ‼ 父ちゃん… お、おれ… 生き残ったよ。
菫はプライドが高い…
菫は経験が豊富で大人だと俺が言えば、それを自分で否定することなんて出来ない。
なにが「泰助も知ってた」だ、今作ったんだから知ってたはずねーだろ!
よくも涼しい顔してくだらない大嘘を吐きやがる。
でもよかった~ ホントによかった… 生でおっぱい触るまで死んでたまるか!
菫もなんでそんな小さいことを気にする? 別にキスの経験なんてどーでもいいだろ。
椿ちゃんがするのもお前がするのも本人の勝手だろ?
したいようにさせてあげればいいじゃねーか…
お前もそんなにキスの経験したいんならさっさと彼氏つくってそいつとすりゃいいだろ?
菫だったら彼氏選びたい放題だし、やりたい放題やっても誰も文句言わねーよ。
とりあえず菫の機嫌がなおった今のうちに佑助のためにも菫を説得しないと…
「椿ちゃんも佑助も真剣に付き合ってるんだったらキスしてもいいんじゃない? ちょっと早いかもだけど」
「う、うん… そうかもしれないね…」
佑助、兄ちゃんは命がけで椿ちゃんとキスできるようにしてやったぞ、有難く思え。
死の恐怖から脱出し、生きている喜びを噛みしめて実感している時に菫はいきなり言ってきた。
「そ、そう言う泰助はどーなのよ? キスの経験はあるの?」
へ?… 何故おれに聞く? 俺は関係ねーだろ。
だが俺はお前とは違う! 俺はそんなちっちぇえプライドなんて持ち合わせてない。
「キスなんてしたことないに決まってるだろ。そもそも俺、彼女と2週間も続いたことねーし」
俺はいたって正直者だ。
それに比べて菫はしょーもない嘘なんぞつきおって。
勝ったな、この勝負。家に帰ったら勝利のエロ本を味わおう。
「泰助は佑助君に先を越されてもいいの?」
「別にいいよ、そんなんで佑助の邪魔は出来ないだろ?」
ぜんっぜん気にしませんが何か?
「…そうなんだ。泰助も経験してみれば?」
「残念だが相手がいねーよ」
誰と? 彼女いねーのにどうやってすんの?
「わ、私は経験者だから… 泰助の相手になってあげてもいいよ」
………今なんて言った? 俺を殺す気満々だった奴が何言ってんの?
殺人未遂の犯人に「キスしようか?」と言われて喜んでキスを受け入れる被害者がどこにいる?
せっかく死地から生還できたのにもう一度戦場に戻る馬鹿はいねーよ。
「お気遣いなく。今度出来る彼女のために取っておくよ」
「そう… やっぱそうだよね… あはは… 冗談よ、冗談」
冗談と言っていやがるが… あれは冗談じゃないな。
あいつはそんなに妹に先を越されるのが嫌なのかな…
時々菫が何を考えているのか分からない時がある…
大体お前とキスしたら感動じゃなくて恐怖で体がぶるぶると震えるぞ。
菫とのキスはいらない… キスはいらないが…
おっぱいなら話は別だ。
お前のおっぱいを揉むためなら俺は喜んで戦場へ戻る覚悟もある。
なんせ菫のおっぱいはSランク… あの形と大きさは絶品だろう。
それから何となく気まずい雰囲気を引きずりつつ学校までやってきた。
とにかく今は早く菫から離れたい。
この重い空気をどうにかしなくては…
教室に着くとちょうどおっぱい同好会のメンツが集まって話してたので俺もそこにまじって昨日買ったエロ本の評価などをみんなに伝えていた。
登校途中の重苦しい空気は一気になくなり何処か気分は晴れやかになった。
ふと菫の方を見ると何処かボーッとしていて視点が定まっていない様子…
あいつが何を考えているのか今日は特に分からない。
分からないと言えば菫は以前から時折俺の方を見る。幼馴染だから別にこっちを向くのは変ではないが、見られている感じに何処か違和感を感じる。
俺がでかい声でおっぱい談義をしていてそれを聞いていたクラス中の女子が全員ドン引きしているときでも菫だけは俺を見て可笑しそうに微笑んでいる。
何か菫の態度や表情を見ていると、出来の悪い息子を持った保護者のような感じがする。
当然出来の悪い息子は俺のことだが…
おいつはうちの母ちゃんと仲良くなりすぎて本当に俺のことを息子だと思い込んでるんじゃないだろーな?
菫とは本当に長い付き合いであいつのことは大体わかるが、ときたま意味不明な行動をとる。
冷静に考えてみてもあいつが俺のことを男として好きというのは有り得ない。いくら俺でも菫がそう思っていれば少しは気づく。
俺も菫を恋人にしたいとかは思わない。
俺の彼女は殺人鬼… なんてシャレにもならない。
やっぱ変に感じるのは幼馴染としてお世話になりまくっているからなのだろうか…
確かに俺も菫にはそのことで感謝はしている。何かあったら菫の力にはなってやりたいとは思っている。
それからHR、1時限目、2時限目と授業は進んでいきお昼休みとなった。
今日は俺が家を出る時に母ちゃんが宣言した。
「今日は母さん定休日だからね」
弁当作らなかっただけだろーが…
ということは菫が俺の弁当を持ってきているということになり… 強制的に今日は菫とのランチタイム。
俺の母ちゃん、もしかして本当に俺の親権を菫に譲ったんじゃないだろーな?
「菫、すみれ…」
「う、うん ああ、ごめんなさい」
腹が減ったので授業が終わるとすぐに菫の元に来たのだが… 何故か今日はボーッとしている。
「腹減った、早く食べよう」
「うん、わかった」
そう言って菫は二人分の弁当を手提げ鞄から出したが… 途中でパタと手が止まる。
「そう言えば今日はいい天気だし外で食べない?」
「そとか~… ま、それもいいか」
そんな訳で俺達は弁当を食べることができそうな場所を探しながら外を歩き始めた。
6月中旬を過ぎた今は流石に日なたで食べるのはきつい。
何処かよい日陰の場所を求めて探索する。
適当に歩いていると体育館裏に日陰でちょうどいい場所があったのでそこで食べることとなった。
取り敢えずこれでやっと昼飯にありつける。