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傭兵の国盗り物語短編集  作者: ドラキュラ
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若き黒獅子5

 へスラーは剣を探し続けたが・・・・これという物には出会えなかった。


 手には取るが・・・・それで何か違うと思うのだ。


 『糞っ・・・・何を俺は求めているんだ?!』


 反りがあって両手で使える剣という明確な要求は在るのに・・・・手に取ると違うと自分の勘は告げる。


 その苛立ちが表情にも出始めた時だ。

 

 「あ、あのへスラー様・・・・・・・・」


 「何だ?チンチクリン」


 チンチクリンと命名した娘を見ずへスラーは声だけ返した。


 「少し休まれては?まだ日は昇っていますし、焦っても良い事はありません」


 寧ろ一休みして自分の考えを改めて纏めては?


 「・・・・・・・・」


 この言葉にへスラーはチンチクリンを見るため顔を振り向かせた。


 しかしチンチクリンはビクビクしており、老主人と老剣客は我、関せずとばかりに茶を飲み合っている。


 「ちっ。チンチクリンだろうが女だってのに助けねぇのか?」


 「お前が手を出すのか?」


 「自分でチンチクリンと言ったではないか?」


 2人の言葉にへスラーは無言でチンチクリンを一瞥し・・・・ドカリと腰を下ろした。


 それに合わせてチンチクリンは茶を出したが・・・・妙に良い香りが鼻を擽る。


 「茶葉は何だ?」


 「え?普通に家で栽培した物ですけど」

 

 「・・・・・・・・」


 チンチクリンの言葉にへスラーは無言となったが・・・・それこそ老主人の言葉ではないか?


 「お前、趣味に茶葉栽培なんてあるか?」


 「え?えぇ・・・・はい。亡くなった母が好きだったので」


 その亡母の畑を受け継いでやっていると言われへスラーは何となくだが・・・・納得した。


 そして改めて自分が欲する剣は何かと自問した時である。


 ドアが開き中年の男が木箱を持って入って来た。


 「よぉ、爺さん。今日も閑古鳥が・・・・あり?珍しい。客が居るのか」


 中年の男は老主人と老剣客、そしてチンチクリンの他にへスラーが居た所を見て僅かに驚いた。


 「何だ?今日も地方を歩いて持って来たのか?どれ、見せてみろ」


 老主人は男を呼び寄せて木箱を床に置かせたがへスラーは中身が乱雑に入っている物を見て男の職業を口にした。


 「“流れ武器屋”か」


 この流れ武器屋とは自分の店を持たず地方を歩いては商売する武器屋の事で、ギルドが定めた「遍歴職人」制度と似たようなものである。


 「あぁ、流れ武器屋さ。何だ?剣を探しているのか?」


 「あぁ。俺にも・・・・こいつは?」


 へスラーは何気なく見た一振りの剣を手にしたが形状は自分が欲する剣ではなかった。


 長さは80ちょっとで反りの浅い刀身は片刃だったが刃文は直刃で小乱れだった。


 ただ柄も鞘も無い刀身のみだ。


 しかしへスラーはジッと見続けた。


 それは手に・・・・・・・・馴染み、自分の感覚が告げているからだ。


 「・・・・これは何処で手に入れたんだ?」


 「東の方を旅した時に荒れ果てた祠で見つけたのさ。何だ?気に入ったのか?」


 「・・・・他のも見せてくれ」


 渡り武器屋の言葉に答えずへスラーは木箱から他の剣を取り出した。


 ただ老剣客はへスラーが取った剣を隅々まで見てからこう言った。


 「無銘だが地鉄は練られているし刃文も良いな・・・・恐らくはフォン・ベルト陛下の御子息か、側近が何らかの理由で打たせたな」


 湾刀の類はフォン・ベルト陛下が伝えたと老剣客は言い、それを片耳で聞きながらへスラーは剣を探し続けた。


 そして別の剣を手にしたが、それは短剣だった。


 もっとも通常の短剣より長い代物で、それも鞘はおろか柄すら無い刀身だけだ。


 それでもへスラーは・・・・刀身をジッと見ていた。


 「そいつは野良鍛冶が打った鉈だが古代の時代じゃあ・・・・刀剣だったらしいぜ?」


 「刀剣?サクスみたいなもんか・・・・・・・・」


 へスラーは流れ武器屋の言葉に書物で得た知識で相槌を打ったが・・・・こう言い直した。

 

 「一部の辺境じゃ今も刀剣として使われているな」


 「あぁ。元は“馬上”で使う面もあったらしいがな」


 馬上という言葉にへスラーは頭に引っ掛かるものを覚えた。


 それは斑の騎士団---中央貴族の長男達で構成した悪餓鬼集団で旅した際に出会った者が使用した者の姿だった。


 『あの名も知らねぇ男・・・・どんな使い方をしていた?』


 刀身は鉈みたいに厚いが柄は如何なる形だった?


 『ちっ・・・・思い出せねぇ』


 仲間がやられた所と男が逃げ切った所だけ憶えている自分にへスラーは苛立った。


 かといって目の前の渡り武器屋に問うのも癪に障るし老剣客や主人は論外である。


 そうかといって答えを自分で見つけ出せずにいると・・・・ふと老剣客と老主人が何やらやっている姿に目が行く。


 「“将棋”が気になるか?」


 老主人が正六角形の小さな物を弄りながらへスラーに問い掛けた。


 「将棋って言うのか?それは」


 「あぁ、そうだ。こいつもフォン・ベルト陛下が伝えたとされる遊びだ」


 「しかし・・・・軍事にも使えるぞ」


 今度は老剣客がへスラーに語り掛けるが・・・・そこにもへスラーの興味が引かれる単語があった。


 「軍事?そいつが軍事に使えるってのは・・・・その駒に書かれた文字が関係しているのか?」


 「あぁ。将棋は“歩”、“角”、“飛車”、“金将”、“銀将”、“桂馬”、“香車”という駒を使い攻防を行う」


 勝敗は相手の「王将」を包囲し詰みに追い込めば勝ちでチェスと似ているが・・・・・・・・


 「チェスと違い取った駒を再利用---自分で使えるのが違う点だ」


 「つまり戦いで降伏または打ち破った元敵を自分の兵として使えるって訳か?」


 「そうだ。これは現実の世界でも多々ある。フォン・ベルト陛下の愛妾だったともされる初代イガルゲ侯爵家当主のサルエー様は謀略を駆使しフォン・ベルト陛下の為に敵を篭絡したとされている」


 ここを将棋で例えれば・・・・・・・・


 「何処に出すかも打ち手の采配一つ・・・・って訳か」


 ヘスラーは将棋というゲームに興味を抱き2人の行っている様子を見た。


 「・・・・歩が一歩ずつって事は1マスしか進めねぇのか。角は斜めで、飛車は前後に何マスでも移動可能・・・・金将は斜め以外は1マスで、銀将は斜めか・・・・桂馬と香車は?」


 「凄いですね・・・・盤に展開された駒の動きを見て直ぐに理解できるなんて」


 チンチクリンはヘスラーの洞察力に驚いたが老剣客は「未熟」と称した。


 「桂馬とは即ち馬だ。馬を用いた兵科---騎兵の特色は何か?」


 「歩兵より速く動ける事・・・・なるほど。チェスで言うナイトか」


 「そうだ。では香車だが・・・・これもチェスの駒にある。しかし、武器で例えるなら”長柄”だ」


 「・・・・槍か」


 ヘスラーは少し間を置いて答えたが老剣客は「正解」と答えた。


 「やはりルイ公爵の血筋だな。鋭い洞察力と軍事に関する貪欲な知識を得ようとする様は似ている」


 「・・・・あの糞野郎と会った事でもあるのか?」


 老剣客の口振りから察したヘスラーだが顔に「あの糞野郎を口にするな」と全面に押し出されていた。


 「会った事はないが剣者としての情報網で入っている。まぁ、大勢の弟子が齎す情報だがな」


 「・・・・・・・・じゃあ尋くが・・・・あの糞野郎の実力を、あんたは・・・・どう見る?」


 これを見ろとヘスラーは上着を突如として脱ぎ始めたが、それをチンチクリンは悲鳴を上げて両手で顔を覆うが・・・・その隙間から見ていた。


 「ほぉ・・・・随分と生傷があるな?しかも・・・・その右肩の傷は真新しいが・・・・ルイ公爵にやられたのか?」


 「あぁ・・・・あの糞野郎にやられたのさ。野郎が崇拝している女神を俺が挑発の材料に使ったからな」

 

 ヘスラーは自分の上半身を惜しげもなく見せたが老剣客の言葉に頷いた。


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