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稀代の悪を目指しましょう  作者: 同田貫
こぼれでた悪意
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営業をかけましょう

コモレビは簡素な造りのベッドで横になって微睡んでいた。

日課である木剣での素振りと型の練習を終え、薪の切り出しもひと段落したので、今日は早めに寝てしまおうと考えていた。


食客としてガーフィール家に居候させてもらっている以上、最低限の仕事をこなさないと申し訳ない気持ちになる。

ご厚意にあぐらをかく様な真似はしたくない…。




一瞬部屋の中に風が吹いた様に感じたコモレビは、注意深く辺りを観察すると、暖炉の前に先程はいなかった人の影を感じた。


用心の為、いつも枕元に置いてある長剣を抜き放てる位置まで持ってくる。




こんな時間にこんなとこにいるんだ…。

まともな奴じゃない。


自分を新人メイドだと名乗るムツキなる人物は、確かにメイド服を着用しているが、それ以前に僕の正体がバレたのかもしれない…。


仲間を呼ばれるかもしれない。

周囲を取り囲まれているかもしれない、なにより暗殺者なら容赦しない。


「武器は構えないのか?素手で剣に勝てると思っているのかい?」


「そう思うなら試してみる?貴方の常識このムツキさんが打ち砕いてあげるよ」


服の下に暗器を忍ばせているのか、彼女の余裕さが不気味ではあったが、コモレビは上段から素早く振り下ろし、袈裟斬りにしようとした。


だが、その刀身が彼女の肉を抉る事はなかった。

腕の中に鉄板でも仕込んでいるのか、びくともしなかった。

鍔迫り合いの様な形で拮抗していた。



「…こいつっ!なんて力だっ!」


「ほらほら女の子に力負けなんて情けないですよ。もっと殺す気で来ないと」



二合、三合と散々に長剣を振りかざし、突きに打ち払い、色々と試すも容易にかわされる。


右に左にひらひらと見透かされ、こちらに決定的な隙がうまれてもムツキは反撃らしい事はしなかった。


十合以上斬りかかり、終いには試されてる様な感じがしたので、コモレビはムツキがに敵わないと判断して早々に剣をおさめた。



「…わかった降参だ、降参。ムツキ…さんだったか、用件はなんだい?俺になにか用事があったんだろう?素直に聞くよ」


「……」


だが当の本人は怪訝な顔をしている。

暫くの沈黙の後に、ムツキは言葉を選びながらコモレビに疑問をぶつけてみた。



「これは私の憶測なんだけど…、貴方はなにか怯えた目をしているね。周りをまったく信用していない、いや何処かから逃げだしてきた野犬の様な顔をしているわ…」


室内をウロウロしながら思案するムツキ、顎に手をあてながらに両眼を閉じさらに続ける。



「食客の居候と君はいうけど、ガーフィール家に匿われている様な気もするなぁ。さる高貴な方にもみえるし…、なにより君の名前自体偽名かもしれないね。どう?当たらずも遠からずかな?」



「…あんたには関係ない。帰ってくれ」



途端に顔つきを変え塩対応するコモレビに、彼の耳元まで詰め寄りムツキは提案する。

それは悪魔の囁きに似たなにかだった。



「コモレビ、貴方が復讐を望むなら私と契約しない?これは取引よ…。力が欲しいのでしょう、貴方が憎む誰か達を滅したいなら…ね」


「まるで悪魔の契約だな、対価はなんだい?一応聞いておくよムツキ」



「貴方の死後の魂、それと肉体をそっくりそのまま頂きたいな。どう?かなりサービスしたけど、とても魅力的な内容でしょう?」



「メイド服の悪魔なんているかい?悪魔だっていうならなにか証拠を見せてくれ、そしたら信じてやってもいいさ」



それだけ聞くとムツキは少し彼と距離を取りつつ、机を動かしてスペースをつくる。

芝居がかったポーズをした次の瞬間、ムツキは少女の顔に首から下が筋骨隆々の男性の姿に化けてみせた。


異変はそれだけではなかった。

次に山羊の頭に少女の身体。

その次は老人の顔に美女の肉体に変化した。



最後には黒い人影の様な姿となって、コモレビににじり寄った。



「…これで満足?」


影そのもののから発せられたうなり声に、コモレビはびくりと身体を震わせていた。


「あぁ、…十分だ。そのーなんだ、本物なんか初めて見たから反応に困るな…」



そんな困ったコモレビの姿が嬉しかったのか、ムツキは元の姿に戻ると、ニヤニヤしている。

彼はそんな彼女の年相応の笑顔に照れている。



「ご要望とあれば日替わりで君の前に参上してあげるけど、どうするコモレビ君?」



「今のままで結構さムツキ、あとさっきの話なんだけど少し時間がほしい。いいかな?」



「いいでしょう、けど私は我慢が苦手なの。待つより奪う方がいいと思わせないように努力してね?ではおやすみなさい…、また満月の夜にでも返事を聞かせてほしいわ」




煙のように立ち消えたムツキを、ただ呆然と見送る事しかできなかったコモレビ。

なんだか夢のようだったと、ほっぺをつまむ彼の姿がそこにはあった。

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