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傭兵の国盗り物語短編集  作者: ドラキュラ
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防人の剣術

こんばんは。

今回の短編は本編の第二百八十九章:山猫見参でランドルフが見たヘスラー達の話です。

 フルスなる名を持つ地に中央貴族の貴族派総大将を務めるルイ・ド・ツー・ラザール公爵の一子ヘスラーは居た。


 その隣には知り合ったばかりのオンボロ武器屋の老主人と、その知り合いである老剣客のヨーハン、そして渡り武器屋と、老主人の孫娘であるチンチクリンが居る。


 しかし今のヘスラーには・・・・知り合った人間達と一緒に居る事よりも・・・・つい先程まで行われていた模擬戦で頭が一杯だった。


 「・・・・ハインリッヒという聖騎士・・・・凄いな」


 静かにヘスラーは先ほどの模擬戦において神聖中央騎士団の聖教派に属する装甲擲弾兵大隊を打ち負かした人物を称賛した。


 「確かに、凄かったな」


 ヘスラーの言葉にポステンなる流派の師範であるヨーハンは相槌を打った。


 先程の模擬戦でハインリッヒは金床戦術で敵を打ち倒した。


 ただし、ハインリッヒは高地に自身が率いる別動隊を伏兵として置き、先にスパルタナ連隊に背後を攻撃させた。


 それによって敵の視線が背後に向いた所で側面を叩き、そこへ騎乗突撃を敢行して・・・・勝利を得た。


 「一工夫する辺り大したものだが・・・・その後の件はどうだ?」


 「・・・・タカミ・テツヤと、あの赤い駄馬隊のフェーデか?ふんっ。あんな糞餓鬼なんて参考にもならねぇよ」


 ヘスラーは気分を害したのか唾を吐いてハインリッヒと装甲擲弾兵大隊の模擬戦が終わった後に起こった件を辛辣に評した。


 「あの男---タカミ・テツヤに赤い駄馬隊の長は遊ばれただけだ」


 少なくとも自分は英雄と思われる行為はしてないと自覚しているから奴等の行動には反吐が出るとへスラーはヨーハンに言った。


 「そういう所は自覚ありで良いが・・・・エリーナ王女の御言葉で儂は胸がスゥとしたぞ」


 「・・・・・・・・」


 ヨーハンの言葉にヘスラーは無言となるが、それは自分も同じだったからである。


 ただ、それを素直に認めたくないという幼子のような意地があるのか、ヘスラーは別の話題を口にした。


 「それで・・・・ここの地と、あんたの流派はどういう関係があるんだ?」


 「嗚呼、そうであったな・・・・どれ、歩きながら説明してやろう」


 ヨーハンは馬車から降りると歩き出し、それを追うようにヘスラーも馬車から降りたが・・・・3人も付いて来た。


 だがへスラーは気にせずヨーハンの説明に耳を傾ける。


 「先ず我が流派であるポステンの意味は歩哨だが・・・・本当の意味は“防人”だ」


 「防人?つまり何処かを防衛する為に出来上がった流派なのか」


 「そう聞いている。具体的な事は不明だが・・・・我が流派を学んだ者達は、このフルスなる地に4年間ほど在住し防人の任に当たっていたのは確かだ」


 4年の歳月は短いようで長い。


 そして建国当初と考えれば・・・・現世以上に命懸けの任務とヘスラーは捉えた。


 「それで・・・・この地に配属された奴等は2頭目の獅子王の築いた王都を敵から護ったのか?」


 拡大王フォーエムはヴァエリエから出陣したらしいが、その時代は東以外は敵だらけだったらしい。


 ここをへスラーは書物で知っていたのでヨーハンの言った防人の負った任務を推測した。


 「正解だ。しかし人間だけではなく魔物からも古の防人達はフルスを護ったらしい・・・・・・・・」


 ヨーハンの言葉にヘスラーと、渡り武器屋、そしてチンチクリンは目を見張った。


 何せ生身の人間が魔物と戦って勝てる見込みは限りなく0に近い。


 如何に小さくて弱い魔物でも人間を圧倒する潜在能力を持っているからだが・・・・・・・・


 「この地に巣食っていたのは蜘蛛の魔物だと言われている」


 口から吐かれた糸は如何なる名剣・名刀の類でも斬れなかったらしい。


 魔術を駆使しようにも魔術師はフォーエム王に従っていたのでヴァエリエには居なかったとされているから手の打ちようが無かったと思われたが・・・・・・・・


 「・・・・ある日、雷と剣の神が現れ防人達に妙業を教えたらしい」


 そして防人達を助ける為に鳥人が稽古を行い・・・・それが後に防人の剣となったとヨーハンは説明した。


 「色を付けたように聞こえるが・・・・歴史は長いんだな」


 へスラーはヨーハンの説明が余りにも御伽話すぎると評しつつも・・・・長い歴史は認めた。


 「あぁ・・・・今もポステンを学んだ弟子は王国の至る所で腕を磨き、そして防人として生きている」


 ヨーハンは感慨深い台詞を吐いた瞬間・・・・抜刀した。

 

 抜刀して何か斬ったようにへスラーは見たが・・・・いや、違う。


 「“祓った”のか?」


 「我が流派を始め剣術は神学に通じるものがある。それこそ先程の説明を聞けば・・・・解る筈だ」


 「人間より強大な魔物を祓う訳か」


 「それだけではない。己の心に宿る・・・・邪心を祓うのだ」


 「あんたに邪心なんてあるのか?」


 へスラーは皮肉を述べたがヨーハンは頷いた。


 「この年齢になっても邪心はある。だからこそ神仏を尊び、そして助けを求めるのだ」


 されど戦う者は貴婦人にも助言などを求めるとヨーハンは告げた。


 「それが・・・・あの糞野郎の言っていた女神ってヤツか?」


 ヨーハンが言いたい事をヘスラーは直ぐに察したが・・・・やはり受け入れられない気持ちと察したのかヨーハンは言った。


 「そなたがルイ公爵を憎悪するのも解る。しかし、その憎しみを・・・・先ずは祓え」


 憎悪などの剣は太刀筋に影響し相手に直ぐ悟られてしまうとヨーハンは語った。


 「そして怒りも一時的に力を与えるが・・・・その副作用で周りが見えん」


 「・・・・だからハインリッヒは味方がやられたのに敢えて動かなかったんだろ?」


 ヘスラーは先ほどの模擬戦で装甲擲弾兵大隊が模擬用ではなく本物を紛れ込ませてハインリッヒ達を攻撃した所を思い出した。


 あんな真似をした時点で模擬戦は中止で厳重に抗議するのが正しいやり方だが、ヘスラーは自分だったら間違いなく乱闘していたと思った。


 ただし冷静に考えれば乱闘をしたら・・・・自分も罰せられる。


 それこそヨーハンの言葉通りだが・・・・ハインリッヒは、怒りを抑えて模擬戦を続け・・・・そして勝った。


 「しかもフリーカンパニーのシェフ達の力を借りずにな」


 「あいつ等、傭兵とは判っていたが・・・・そんな高位の奴等だったのか」


 へスラーは自分が住む邸宅に居る私兵団からフリーカンパニーの事は聞いていたのでヨーハンの言葉に少し驚いた。


 「あの、へスラー様。フリーカンパニーとは?」


 チンチクリンが何故かヨーハンではなくへスラーに質問してきた。


 「んなもんは・・・・フリーカンパニーってのは如何なる国家にも属さない傭兵団の事だ。ただ、食い扶持は稼がないとならねぇから国家か、それに並ぶ位の勢力から打診が無い時は略奪で生計を立てている」


 言ってみれば強盗騎士が大集団で集まった存在とヘスラーはチンチクリンでも解り易い単語を添えて説明した。


 「そうなんですか・・・・・・・・」


 ヘスラーの説明にチンチクリンは余りにも自分の世界と違い過ぎる世界を生きるフリーカンパニーという存在に呆然としつつも相槌を打った。


 「ただ、一昔前から活躍するシェフ達にはシャインス公国の言葉で契約者を意味する称号が与えられるのが習わしらしい」


 その契約者という称号は著名な傭兵団のシェフに与えられるものだが、その称号を与えられると自然とシェフ達は自身の行動を戒めるようになるらしいともヘスラーは語った。


 「どうして、ですか?偏見と思いますが今まで略奪をしてきた集団が・・・・・・・・」


 「紙切れに等しい称号を与えられただけで変わる訳ないってだろ?俺も同じく思うが・・・・そうじゃないらしい」


 これは傭兵という戦争の犬達にしか解らない事だとヘスラーは言い、チンチクリンも自分の中で納得させるように質問を止めた。


 「ほぉ・・・・儂に振る口調だったのに自分で説明するとは面白いな」


 「糞野郎が住む屋敷に居る私兵団の奴が言ったんだよ。他人に自分の知識を教える事で自分の知恵になるってな」


 「良い考えだな。では、その契約者の上にも称号が在る事は知っていたか?唯一人しか与えられなかったがな」


 「あれか・・・・偉大なる“大契約者”か」


 へスラーは私兵団が口を揃えて崇めるように口にする称号を発した。


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