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傭兵の国盗り物語短編集  作者: ドラキュラ
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捕虜獲得

 森の中に入り進んで行くが血の臭いが凄く猟犬ではないが鼻がもげそうだと思ってしまった。


 誰の血か判らない程に辺り一面・・・・血の海。


 それだけ激戦が繰り広げられたんだと思わずにはいられない。


 こんな光景を見たのはヴァイガーで初めて行った防衛線の時だと昔を思い出す。


 そんな昔ではないが遥か昔に思えたのは気のせいか?と思いながらこれでは猟犬の鼻が効かないのも頷ける。


 私たちは2人を見た場所に到着したが、そこにも死体がゴロゴロ石のように転がっておりとてもじゃないが遺族に見せれる死体は無い。


 大半が猟犬の牙と爪で殺された悲惨な死体だ。


 その中にはやはり彼等は居ない。


 「・・・・見つけた」


 山犬が地面に片膝を着いて一つの足跡を見て言うので私も真似して彼女が見つめる方角を見た。


 確かに2人分の足跡がある。


 その片方は足を引き摺っているから間違いない。


 「あっちだと何かあるかい?」


 まだここ周辺を完全に熟知している訳ではないから山犬に訊ねた。


 「確か・・・・洞窟があったね。しかもご丁寧に2人くらいは入れる大きさだよ」


 「・・・・そこに居る可能性は高いね」


 私はAKS-74Uのレシーバーを引いて初弾を装填した。


 「これより2人を探す。傷を負っているが油断はするな」


 私の放った言葉に山犬と猟犬は頷いた。


 それから足跡を追い掛けて進む。


 どれくらい進んだかは不明だが猟犬が「そろそろ良い」と言ったので彼を先頭に立たせて臭いを嗅がせ始める。


 彼は四つん這いになり犬のように鼻先を地面へ押し付けて、ゆっくりと臭いを追い掛けた。


 それを私と山犬は追うが誰も言葉を放たない。


 静寂が私達を包み込むが、その静寂がひどく心地よかった。


 ふと猟犬の足が止まった。


 「どうしたんだい?」


 私が尋ねると猟犬は無言で指を前に指した。


 そこには洞窟があり血が雪を赤く染めている・・・・・・


 「あそこに居るのかな・・・・?」


 「臭いはする。それでどうする。我が乗り込んで殺すか?それとも手榴弾を投げ込んで生き埋めにするか?」


 「・・・・中に入って確認しよう」


 「危険だぞ」


 「知っているよ。それでも私が撃ち漏らしたんだ。なら、止めを刺しそれを確認するのも私の役目だ」


 違うかい?と尋けば猟犬は「そうだな」と頷いた。


 「私が先頭に立つ」


 「猟犬を先頭にした方が・・・・・・・・」


 山犬が言ってきたが私は首を横に振った。


 「あの時、私が撃たなかったからこんな状態になったんだ。だから私が先頭に立ち彼等が生きているなら私が止めを刺す」


 そしてそれを見届ける。


 それが私なりのケジメだ。


 「・・・・分かった。だけど、次はあたしだよ」


 山犬は観測手だ。


 本来なら観測手が狙撃手の戦果を確認するのが義務だ。


 だから彼女が言いたい事も私は理解できた。


 「分かった。だけど決して危ない事はしないように」


 「その言葉をそっくり返すよ」


 これには苦笑してしまうが、直ぐに顔を引き締めて中へ入った。


 猟犬は外で取り逃がした場合の事を考えて待機させておく。


 洞窟の中は暗いがライトを点ければ問題ない。


 とは言えやはりライトだけでは完全に全てを照らす事は出来ないがそれでも無いよりはマシだ。


 洞窟の内部は1人が通れる位の狭さだった。


 おまけにライトを点けても暗いから出会い頭で敵と鉢合わせになる可能性だってある。


 こんな場所こそショットガンを持つヴィン・ルビーの出番だろうと思いつつ左手にライトを持ち右手でAKS-74Uを持ち進んで行く。


 進んで行くと声が聞こえてきた。


 『寒いぜ・・・・相棒』


 『心配するな。必ず助けは来る。だから耐えろ』


 どちらも男の声で年齢は20代前半の声だが、片方の声は明らかに弱り切っている。


 足をやられた男に違いない。


 私はライトを消す前に山犬へ「敵が居る」と手で言った。


 山犬は頷き音を最小限に抑えるのを確認してから私は歩みを再開したが、その間も会話は続いている。


 『何だか手の感覚が感じなくなってきた・・・・・・・』


 『ちくしょう・・・・あのスキン・ヘッドが。蛇の差し金だと判っているのに何も出来ないなんて・・・・・・・』


 『くそったれ・・・・今度は眼が霞んできやがった』


 『シッカリしろ。待ってろ。もう少し薪を取って来る』


 片方の声は励ましの言葉を言い武器を取る音を残し気配が消えた。


 別の入口があったのか?


 しかし、今すぐ確認するのは危険だ。


 少し時間を置いてから行かなくては・・・・・・・


 私たちは少し待ってから明かりがする場所へ慎重に入った。


 そこには男が1人居た。


 左足の太腿に包帯を巻いているが赤く染まっており直ぐに代わりを必要としている。


 彼が負傷した男だと直ぐに判った。


 彼は私と山犬が入ってきた事に気付かないのか眼を閉じて寝ている。


 今なら・・・・殺せる・・・・少し力を入れたら弾が出て殺せる。


 近距離だから弾は確実に当たり肉を切り裂き内臓をグチャグチャに出来るが、私は銃口を下ろした。


 殺せる・・・・殺せるのだが、どうしてか分からないが引き金が引けなかった。


 狙撃する時は、他の奴の場合は躊躇いなく引けたのに・・・・・・・・


 彼と・・・・初めて狙撃した相手と重なっているのかもしれない。


 今の状況とあの状況は似ている。


 どちらも重傷を負い寒がっており言葉は発していないが、楽になりたいと身体で言っている気がした。


 ・・・・殺せない・・・・この糞が・・・・・・


 私は自分が酷く情けなく思えた。


 2日前までは狙撃が出来たのに・・・・今は出来ない。


 それがとても情けなかった。


 「リンクス、どうしたの?」


 山犬が私の様子がおかしいと判り肩を叩いてきた。


 それに答えようとした時に銃声が外からした。


 コルトXM177E2の銃声だ。


 「行こうっ」


 私はこの男を殺さずに外へ出た・・・・逃げたのだ。


 苦々しい思いを胸に抱きながら外に出ると猟犬が男---20代前半の青年の首を絞めている場面に出くわした。


 「こいつがもう1人だ」


 猟犬は私と山犬を片眼で見て言い更に力を込めた。


 後もう少しで死ぬだろう。


 「お、俺の相棒を助けて、くれっ」


 青年は苦しいながらも私に懇願してきた。


 「悪いが我が主からそなた等は皆殺しにしろと言われているので無理だ」


 猟犬が最後の力を込めようとすると彼はこう言った。


 「お、お前の、上官は、恩を仇で返す気か?!」


 俺の上官はあの男を一度見逃したんだぞ、と更に言い彼はジタバタと暴れた。


 確かに彼の上官---クルセイダー大佐は少佐を故意に逃がしたから助けたという事になる。


 彼はそれを自分達で恩を返してもらおうとしているようだ。


 どうする・・・・・・・・・・・


 皆殺しにしろ、と私たちは言われた・・・・だが、彼の言う事はある意味では的を射ている。


 何より私はあの男を殺せなかった。


 猟犬なら迷わず殺せるだろう。


 この場で猟犬に任せれば万事丸く収まるが、それでは胸に抱いた胸糞悪い気持ちは消える事が無い。


 「・・・・少佐に連絡しよう」


 私は猟犬に無線機を頼むと言った。


 「リンクス。貴様は我が主の命令を無視する気か」


 猟犬は私を憎悪の眼差しで睨み据えた。


 「違うよ。だけど、彼の言い分も尤もだよ」


 「だから何だ。我は主の命令を遂行するだけだ。それに貴様、まだ殺していないだろ」


 洞窟に居る奴を、と言われて私は頷いた。


 「してないよ・・・・出来なかった」


 「だからこの男が言った事を利用して助けようと言うのか?」


 「それもある。だけど、捕虜にすれば情報も手に入る。私たちが知らない情報を持っている筈だよ」


 「喋らなかったらどうする」


 「その時は・・・・私が責任を持って始末を着ける」


 「・・・・良いだろう。主へ連絡しろ」


 猟犬は私を真っ直ぐに見つめたが直ぐに納得し無線機を渡してくれた。


 私はそれに礼を述べて少佐に連絡する。


 『・・・・なるほど』


 少佐の声は何時も以上に錆ついた声に聞こえた。


 感情がまるで込められていないから怒っているのかどうか判らない。


 「・・・・・・・」


 私は無言で少佐の返事を待った。


 『そいつ等を連れて来い。お前の言い分も尤もだ。ただし・・・・万が一の時はお前の手で責任を取れ』


 「勿論です」


 感情を込めずに私は了承した。


 『では連れて来い。以上だ』


 無線を終えた私は猟犬に連れて来いと言った。


 「分かった。運が良いな。小僧」


 猟犬は青年の腹に拳を打ち込んで気絶させた。


 それからまた私を見た。


 「リンクス。我はそなたと山犬の護衛兼通信手だ。だが、その前に我はタカミ・テツヤ様の忠実なる下僕だ。もし、そなたが責任を取れず我が主の害になると判断したらその場で殺す」


 覚えておけ、と言われ私は重々しく頷く。


 「覚えておくよ。私もまだ死にたくはないからね」


 それから洞窟の青年も出して前線基地へと戻った。


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