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‐2‐

私が魔物退治を終えて城へ帰ってきたのは、一週間前。

つまり、魔王が城に来て一週間がたった。

それなのに、魔王は未だに「人間の生活」に慣れる、否、合わせる意志がさらさらないらしい。

魔物達は、基本的に夜行性だ。

夜の闇を好み、日が暮れ闇が来ると活発に行動しだす。無論、魔王も魔物であるから、その例に漏れない。

人間は朝起きて夜寝るのだと、何度言い聞かせても彼は日が昇ると同時にベッドに潜り、夕日が差し込むと同時に起きる「魔物の生活」を崩そうとしなかった。

しかし。ここは人間の世界だ。あの森の、魔物の世界とは違う。

しかもここで彼は「王」ではなく、私に従う「家来」なのだ。それならば、人間に合わせた生活リズムに切り替え、ちゃんと身分相応の働きをしてもらわなければいけない。

ということで、私は魔王に、騎士団の稽古をつけさせることを決めた。

今まで騎士団の訓練は私の仕事だったが、私だって姫としての仕事が色々ある。中々稽古をつける暇がなかったから、魔王を連れて来たのは幸いだった。

彼の戦闘能力は、実際手合わせしたからよく分かる。かなり、強い。今まで手合わせした、誰よりも強かった。剣を交わして、一瞬でも「敗北」の文字が頭をよぎったのは彼が初めてだ。

だから、丁度良いと思った。

魔王が騎士団に稽古をつければ、魔王はここでの仕事がとできて、つまりは私との「約束」をちゃんと守ることになって、しかも騎士団は強くなる。まさに一石二鳥。

思い立ったが吉日。早速私は、睡眠中の魔王を叩き起こして、騎士たちの待つ鍛錬場へ引っ張ってきたのだ。結果、性懲りもなく朝寝した魔王はこの上なく機嫌を損ね、現在に至る。


腕を組んだまま、左側に重心をおいてだらしなく立つ魔王は、時折私に鋭い視線を向けて、わざとらしく大きく舌打ちをする。まるで拗ねた子どもだ。

けれど、ここで魔王のご機嫌取りなんかしているほど、私は暇ではない。

今日も魔物退治の以来が4,5件は入っている。そのほとんどが、急を要するものばかりだ。大事な時間を、こんなところで使ってしまうわけにはいかない。

隣から向けられる射るような視線を無視して、一歩、前へ進み出る。

「急に呼び出して、すみません。しかし、私が今日騎士団を招集したのは、他でもない」

魔王の腕を強く掴み、私の真横へ引っ張る。

「今日からあなた方を訓練する、この魔王を紹介するためです」

騎士達の表情に困惑と不安が一瞬、走る。みっともなく騒がなかったのは、流石王国騎士団と言ったところだ。

そう思った,刹那。視界の端で何かがきらめく。

頭で理解するより先に、体が動いた。

右手が素早く剣を鞘から抜き、守の型に構える。

甲高い金属音。ずん、と腕にしびれるような重い衝撃が響く。

交わされた刃の向こうにあるのは、闇を固めたような漆黒。

「お前・・・。どういうつもりだ」

なおも剣に込める力を緩めず、むしろますます力を込めながら、魔王は低く問うた。

その声に、思わず笑ってしまう。

「そのままの、意味だよ。あなたに、うちの騎士団の訓練をしてもらう。魔王は人間の言語を理解できるって聞いてたけど・・・。デマ?」

魔王の白い肌が、さっと刷毛で刷いたように朱に染まる。そして一旦剣を引き、すぐに振り上げ、勢いよく振り下ろす。

これは普通に受けたら、まずいな。

直感で判断して、後ろへ飛ぶ。

ヒュッ、と風を斬る音がして、目と鼻の先を銀色の刃がかすっていく。

舌打ちが聞こえた。

私は思い切り地を蹴って間合いを詰め、剣の切っ先を、魔王の細い首に、突きつける。

「はい、終わり」

にっこり微笑む。

「・・・うぜぇ」

顔をこれでもかというほどに歪めながら、魔王は剣を鞘にしまった。

それでも、私はまだ剣を離さない。

「何?」

何じゃないでしょ。

心の中でため息を吐く。

全く。魔王を本当に、連れて来てよかったのか。分からなくなってきた。


























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