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兄弟は異世界に行こうとした

異世界ものを書いてみようと思い、書きました。短く終わるつもりです。

 異世界に行った主人公ならば、だいたいチート、だいたいなんとかなる、そんな話をよく見ていた。

 俺強い、そう、強い。俺だってそのはずだ。事実、強くないわけじゃない。

 しかし、最強ではなかった、チートではなかった。

……神は、俺に試練を与えたのだ。



「兄貴、俺、異世界行きたい」

「はぁ!? 何言ってんだお前、脳みそでも溶けたか、クソガキが」


 高校生にして金髪に染め上げた兄、祐飛ゆうひは、漫画を読みながら、俺の方なんて見ずに罵る。


「行けるわけねぇだろ。んなもん、おとぎ話みたいなもんだぜ?」

「でも、異世界行ったら、だいたいチートなんでしょ?」

「うーん、まぁ、ここ最近それをなんとかしようとはしてんじゃねぇの?」


 漫画を読みながら、祐飛は適当に返事を返した。その頭をガシッと両腕で挟んで、頭蓋骨を握りつぶさんとする勢いで挟み込む。


「あがががっ! 悪い、悪かった、話聞くから! それ何とかして!」


 だいたい、こうすると祐飛は真面目に話を聞く。チャラい格好をする兄より、真面目な格好をする俺のほうが強い。そういうパワーバランス、人は見た目じゃない。


「つーか、てめぇ、俺をここまでするんだから、随分チートだろ」

「そうか?」

「俺は、お前が弟だって学校で知れ渡ってから、怖がられて学校で避けられるようになったわ」

「え、兄貴の不登校ってそれが原因かよ……」

「当たり前だ馬鹿か! 全国模試1位、中学校三年間皆勤賞、通知表5段階オール5、そして今は、陸上で全国1位ときた。こんな恵まれた人生ぬくぬく、イージーゲーム、その上の絶対上手くいくチート性、異世界行く必要なんかねぇんだよ!」

「お前が行く?」

「んな問題じゃねぇわバーカ!」


 しかしな、と言って、兄貴はココアシガレットを口にくわえる。


「そんなまさに順風満帆の高校一年生、遠志翔夏えんじしょうかが、異世界に行きたいって言うんだ。なにか理由があるだろ」

「モテたい」

「ガキかクソめ!」


 その衝撃で、兄貴はココアシガレットを噛み切ってしまった。まだ治療したばっかの歯なんだよ、痛てぇじゃねぇか、と小声でぼそぼそ言いながら、床に落ちたココアシガレットをまた口にくわえる。


「で、そんなモテたい一心の翔夏、異世界に行く算段なんてあんのか?」

「いやぁ、死ねば行けるんじゃねぇの」

「正気の沙汰じゃねぇな、お前」


 クソ真面目に言ったつもりなんだが、兄貴は驚愕し、結局ココアシガレットを普通に食べてしまった。


「あー、仕方ねぇなぁ。お前のためにネット検索かけてやんよ。どうしたら異世界行けるってか」

「兄貴ありがと」

「いや、死なれたら困るからな」


 検索をかけて20秒といったところか、兄貴は「あ、そうか、あの手があったな」と何かに気づき、検索をやめてしまった。


「何見つけたの、兄貴」

「あ、お前、そこに立ってるだろ。その下のカーペットめくってみ」


 ここは兄貴の部屋なので、兄貴の私物など触ったこともないが、薄汚いカーペットを初めて持って、初めてめくった。そこには、なにか白いもので書かれた魔法陣がある。


「兄貴、何これ」

「あぁ、これ? ココアシガレットで書いた魔法陣」

「馬鹿なの、なにやってんの?」


 そもそも、ココアシガレットで床に文字なんかかけるわけ? 馬鹿なの? なにやってんの、この兄貴。


「この前ネットの友人に教えてもらった、神様を召喚する魔法やってみようかと。これで異世界行けるかは別として」

「お前も大概馬鹿だな」

「んだと、俺はてめぇと違って真面目なんだよ!」

「俺だって真面目だよ!?」


 まぁ、やるぞ。そう言って兄貴は、キッチンでオトンの酒をコップ一杯に注いで来た。


「これをお互いに口に含んで、魔法陣に吹きかける」

「兄貴もやるの!?」

「俺だって神様見たいんだよ!」


 小競り合いをしながらも、なんとかお互い、口に酒を含み、魔法陣に吹きかける。だが、お互い初めての酒にむせて、ゲホッと吐き出したほうが正しい。

 しばらくむせ込みながらも、兄貴はなんとか呪文を口にする。


「世界の神よ……ゲッホッ……この盃を交わそう……ウゥ……我らは神を……あかん、気持ち悪ぅ……信じる者なり」


 吐きかけた兄貴に炭酸水をわたす。兄貴はそれを飲み干し、事なきを得た。その時だった。

 突然魔法陣が輝き、人が現れる。しかし、思ったよりもガッシリとした見た目だ。その光に包まれた人から、次第に輝きが消え、俺たちにも見えるようになる。


「えっ」


俺は思わず、声を上げた。


「何よ、アタシの見た目がそんなに悪いかしら?」


 そこに現れたのは、金髪のロングヘアーはいいとして、顔はファンデーションが塗りたくられているが、完全におっさんで、青い濃いアイシャドウに、紫の口紅、隠しきれない剃ったヒゲのあと。

 容姿はがっしりで、露出度高い服はいいが、見えるのは巨乳ではなく、濃い胸毛である。スリットの入った綺麗なドレスを着ているが、残念、見えるのは毛深い足である。


「いや、てめぇ、神様にしても見た目悪すぎんだろ!」

「何よ! 最近の神様界隈は男でもこれが流行りなのよ! アタシはもともとだけど」


 兄貴も言った通り、ひどすぎるだろ、この見た目。もともとだったら、すね毛を剃ってくれ……


「あんたたち、どうせ巷で流行りの、異世界転生したい馬鹿どもでしょ。転生って意味わかってんの?」

「だから俺言っただろ、死ななきゃいけないって」

「あんた随分サイコパスね」


 神様の言うとおりだぜ、翔夏サイコパスだよ、そう言いながら、兄貴はココアシガレットをくわえる。俺も、炭酸水を飲み干した。


「あんたたち……私が見た中でも一番フラットね……骨折れそう」

「いや、てめぇ、ガッシリしてんだから骨折れねぇだろ」

「比喩ってもんがわからんのか! 金髪不良野郎!」


 ここ一番のドスの効いた声で怒鳴られたが、兄貴はビビリもせず、大あくびをした。


「こんなに肝が据わってるのに、なんで弟のせいで不登校なわけ?」

「いや、俺の行ってる高校、不良ばっかでよ、弟のチート能力知れ渡って、俺まで強いってなっちまってな、居心地悪いんで不登校ってわけ」

「なるほど、劣等感を抱いているのね……」

「いや、尊敬の念だわ」

「いい兄貴ね! あんたたち結婚したら!?」


 いやそれはねぇな、と兄貴はまたココアシガレットを、治療したばかりの歯で噛み砕いてしまった。


「じゃ……じゃあ、弟の方! 名前は翔夏よね? あんたはなんで異世界を目指すわけ?」

「モテたい」

「ガキか!」


 この返答に、神様はかなり頭を抱えた。眉間にしわ寄って、悶絶するかのように悩んでいる。


「あんたたちみたいな例、初めて見たわよ……しかも、死んでないくせに異世界転生求むって……はぁ、久しぶりに大変な仕事だわ……」

「んで、できるの、できないの」

「サラっと聞くな金髪不良!まぁ、できなくはないわよ。こっちの世界で「仮死状態」にすることで可能にするわ。まぁ、最近あんまりにも異世界転生してるやつが多すぎて、体験ツアーに近いけども」

「へぇ、面白そうっすね。何日できるんっすか」

「弟は先をちゃんと見据えてるわね。そうね、体を死に近い状態にしてるわけだから、長時間放ったらかしはもちろん死ぬわ。そうね……しいて2泊3日といったところかしら」

「じゃあ、それで。料金は」


 俺が聞くと、神様は怪訝な顔をしてため息をついた。


「3万8000円……」

「異世界って金で買えるのね」


 兄貴はまたも驚きで、ココアシガレットを噛み砕いた。今度は健全な奥歯で。


「で、あんたらバカ兄弟、行くの、行かないの」

「兄貴、何円持ってる? 俺、財布の中に6万円あるわ」

「え、お前6万しかねぇの?俺、10万だわ。何に使ったのよ」

「参考書」

「賢い」


 俺は自分の部屋から財布を持ってくると、4万円そのままボンと渡した。兄貴も同じく4万円をその上に重ねる。


「4000円返して」

「アタシ両替機でも何でもないのよ! 8万は8万! 4000円は返さないわよ!」


 少し喜んで頬を赤らめる神様。金に弱い。


「職業何がいいのよ、先に決めておけるけど? 魔法使い? 剣士?」

「王道過ぎてつまらんなぁ。翔夏はどうする」

「アーチャー、ガンナーってどうよ。あんまり聞かねぇだろ」

「あー、あと聖職者どうよ。実は暗黒求道者でしたーっとか」

「あんたら楽しそうね……チートコースと、異世界満喫コースあるけど、どっちがいい?」


 俺たちは顔を見合わせ、すぐさま答えた。


「チートコースだろ!」

「兄貴に同じく!」

「そうねぇ……自動的に魔法剣士になるんだけど」

「つまんねぇの」

「黙ってろ金髪不良」

 

 結局、神様はついにココアシガレットをボリボリ食べ始めた。ヤケクソだ。


「そんなに言うなら、俺は魔法剣士で行くぞ。兄貴は?」

「じゃ、俺は弓兵アーチャーで」

「決定ですわ、神様」

「はいはーい、2名様、魔法剣士と弓兵でチートコース、2泊3日ですねー。いってらっしゃーい」


神様は最後は棒読みながらも、最後に俺たちを見つめた目は、怪しく、緑色に光り輝いていた。


「行ってらっしゃい、あんたたちに似合う世界、用意しておいたわ」


突然落下するような感覚。そして、ブラックホールのような何かに吸い込まれて、景色は暗転する。次に色がついた景色は、先ほどとは全く違った世界だ。

様々な髪の毛の色をした人々。目の色、耳の形、肌の色、それは様々で、服は露出度の高いものから、まったくもって見せない黒い布まで様々。そして、武器は案外持ってないものだ。


「な……異世界! 来たぜ、俺のモテ期!」

「うぉ、俺のココアシガレットも1ダースあるわ。生活には困らんな。だが翔夏、2泊3日だろ。ロミオとジュリエットがオチじゃね?」

「え」


こうして、異世界2泊3日は、ここから始まったのだった。

異世界ものの概念をぶち壊したいんだが、無理だな、これ。

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