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傭兵の国盗り物語短編集  作者: ドラキュラ
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老剣客の弟子と帰宅

 「憐れか・・・・そう・・・・憐れという言葉が実に相応しい最期だ」


 ヨーハンはヘスラーの言葉に微苦笑しながら頷いた。


 「しかし・・・・傭兵や剣者などの世界は峻烈だ。店でも話したように儂も人を斬った」


 同じ剣の道を究める者同士だが・・・・・・・・


 「使うのは殆どが真剣だったからな・・・・命懸けで戦った」


 中には名を馳せた者も居たが・・・・・・・・


 「負けた途端に弟子は離れ、家は傾いてしまい一家離散または自死する者が大半だった」


 表裏比興の者もその者達と同じ最期を・・・・五大陸で名を馳せ、その知謀を畏怖されたのに・・・・・・・・


 「最期は惨めな死に様だ。対して大契約者は引き際を心得ていたのかもしれん」


 ルイーナの大会戦で勝利してから数年後に・・・・青衣団を解体し、自身も雲隠れしたとヨーハンは言った。


 「最後に壮大な華を咲かせて消えたとは・・・・格好付けたがり屋にも見えるが比興の者の末路を見て・・・・怖くなったのかもしれねぇな」


 「かもしれんな・・・・とまぁ、このような形で2人の話は終わりだ」


 ヨーハンは暗い表情を一転させてパンッと両手を叩いた。


 「それでヘスラーよ。この地で見た模擬戦と・・・・儂の見せた祓いの大剣・・・・どうしたい?」


 店で学びたいと言ったが・・・・・・・・


 「本当に学びたいのか?立身出世の道具にもなるが、使い方を誤れば破滅へと歩む諸刃の剣にもなる術等を」


 「・・・・あぁ、学びたい」


 ヘスラーはヨーハンの言葉に頷いたが・・・・どういう心境か?


 店では実父のルイを打倒したいからという理由だったのに・・・・・・・・


 『この爺の術を・・・・学んで究めてみたい』


 ルイを打倒する云々抜きで・・・・真剣に究めたいと思ったのだからな。


 「・・・・良い眼だ。最初に会った時とは全く違う・・・・澄んだ眼をしている。よし、良いだろう」


 そなたを本日付で我が弟子とするとヨーハンはヘスラーに対して宣言した。


 「だが、今日は帰れ。ただ宿題として・・・・店で持った、あの大小の剣の拵えを考えろ」


 拵え無くして剣は真価を発揮できないなんて一昔前は言われていたとヨーハンは言い、自身の大刀を改めてヘスラーに見せた。


 「柄に巻く紐から鞘に至るまで儂の経験と知恵を振り絞って考案した。そなたも我が弟子なら・・・・自ら拵えを考案してみろ」


 それが出来次第・・・・我が術を教えるとヨーハンは言いヘスラーは頷いた。


 「儂はあの店には数日ごとに顔を出す故に・・・・質問は許さんが・・・・見て学ぶ事は許す。また他者の拵を見て勉強する事も許す」


 それだけ言うとヨーハンは言うとヘスラーに代金を払うよう命じた。


 対してへスラーは渡り武器屋に言い値より高値のサージを支払い店で持った大小の剣を買った。


 そこには研ぎ代と、今後も良い物があれば見せろという暗示が込められていた。


 「毎度あり。俺の方は月1から月2の確率で店に寄る。その時はまた買ってくれ」


 あんたみたいな客になら遠慮なく見せられると渡り武器屋は言い、ヘスラーの暗黙の頼みを快く引き受けた。


 そして彼の馬車にヘスラーはチンチクリン、老主人、ヨーハンを乗せてフルスの地から去った。

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 へスラーが邸宅に戻ったのは夜になってからだった。


 正門を潜り中庭を歩いていると邸宅に住む私兵団と出会った。


 彼等は邸宅の中ではなく中庭に設けられた建物で寝起きしており、今の時間なら中に居る筈なのに外に居た事をヘスラーは不思議に思った。


 だが直ぐに理由が判った。


 「おや、坊ちゃん。こんな遅くまで何してたんだ?」


 私兵団の隊長は酒で赤くなった顔をへスラーに向けるが眼は白木の鞘に納まった大小の剣を見ている。


 「相変わらず眼は武器に行くんだな?」 


 「戦争屋の性分ってヤツさ」


 私兵団の隊長はへスラーの揶揄を何でもない口調で答えたがこれは何時もと変わらない。


 目の前の男は聞く限りではルイも一目置く実力者であり、へスラーも2~3回だが戦って実力は認めている。


 他の私兵も同じで、へスラーの持つ白木の鞘に納まった大小の剣を興味深そうに見ている。


 「しかし珍しいな?剣を買いに行くなんて」


 俺の助言を聞いて数振り位は持っていただろと私兵団の隊長は言ったが直ぐ察しがついたのだろう。


 「あれか?高名な剣士と戦って壊されたのか?」


 私兵団の隊長はルイという名前の意味で糞野郎を称するのでへスラーは頷いた。


 「あぁ。いきなり奴が来て、2本纏めて壊されたんで買いに行っていたんだよ。それより珍しいじゃねぇか?」


 あんたが微酔いになる程の酒を飲むなんてとへスラーが言うと私兵団の隊長は笑いながら答えた。


 「フルスっていう地で甘ったれの餓鬼の集団と聖騎士団が模擬戦して圧勝したと聞いたんでな」


 「あの餓鬼の集団を俺達に代わって倒した聖騎士団に祝杯を挙げたのさ」


 「聞いた話じゃ圧勝だったらしいし、俺達の同類も一役買ったらしいからな」


 俺達の間でも甘ったれの餓鬼の集団は悪名を馳せていると私兵団の連中は言った。


 それを聞いてへスラーは如何にも奴等らしいと思いながら相槌を打った。


 「あぁ、そうだな。あいつ等の様子を見れば如何にも甘ったれな餓鬼の集団か解るぜ」


 それとは対照的に・・・・・・・・


 「ハインリッヒって野郎は大したもんだ。戦術とかは無知な俺から見ても・・・・素晴らしい戦いだったぜ」


 へスラーはフルスの地で見た一部始終を思い出し言ったが私兵団の隊長は直ぐ判ったのだろう。


 「・・・・見たのか?」


 「あぁ、見た」


 何でもない態度でへスラーは頷いたが私兵団の連中は興味津々な顔を浮かべている。


 「知りたいなら教えるぜ?ただ、あんた等の得物を見せてくれたら・・・・な」


 その言葉に私兵団の隊長は何か心当たりがあるのか二つ返事で承諾した。


 「なら付いて来てくれ」


 私兵団の隊長と、その部下にへスラーは付いて行ったが会話は続いた。


 「で、高名な剣士に武器を壊されたと言ったが手入れはしていたのか?」


 「いいや。お陰で真っ二つにされた」


 「それは坊ちゃんの怠け癖が原因だな。言ったろ?武器は女みたいなもんだ」


 手入れをやらないのに斬れろなんてのは最低の行為だと私兵団の隊長は雇い主の子供であるヘスラーを手厳しく評価した。


 しかし言っている事はこれまで間違っていないのでヘスラーは素直に頷いた。


 「あぁ・・・・身を持って思い知らされた」


 「生きている内に学べて良かったな?それはそうと白木の鞘に納められたまま持って来るなんて珍しいな?」


 何時もは付属している鞘に入れて来るのにと私兵団の隊長は指摘した。


 「渡り武器屋と、オンボロ武器屋の糞爺から助言されたんだよ」


 『刀身にも”寝間着”を着せろ』


 「寝間着ってのは良い例えだな。しかし、それは正解だ」


 白木の鞘は熱に敏感だが、それによって鞘に納まった状態で発生する湿気を吸収する性質を持っている。


 「つまり刀身が錆びないようにする為って訳か?」


 「その通りだ。そして・・・・そういう風に助言する辺り”良い商売人”に出会えたな」


 「まぁ・・・・口こそ爺の方は最悪だが店に在る武器は・・・・良かった」


 「なら良いじゃねぇか。口や態度で客相手に商売する奴等より武器で商売する奴等の方が信用できるぜ?」


 「そうそう。高名な剣士は別として大抵の中央貴族は”飴細工師”の”飴細工”に夢中だからな」


 私兵団の一人が中央貴族の刀剣の鑑定眼が如何に酷いか皮肉気に語ったが、それにヘスラーは頷いた。


 「あぁ、そうだな。メドゥなんかも良い例だ」


 「ああ、あの御熱を上げていた侯爵の令嬢も飴細工を差していたのか?」


 私兵団の隊長はヘスラーが思いを寄せていた然る令嬢の事を思い出し、それをヘスラーに尋ねた。


 「あぁ、差していた。まぁ振られたけどな」


 「振られたのか?なら御両親はさぞかし残念がっているだろうな。未来の公爵夫人が流れたんだからな」


 「だろうな?まぁ・・・・今は、こっちの方を如何にするか俺は夢中だ」


 そう言ってヘスラーは白木の鞘に納まった大小の剣を見ながら私兵団の住む2階建ての小屋の入り口を潜った。


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