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傭兵の国盗り物語短編集  作者: ドラキュラ
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表裏比興の者

 「どいつもこいつも神様に拝むように大契約者と言うが・・・・具体的にはどういう奴だったんだ?」


 そこまでは聞いていないとヘスラーが言うとヨーハンはこう返した。


 「それを教える前に質問だ。どうして契約者という称号を与えられたシェフ達は今まで行っていた略奪を止めると思う?」


 「・・・・・・・・」


 ヘスラーはヨーハンの質問に無言となったが頭では目の回る勢いで答えを見つけ出すのに躍起だった。


 ただ・・・・ある程度の答えは既に出来ていた。


 『あいつ等の話だと大契約者は神みたいな存在らしいからな・・・・そこを考えれば契約者という称号を与えられるって事は即ち・・・・・・・・』


 「大契約者の近い存在になれる・・・・って意味だからか?説明不足だろうが・・・・そんな風に俺は思う」


 「本当に説明が不足過ぎだ。それこそ肝心な部分がゴッソリ無いではないか」


 女を口説く時も大事な部分が無いなら振られるぞとヨーハンは呆れた様子でヘスラーに言うが・・・・・・・・


 「・・・・振られたばっかりだ」


 「そうか・・・・それは悪かったな」


 ヘスラーの言葉にヨーハンは謝罪を口にしたが、口調は平淡だった。

 

 ただバツの悪い表情を浮かべた辺り「間が悪かった」という自覚はあるようだ。


 「別に良い。俺の片思いだったからな。で、話の続きは?」


 「うむ・・・・お前の言った通り契約者という称号は大契約者の下にあるが、その称号を得られるのは限られた者のみだ」


 しかも昔ながらの風習等を守るような「古い頭」を持った者でないと無理だとさえヨーハンは言った。


 「まぁ今の時代だ・・・・誇りなんかより目の前の大金に眩む輩ばかりだからな」


 武器屋の老主人が情けないとばかりに嘆息しヨーハンも相槌を打った。


 「時代の流れだから致し方あるまい」


 「そうだな。とはいえ・・・・儂等の時代とは余りに違い過ぎて生き辛いな」


 「なぁに、その内2人揃って御迎えが来る。それまでは人生を楽しむものだ」


 「確かにな。この糞餓鬼を肴にして楽しむか」


 「誰が糞爺の肴になるかよ。で、話が逸れたぞ。戻せよ」


 ヘスラーは2人の老人に軽く怒りながらも話題を戻した。


 「そうだな。では話を戻すと・・・・あのフリーカンパニーの中には契約者の称号を持つシェフが2人居たという事は判ったか?」


 2度目となるヨーハンの問い掛けにヘスラーはハインリッヒを見守るように立っていたシェフ達の姿を思い出し・・・・2人を絞り出した。


 「・・・・あの白い髭が生えた爺2人か?」


 「理由は何だ?」


 「北の地で会った・・・・髑髏の”老騎士”に重なったからだ」


 ヘスラーの脳裏には北の地で自分の仲間を一刀の下に斬殺した、あのフォーの称号を持つ老辺境伯爵の姿が映った。


 恐らく70~80の年齢だろうに・・・・まるで衰えが無く、それでいて自分達より遥かに俊敏な動きと苛烈な攻撃を繰り出してきたのは今も憶えている。


 それを思い出し・・・・あの2人の老兵が恐らくは契約者と予想したとヘスラーはヨーハンに言った。


 「正解だ。あの2人の老将の名はルドルフ・デュ・ファン・スフォルツァと、レオポルド・ヴァン・ディアスと言う」


 大契約者の愛弟子とされ「白衣団」と「薄青衣団」の団長とヨーハンは説明した。


 「着ているサーコートの色から団名にしたのか?」


 「その通り。だが、最初にサーコートの色から団名にしたのは大契約者だと聞いている」


 大契約者の率いた傭兵団---通称「青衣団」は当世から現世に掛けても極めて異例だったとヨーハンは言った。


 「大抵はシェフを筆頭にしているが大契約者の団は副官として2名の騎士と従卒を置き、それを最小単位とした」


 そして独自の諜報部隊も置いていたと老剣客は語りへスラーは興味深く聞いた。


 何せ傭兵団が独自の諜報部隊を持つなど聞いた事が無いからだ。


 「諜報部隊も置いていた青衣団は当世からも評されていたように実に統率が取れていて、傭兵団には付き物の略奪の類を一切しなかった点も評価されている」


 物質を得るのは金品か物品による交換で、略奪をするにしてもやるのは敵のみで民草は御法度。


 「賭け事も金額を設け、武器の手入れを終わらせてから・・・・酒も微酔い程度で仕事外と徹底していた」


 「随分と厳しいな・・・・いや、それ位の厳しさが無いと寄せ集めの集団は統率できねぇか」


 「しかし、勇敢に戦った者や傷付いた者には特別手当を出すなどしたから飴と鞭を使い分けていたと言えるな」


 「なるほど・・・・そんだけの団を築いたんだから神様みたいに崇められるな」


 「しかも、あの時代は誰もが矜持を何かしら持っていた。また煌びやかな星の如く数多のシェフが居た」


 今も名のあるシェフは居るが一昔前を生きた者達には見劣りするとヨーハンは語った。


 「その中でも一際輝いているのが偉大なる大契約者だ。ただ、大契約者と対を成す形で名を馳せた者も居る」


 「誰だ?というか居たのかよ。誰も言わなかったが」


 「最期が最期だけに・・・・ある日を境に消えた大契約者に比べると見劣りするのじゃよ」


 また大契約者は定住する土地を持たず「自由人」としても五大陸で名を馳せたが・・・・・・・・


 「片方は小さいとはいえ自領を持っていたからな。そして・・・・やはり最期が最期だ」


 あんなミスをしたせいで・・・・・・・・


 「晩年は“表裏比興の者”と言われた面影は無かったと評される死に方をしたのだからな」


 老主人の言葉にヨーハンはしみじみした表情で頷いた。


 「おい、俺等みたいな若い世代にも解るように説明してくれ」


 2人の会話について行けないへスラーはチンチクリンと渡り武器屋を代表し苦言を呈した。

 

 「表裏比興の者が大契約者のライバルと解らんか?」


 「俺は理解したがチンチクリンはついて行けてないんだぞ?」


 「はははははは!!これは失礼したな。表裏比興の者は大契約者のライバルだ」


 どちらも智将・謀将タイプだが・・・・・・・・


 「片や自由人で、片や所領を持つ身が運命の別れ目か?」


 「それもある。だが儂の持論だが・・・・大契約者の知恵が一枚上手だったのだ」


 「なら・・・・その内容を教えてくれ。俺は自分で言うのも何だが力攻めをするタイプなんだ」


 だから、その2人の「知恵比べ」を学びたいとへスラーは自分でも驚く台詞を発した。


 「そなたは見る限り猛将の類だからな。とはいえ・・・・何事も勉強だからな」


 話してやるとヨーハンは言い、その表裏比興の者の事を話した。

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 へスラーはヨーハンの説明した表裏比興の者を聞いたが、その途中で自分が仮に戦ったらという事も想像した。


 しかし・・・・結果は惨敗の連続だったがヨーハンの話は聞き続けた。


 そして最後まで語り終えたヨーハンはヘスラーに問い掛けた。


 「儂の説明中に自分が戦ったらと想像したようだが結果は敗北か?」


 「あぁ、惨敗だ。まったく大した野郎だな?そして狡賢い奴って意味は正しいぜ」


 主君を次々に変えながら勢力を拡大する様は、まさに裏表を巧みに使い分けている証だとヘスラーは評した。


 「だが、小さい存在が生き残るには致し方ないだろうな?その点を考えれば大契約者は・・・・本当に自由人だな」


 表裏比興の者の戦歴は主に「防衛戦」か、若しくは間者を使った謀略・調略・暗殺が主で、しかも背後には必ず大きな存在が居た。


 この点、大契約者は・・・・・・・・


 「何人にも捕らわれず・・・・全て自分の力で片付けたんだから凄いぜ」


 「確かに表裏比興の者と比べればな。しかし・・・・自由だからこそ頼れるのは己の力のみだ。小さくても所領を持った方が良い面もある」


 一概には言えないとヨーハンは言い、それにへスラーも頷いた。


 「ただ比興の者の最期を考えれば・・・・そなたの言ったように最初から自由人であった方が良かったかもしれん」


 ヨーハンは表裏比興の者が辿った最期をへスラーに語った。


 「大契約者と表裏比興の者が雌雄を決したのは南北大陸の地だったと言われている」


 その戦でぶつかり合った兵力は総勢で約30万人で、場所は南東山なる麓だったらしいとヨーハンは語る。


 「一傭兵団同士で戦った戦力としては五大陸史上最大規模とされている。そして今も叡智の泉などのに行けば史書に載っている」


 それだけの大きな戦だったとヘスラーはヨーハンの言葉で再認識したが・・・・・・・・


 「本当に30万の軍が正面からぶつかり合ったのか?どっちも智将・謀将で知られているなら・・・・少しでも自軍に有利となる手を事前に打っている筈だ」


 「その通りだ。表裏比興の者が先に南北大陸に上陸し足場を固めた。それに対して大契約者は遅れてしまった」


 その間に表裏比興の者は南東山近くに住んでいた地方貴族や豪族達を味方したらしい。


 「これに備えて25万5000の兵力を別方角に大契約者は割いた」


 つまり大契約者の兵力は南東山の麓---通称「ルイーナ(遺跡)」においては5万5000人だったらしい。


 「対して表裏比興の者は10万9000の兵力を率いて先に陣を構えた」

 

 この時点で大契約者は地形的にも兵力的にも負けていたが濃霧が周囲を包んでいた事が幸いしたらしい。


 「それによって大契約者は先手を打ち表裏比興の者の出鼻を挫けた」


 しかも比興の者の軍に参戦した者達を事前に調略していたので内応した者達は攻撃に参加しないなど足並みは乱れていたらしい。


 「もっとも表裏比興の者も大契約者の軍に調略を仕掛けていた。しかし・・・・調略をする為に送った手紙も金銀宝石も大契約者に劣っていた」


 それによって大契約者の方から内応した者は居なかったらしい。


 「戦闘は数の差で比興の者が押し続けていたが・・・・大契約者の方は粘り続けた。それを見て内応していた者達が機を見て比興の者に攻撃を始めた」


 これが決定打となり戦いは僅か半日で終わり大契約者の勝利になったとヨーハンはヘスラーに説明した。


 「なるほど・・・・それで比興の者はどうしたんだ?」


 「ルイーナの地から逃亡し、直ぐに自分の所領に戻り再起を図ろうとした。だが・・・・・・・・」


 比興の者が負けたという情報は瞬く間に広まり、それによって今まで煮え湯を飲まされた者達が一斉に攻撃を始めたらしい。


 「それを所領に戻った比興の者は迎え撃ったが・・・・”衆寡敵せず”だった」


 所領に籠り戦い続けた比興の者だがついに所領を失い、以後は流人生活を余儀なくされたとヨーハンは語るが・・・・その表情は暗い。


 「最初から自由人であった方が良かった・・・・って言ったのは、そういう事か」


 へスラーはヨーハンの言葉に納得したように相槌を打った。


 「儂も修行の旅には3回ほど出たが、やはり自分の土地が恋しくなったから土地を追われた比興の者の気持ちは・・・・解る」


 土地を追われた比興の者は10年以上も流人生活を強いられたが、それでも大契約者と戦った経歴以外にも数々の戦で勇名を馳せた。


 ただルイーナの戦いで負けた情報も同時に広まっていた。


 「おまけに主人を次々に変えた経歴と、その智謀を皆は恐れたのだ」


 だから一時的に雇われることはあっても永住は許されず隙あらば殺され掛けたらしい。


 これは何度も経験しているが所領を失った影が比興の者を蝕み、ついには借金を重ねるなど生活は窮し病にも苦しめられたとされる。


 「そして最期は縁の無い土地で息を引き取ったと言われているが・・・・かつての面影は無かったらしい」


 見届け人も居らず墓すら無いというから・・・・・・・・


 「憐れだな・・・・・・・・」


この表裏比興の者は言わずとしれた「真田昌幸」の渾名です。


戦国時代の人間らしい狡知に長けた戦い振りは流石というもので、真田丸でも大好きでしたのでモデルにさせて頂きました。

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