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傭兵の国盗り物語短編集  作者: ドラキュラ
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若き黒獅子6

 「女神か・・・・それなら致し方あるまい。寧ろ全殺しにされずマシと思う方が良い」


 「確かにな。男になら・・・・真の漢なら誰にだって自分の思い出と言う宝箱に入れて死ぬまで崇拝し続ける女神が存在する」


 その女神を如何に息子とはいえ否定などしたものなら全殺しにされたっておかしくないと2人は言い、渡り武器屋は「言い得て妙」と相槌を打った。


 「だったら母上はどうなるんだよ?」


 「それはルイ公爵の落ち度だが女神を侮辱する謂われは無い。とはいえ・・・・やってみるか?」


 老剣客の言葉にへスラーは無言で頷いた。


 「歩は1歩ずつしか進めんし、歩の前に別の歩は“2歩”となり負けになる」


 ただ歩は相手の陣に入れば「成金」となり金将になると老剣客はへスラーに説明した。


 「なるほど。歩兵だからって馬鹿には出来ねぇのか」


 「寧ろ歩兵だから馬鹿には出来ん。“歩のない将棋は負け戦”と言われているからな」


 「・・・・・・・・」


 この言葉にへスラーは感じ入るものがあるのか無言で歩を見たが暫くすると老剣客を見た。


 「ではお前が先に打て」


 「・・・・・・・・」


 老剣客に促されへスラーは歩を前に出した。


 逆に老剣客は金将を王将の右斜め上に出し、へスラーが歩を前に出すと別の金将を左斜め上に出した。


 『あれで護りは固められたな・・・・だが、角と飛車は動いていない』


 角は斜めに移動できて飛車は前後に移動できる上に「龍王」になれば互いの能力を持てるのも教えられた。


 そうでなくても左右に布陣されているから下手に攻め込めない。


 それをへスラーは知り軍事に使えるという言葉を漸く真の意味で理解した。


 もっとも駒みたいには実戦はいかないが・・・・・・・・


 「こいつで各兵科を勉強できるな」


 「中々に賢いな。しかし歩兵の重要性はイマイチ掴み切れていないか?」


 老剣客の言葉にへスラーは自分が動かした歩を見て・・・・頷いた。


 「・・・・今の時点で思った事だが・・・・答えてくれねぇか?」


 「何だ?」

 

 「・・・・この歩だが敵陣に入れば成金になるが、それから直ぐには動けないんだろ?」


 「あぁ。実戦で例えるなら一番槍を決めて名乗りもしたが直ぐ死ぬ」


 「・・・・同じ歩兵か、そうでなければ金将か、銀将にか?」


 「そうなるな。まぁ、金将と銀将は護りか、敵が来た際に迎え撃つのが儂の中では使い方だがな」


 「・・・・そうか」


 へスラーは老剣客の言葉に返事はしたが・・・・それから駒を動かす事は出来なかった。


 それはへスラーが自分を大将に置いた際・・・・如何にして相手を包囲し詰みに追い込むか考えられなかったからだ。


 「その様子から察するに徒労を組めたが完全に部下の手綱は握り切れなかったか」


 「元から俺みたいな餓鬼の集まりには大将なんて・・・・居ない。ただ、俺がルイ“公爵”の息子だから奴等は自然と下になったのさ」


 それでも自分が大将になったから何かすると言えば付いて来たし、自分が言えばある程度は従った。


 「北の地に行った時もそうだ」


 「ほぉ、あの血生臭い噂に事欠かぬ“忠臣”の地に行ったのか」


 「忠臣?嗚呼・・・・黒衣の女王と火将の墓の事か」 


 「墓と称する辺り野暮だな」


 「せめて寝室と言わねぇか。貴族の餓鬼なのに品の欠片も無い言い方しやがって」


 老剣客と老主人はへスラーの正しいが味気ない表情に苦言を呈したが渡り武器屋は何とも言い辛い顔だった。


 逆にチンチクリンはへスラーの言葉に正しいと思いつつ老人2人の言葉にも理解を示していた。


 「なら訂正する。2人の王族が今も安らかに眠る寝室があるから北の3雄を忠臣と称したのか?」


 「それに近いな。殆どの者は今も北の地を蛮地と称しているが歴史を調べれば・・・・真の姿を見出せる」


 「真の姿か・・・・ならルイはこれだな」

 

 無口・無愛想で何を考えているか解らないが剣の腕と狡猾な知恵は折り紙付き。


 「なるほど。それで・・・・どう攻める?」


 老剣客はへスラーに将棋の続きを促したがへスラーは首を横に振る。


 「俺の負けだ・・・・何の手も打てないし・・・・あんたが相手じゃ話にならねぇ」


 しかし如何に俺を包囲し詰みに追い込むかは想像できると言いへスラーは駒を動かした。


 それは些か粗削りだが・・・・シッカリ駒を活かした戦法で王将は包囲され詰みになった。


 「確かに、こういう方法もあるが将棋は言った通り軍事にも関連する。そして如何にして相手を負かするかは千差万別だ」


 これが正解という一つの答えはないと老剣客は言い、それにへスラーは納得した。


 「しかし、今の俺じゃあ・・・・無理だ」


 「今は無理だろうが然るべき師の下で兵法・軍学を学べば良いではないか。金はあるだろ?」


 「金の問題じゃない・・・・俺自身が奴に知られたくないんだよ」


 「やれやれ・・・・本当に餓鬼だな。しかし・・・・師なら目の前に居るぞ?」


 老主人はへスラーの片意地を最初に下した評価と同じ評価を下したが・・・・老剣客を顎で指した。


 「おい、儂に此奴を指南しろと言うのか?」


 思わぬ老主人の言葉に老剣客は少し戸惑った声で抗議した。


 「てめぇ、常に言っていたじゃねぇか?」


 『左近は見栄えばかりに気を配る輩で真に剣や兵法・軍学を修得しようとする者が減った。これでは死んでも死に切れん!!』


 「そこを考えれば目の前の餓鬼は理由こそ私的そのものだが血筋良く、剣を鑑定する目利きも磨けば持てる」


 軍を率いるのも教えれば修得出来る筈だと老主人は言い、老剣客はへスラーをジッと見た。


 しかし思うところがあるのだろう。


 「・・・・儂の下で修業してみるか?」


 「あぁ。あんたの剣術が如何なる技か知りたい。しかし、母上は先ず教えを乞う時に名乗れと教えた」


 そう言ってへスラーは老剣客に頭を下げた。


 「ルイ・ド・ツー・ラザール公爵の一子へスラーだ。あんたの名は?」


 「ヨーハン・デュ・ヴァン・リヒテナウアーだ。流派名は“ポステン”だ」


 「歩哨が流派名とは珍しいが・・・・一頭目の獅子王が伝えたのか?」


 「あぁ。フォン・ベルト陛下が伝えたが春の政変を始め聖教が喧しいから歴代師範の御一人が改名した経緯だ」


 「やれやれ・・・・自分達が気に入らないと何でも攻撃するのは聖教の十八番だな」


 「確かにそうだが・・・・剣術も神学には通じるものがある。ただ、それはおいおい説明するにして・・・・先ずは」


 『おら!退け!退け!退け!神からヴァエリエを開放し守護するよう命じられた装甲擲弾兵連隊が通るぞ!!』


 『敵はフルスの地に居る聖騎士団だ!アンジェリコ少尉の命令だ。急げ!!』


 ドア越しに聞こえてきた怒声にへスラーは眼を細めるが老剣客こと塚原卜伝は別の単語に眼を細める。


 「フルスの地・・・・流れ武器屋、ここに来る際には馬車で来たのか?」


 「あ、あぁ。あんな老馬だが今も走れるが・・・・フルスっていう場所に行くのか?」


 「あそこの地は我が流派と関係しているし、先ほど甘やかされた餓鬼共の怒声から察するに・・・・何かやらかす」


 それこそ・・・・・・・・


 「集団で軽い小競り合いをするだろうから新弟子を勉強させるには良い機会だ」


 この言葉にへスラーは立ち上がったが・・・・チンチクリンも釣られて立ったのを見て・・・・こう言った。


 「てめぇは、まだ俺に王女の事を話していねぇからな。一緒に来い」


 「え?な、何・・・・・・・・」


 「ゴチャゴチャ言うな。チンチクリン」


 「・・・・・・・・はい」


 チンチクリンはへスラーの傲慢な言動に呆れたが・・・・この男が一緒なら良いとも思った。


 そして流れ武器屋が馬車を店前に持って来ると・・・・皆でフルスの地に出発した。


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