表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンピールと血の盟約  作者: 蒼龍 葵
第一章 第四部 奏編
65/66

五十四話 愛しき妹へ 二


 選べと言われても、人の命を簡単にはいそうですか。なんて言えるわけがない。

 しかし、無情なことに遥達に与えられる時間は短い。


 獣の咆哮のような声が響いた瞬間、巨大な青薔薇はズルズルと蔦を伸ばし、気絶している奏を取り込もうとしていた。


「奏!」


 遥は無意識に身体を動かし、奏を捉える蔦をグラディウスで切り裂いた。その激痛に再びオオオオという悲しい音だけが響く。


 もはや、佳代は人間の声を発することも出来ないようだった。


「──黒薔薇は〈封印〉、青薔薇は〈増幅〉……彼女の負の感情を増幅させている根元を絶たない限り、あの青薔薇はこの地を埋め尽くす」

「どうすれば……?」

「既に奏君の精神世界は崩壊しかけている。彼は今真っ暗な闇の中を彷徨っているだろう。彼の魂に働きかけて、意識を無理矢理こちら(現実世界)に戻す」

「そんな荒い方法で奏は大丈夫なのかよ……」

「──他に方法はない。そして佳代ちゃん(あの子)は諦めるんだ」


 ウィルが初めて厳しい判断を下した瞬間であった。彼は今、奏を最優先に救う最良な方法を導き出そうとしている。

 それは遥にも十分すぎるほど分かっているのだが、友人の妹を見殺しにするなんてことは出来ない。


「ちくしょう……俺にもっと力があれば……」

「──ハル、闇の感情に飲み込まれるな。お前にはお前だけの力があるのだから」


 そんな親子の会話は長く続かなかった。体制を整えた佳代の蔦が再び2人の間を襲う。

 更に強度を増した蔦は地面にめり込んだ瞬間、土の栄養すら自分の糧とし、茎の色を青へと変えた。

 遥がこの場に居なければ、ウィルは力を解放して佳代を簡単に屠っていただろう。それが出来ないのも、残酷な一面を息子に見せたくないというウィルの弱さでもある。


「くくく……アハハハハ!!」


 聞き覚えのある高笑いにウィルは形の良い眉を顰める。

 薔薇の背後から出現したのは黒のビスチェドレスを身につけたフェリであった。彼女は長い脚を組みながら薔薇の蔦に爪を立てる。


「──さあ、可愛い私の青薔薇よ。あなたの大好きなお兄ちゃんを誑かす邪魔な混血児(ダンピール)を始末なさい」


 佳代の蔦が再び2人を襲う。ウィルはその蔦を華麗に躱しながら両手の 紐を刃へと変えて茎を切り裂いた。すると薔薇の花を支えきれずに花が地面にずしゃりと落ちる。

 花弁の中から青い粘液に塗れた佳代が放出される。──しかしその身体には両手足は無い。


「か、よ──」


その、最悪のタイミングで奏が目を覚ます。彼の視界に入ったものは、傷つき殺意に満ちた冷たい瞳の佳代だった。


「佳代……? ど、うして……」

「奏、見るな」


 遥の制止も聞こえないのか、奏はゆっくりと起き上がると、薔薇の花弁の中に包まれている佳代に近づく。


『にーに……』

「佳代、どうしてこんな姿に……まさか、最近出没しているバケモノのせいか」

『にーに、かよね、あのオジちゃんに──』


 佳代の視線は吸血鬼の姿となっているウィルを睨みつけていた。

 側にフェリもいるはずなのだが、人間に姿を見せない術をかけているので見えていないのだろう。


 この場でバケモノと思われるのは紛れもなくウィルのみ。


「奏、ウィルは……」

「ふざけんなよバケモノ……! 佳代をこんな目に遭わせやがって……! ぶっ殺してやるっ!」


 怒る奏は近くにあった棒を手に取ると、それを両手で握りしめてウィルに殴りかかった。


「──奏、やめ……」

「バケモノ、バケモノめっ……!」

『にーに、チカラヲ』


 佳代の唇が動いたとともに、浮いていたフェリも同時に言葉を紡ぐ。

 奏が持っていた木の棒は一瞬で鋭い銀の刃へと姿を変え、無防備なウィルの腹部を貫いた。


「あ、あ……」

「──私は君の憎しみも怒りも受け入れよう。君の妹がこのような姿になってしまったのは、間違いなく我が同胞の所為なのだから」


 眉尻を下げたウィルは腹部の痛みを堪えながら、奏の手のひらをそっと包み込む。


「ただ、ハルを嫌わないでほしい……。君が嫌うのは私と同胞達だけで十分」

「あ、あんた……は……」


 奏は血塗れの両手を見下ろしてガタガタと身体を震わせていた。怒りに任せたとは言え、同じく赤い血の流れる者を貫いた感覚がまだ手のひらに残っている。

 例えそれが人間でないとしても──。


「くくっ……まさか始祖がこうも簡単に傷ついてくれるとは。さあ、可愛い佳代ちゃん──始祖様(ウィル)を喰らいなさい」


 フェリの命令で再び佳代は赤い瞳を光らせ、花弁の中に身体をばくんとしまう。

 そして茎と分断されたはずの花弁は、青い光と共に結合して再びウィルに襲いかかった。


「──や、やめてくれ、佳代……!」


 顔を歪めて悲痛な声を上げる奏の前に遥が躍り出る。彼は左の瞳を紅に染め、ウィルを襲う蔦を全て払い落とした。

 彼はグラディウスを使うことなく、それを成し遂げた。──左手首の赤い薔薇の紋章が光を放つ。


「ハル……」

「俺は、みんなを守りたい……」


 遥がウィルの腹部に手をあてると、その傷は驚くべき速度で塞がっていった。

 吸血鬼(ヴァンパイア)の傷を急速に癒す混血児(ダンピール)の力。その能力をみたフェリは唇の端を持ち上げる。


「──ふふ、血の覚醒(ブラッディ・ラウズ)。闇に堕ちなさい混血児(ダンピール)

「フェリ……俺は、お前を絶対に許さない──!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ