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傭兵の国盗り物語短編集  作者: ドラキュラ
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老けた狐の恋

 俺は眼の前で口を開いた娘---付き合っていた彼女から言われた言葉が理解できなかった。


 「私、結婚するの。相手は地方の伯爵なの」


 彼女は俺が理解できないと知ったのか二度言った。


 「け、結婚って、まだ君は・・・・・・・」


 「もう16歳だから結婚できるし子供も産めるわ」


 「いや、そうじゃなくて・・・・・・・・」


 「・・・・父に言われたの」


 『何時まで平民風情と付き合っている。お前には相応しい相手が居る』


 ギュッ・・・・・・・・


 俺は拳を握り締めた。


 あの糞爺が・・・・・・


 俺が平民だからって何だよ。


 ・・・・・俺は平民で彼女は貴族。


 彼女の父親は貴族で彼女はその娘だ。


 父親の爵位は五階級の下から二番目に位置する子爵。


 彼女が結婚する相手は伯爵・・・・しかも地方---辺境だから通常の伯爵より上の「辺境伯爵」に位置する。


 明らかに政略結婚だ。


 今すぐにでも俺はその結婚を決めた彼女の親父を殴りたかった。


 俺と彼女は付き合っている。


 平民と貴族だが階級が何だ?


 身分の差が何だ?


 俺と彼女は愛し合っているんだ。


 それなのにどうして別れないといけないんだ!!


 「俺と一緒に逃げよう」


 俺は拳を開いて彼女の手を握ろうとした。


 しかし・・・・・・


 パッン・・・・・・・・


 差し出した手は虚しく空を掴んだ。


 叩かれて方向違いの所を掴んだんだ。


 「・・・・触らないで。私と貴方とでは所詮・・・・住む世界が違うのよ」


 「・・・・本気で言っているのか?」


 嘘だ・・・・嘘だと言ってくれ。


 頼む・・・・


 「本気よ。それに相手は私より4歳年上だから歳の差も無いわ。それにそこで栽培される葡萄酒は高く売れるの」


 貴方が一生かかっても稼げない金額よ、と彼女は言った。


 「俺より、金を選ぶのか・・・・・・・?」


 「言ったでしょ。所詮あなたと私とでは住む世界が違うの」


 だからもう終わりだと彼女は言い、一方的に背を向けて待たせてあった馬車に乗り込んで去ってしまった。


 雨が降り出し俺を容赦なく打つ。


 彼女は屋根付きの馬車に乗れるが俺は乗れない。


 平民で実家は食料雑貨屋だからだ。


 「・・・・・・・」


 俺は何も言えずにその場から立ち去った。


 それから数日後、彼女は嫁いで行ってしまった・・・・・・・・

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 「何で思い出したんだか」


 俺は1人になった事で息を吐いた。


 ランドルフ君に話した知り合いってのは当時若造だった俺が付き合っていた子爵家の娘だ。


 もう大昔の事で思い出すのも馬鹿馬鹿しい。


 今にして思えば俺は食料雑貨屋の息子で向こうは子爵家の箱入り娘。


 どう考えても身分の差があり過ぎる。


 歳を取ると若い頃は馬鹿な真似をしたなと思えるんだよな。


 実年齢に合わない発言かもしれないが、生憎と今の仕事に就くまでは苦労したんだ。


 今でも苦労しているが。


 とは言っても年下の面倒を見るのは年上の役目だ。


 お陰で結婚する時期を逃がしたなと同僚に言われる事はある。


 まぁ、願望はあるんだよ。


 両親が死んで手放した店だが、結婚したら買い返して商売したいんだ。


 一生軍人をすると考えた時もあるがやはり親の職業を継ぎたいんだよ。


 特に俺なんかは一人息子だから余計に考えてしまう。


 話を戻すと中立を保っている可能性があるのはその元恋人であり現伯爵夫人だ。


 噂では結婚して僅か数年で夫と死別し姑と暮らしていたが、その姑もまた死んでしまい使用人達と暮らしていると聞いている。


 その現伯爵夫人が統治している領土に兵は居ない。


 この国は貴族にも兵を持つ権利はある。


 何せ暴動が起きたら、山賊が横暴したら、と考えれば兵を持つ事は必然だろ?


 しかし、どういう訳かあの伯爵は兵を持たない。


 そんな所なら山賊達が行くと思う筈だがどういう訳か行かないんだよな。


 おまけに暴動も統治が良いのか起きていない。


 つまりこの内乱に参加するだけの利益が見つけられないと考えられる。


 だから中立を取ると俺は考えている。


 王都を奪回すればリカルド王子は当然の様に古巣へと逃げ帰る筈だから俺達もまたそれを追い掛けて殺す。


 そうなると補給などを考えないといけない。


 となれば中立の場所で補給するしかないんだよな。


 もし・・・・俺の予想が的中してそこでしか補給できないとなったら・・・・・・・・・・・・


 「会うしかない、よな?」


 いや、俺が会う必要は無いんだが時と場合によっては会わなければならない。


 何て言う?


 『よぉ、久し振りだな』


 なんて言うのか?


 いやそれ以前に向こうは俺の事を覚えているのかさえ疑わしい。


 考えてもみろ。


 もう十年以上も会って居ないんだぞ。


 十年も会わなければ顔も忘れる。


 俺は憶えているが、女は別れた男などその日の内に忘れるというのが経験上で解かっている。


 それが現実的なんだ。


 それなのに俺は未だに彼女の顔を、声を覚えているから情けない。


 彼女と別れてからも他の女性と付き合ったりはしたが、どうしても男女には相性がある。


 テツヤの言葉を借りるなら「銃と一緒」だ。


 銃にも相性があるように女もまた相性がある訳なんだよ。


 で、付き合いはしたが長続きしない。


 相性の問題もあるだろうが、俺の仕事が問題でもあるんだよな・・・・・


 彼女と別れてから俺は直ぐにヴィールング隊長に見込まれて軍に入隊した。


 仕事内容は偵察、情報収集、味方作りと地味で泥臭い内容だが重要な仕事だ。


 しかし、これはそう簡単に身内にさえ言えない内容だし命令があれば直ぐに行きいつ帰れるかも分からない。


 そこが難点なんだよ。


 お陰で何時も別れる言葉は決まってこれだ。


 『仕事と私、どっちが大切なの?』


 何時もこれを言われて平手打ちをされる。


 俺としてはどちらも大切だ。


 しかし、女って生き物は「私と言って」というのがお好みなんだ。


 仕事のせいにするのはどうかと思うが、もし普通の仕事---食料雑貨屋だったらどうだろうか?と思う。


 「はぁ・・・・くだらねぇ」


 こんな事を考える時点で頭がどうかしている証拠だ。


 俺は女神の抱擁を銜えて火を点け煙を吐いた。


 これは本当に女神に抱き締められる錯覚を覚える。


 もし、女神が居るなら直ぐ横に・・・・俺を抱き締めている。


 ああ・・・・俺にも何時か、女神が来てくれるだろうか?


 もう直ぐに三十になるから結婚したい。


 とは言え先ずは目の前の問題---内乱を何とかしないといけないが。


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