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傭兵の国盗り物語短編集  作者: ドラキュラ
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若き黒獅子3

 「ほぉ、お前の家は“掘り出し物”もあるのか?チンチクリン」


 「チンチクリンって言わないで下さい。私にだって親から貰った名前が」


 「助けてやったろ?それに身分を考えろよ」


 貴族と肩を並べて歩くなんて平民なら一生かかっても無理だとヘスラーは言うが・・・・そんな事は無いと心中では思っていた。


 『貴族は血筋とか家柄に煩いが・・・・その正当な血筋を受け継ぐ奴等のどれだけがルイみたいな何処の馬の骨か判らねぇ輩に乗っ取られているんだ?』


 この点と、ルイの認めたくないが高い実力を鑑みてヘスラーはこう結論付けている。


 即ち「純粋な力の前では血筋も家柄も役に立たない。箔付けか、飾り程度がちょうど良い」と言うものだ。


 つまり横を歩くチンチクリンが血の滲む様な努力と、仄暗い謀略などを駆使して何処ぞの名家を乗っ取れば・・・・何ら問題なくヘスラーと肩を並べて歩ける。


 『まぁ・・・・このチンチクリンは考えもしないだろうな』


 初めて会って間もないが少なくとも横のチンチクリンは人を貶めたりするような所作は出来ないとヘスラーは感じていた。


 そうでなければ見ず知らずの自分に助けを求めた挙句・・・・最後まで見届けて、あまつさえ傷の手当てをする訳がない。


 「面白い女だな?お前」


 ヘスラーは無意識にチンチクリンの方を見て呟いたがチンチクリンは「え?」という顔をした。


 「いいや。何でもない。それよりまだか?」


 「もう少しです。ただ、先程の話になりますが家の店に余り期待はしないで下さいね?」


 「あぁ、別に期待なんてしてねぇよ。他の店に客を取られるって事は良い品は無いんだろ?」


 「それもありますけど・・・・家の御爺ちゃんが気難しいんです。だけど目利きは確かですし刀工としての腕もあるんです」


 「へぇ、お前の爺は目利きも出来て刀工も出来るのか?」


 随分と器用な爺とヘスラーは思いつつチンチクリンに問い掛けた。


 「まぁ・・・・でも、ここ最近は全く打っていません。何でも見た目が第一と考える馬鹿共が増え過ぎた。バランティの飴細工師のせいだとか言って」


 「ああ・・・・あの飴細工師に何かされたか?」


 ヘスラーは自分の邸宅にも執拗に自身の作品---飴細工を売りに来て門前払いを受けたバランティ・クラウバズの性格から予想を口にした。


 「・・・・家の少し離れた場所に武器屋を何件も作ったんです」


 「はははははは。如何にも奴らしい嫌がらせだな」


 「やっぱり貴族御抱え鍛冶屋だから知っているんですね・・・・・・・・」


 チンチクリンはヘスラーの言葉から察したように肩を落としたがヘスラーはこう言った。


 「確かに知っているが俺は一度も奴の剣を腰に吊るした事は無いぞ。あの糞野郎---親父もな」


 「え?だ、だってバランティ自身は貴族なら誰もが自分の打った物を・・・・・・・・」


 「確かに欲しがる奴は多い。まぁ、そういう奴等程・・・・糞野郎の言葉なんて使いたくも無いが・・・・目が養われていないんだよ」


 「というと・・・・飴細工を実戦でも使えると思っているんですか?」


 「剣を持った事の無い奴等ならな。まぁ、大抵は私兵を抱えているからな。奴等が持つのは単に装飾目的だ」


 「じゃあ・・・・貴方様や公爵様は?」


 「俺も糞親父も飴細工は自分の家に置きたくもねぇよ。あの糞親父、不愛想で無口で何を考えているのか解らねぇが・・・・剣の腕は確かだ」


 そして武器に関する眼力もあり・・・・総じて駄作を嫌う。


 「飴細工師も俺の屋敷に売り込みにきたが糞親父はこう言ったのが良い証拠だ」


 『私が住む屋敷に甘い物は不要だ。特に剣の形をした飴など最もたる存在だ』


 「それでも奴は引き下がらなかったんで・・・・あの野郎10本ほど纏めて叩き斬りやがった」


 「嘘・・・・10本も纏めて・・・・・・・・」


 チンチクリンはヘスラーが話した内容に驚きを隠せなかったが・・・・ヘスラーの眼は嘘を吐いていないと見たのだろう。


 「本当に・・・・10本も纏めて叩き斬る人が・・・・まだ、達人と言える人が居るんですね」


 「達人かどうかは知らねぇが・・・・少なくとも糞親父の実力は毎日のように惨敗する俺が保障する。親としては最低の分類に入るがな」


 「そうなんですか?」


 「あぁ。あんな男に母上はどうして今も寄り添うように居るのか解らねぇ」


 本心をヘスラーはチンチクリンに言ったがどうして赤の他人であるチンチクリンに言うのか・・・・解らなかった。


 『糞ったれ・・・・何なんだよ』


 自分の心境を理解できずヘスラーは僅かに苛立ちを覚えたがチンチクリンはそんな事など知らない為か・・・・こう言った。


 「これは私のあくまで個人的な考えですが・・・・貴方様の父上に母上は自分が側に居ないといけないと思っているのではないでしょうか?」


 「自分が側に居ないと?」


 「はい。あくまで私の個人的な考えですから真相は分かりませんけど」


 「・・・・・・・・」


 ヘスラーはチンチクリンの言葉に妙な気分だが納得できる気持ちになった。


 ただ、それをチンチクリンに言う義理も無い為か「まだか?」と言い先を急がせた。

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 「ここがお前の家か・・・・確かに、おんぼろだし客足も遠のく上に見逃すな」


 ヘスラーは目の前に建つチンチクリンの自宅兼店を見たままの感想を述べた。


 「まぁ事実ですけど・・・・もう少し言葉を選んで下さいよ・・・・何か、悲しくなります」


 チンチクリンはヘスラーの感想に頭を痛めたようにズーンと沈むが直ぐに気を取り直すと錆び付いたドアの取っ手を掴んで引いた。


 すると鈍い音を鳴らしながらドアは開いたが・・・・迎えの言葉は無く、ただ殺風景で埃まみれの刀剣だけがヘスラーを迎えた。


 「ただいま。御爺ちゃん、居るなら御帰りくらい言ってよ」


 「はー・・・・こいつは酷いもんだな。どんだけ昔の代物なんだよ」


 チンチクリンが先に入り、その後をヘスラーも続いて入るが埃まみれの刀剣を見てまたしても見たままの感想を述べた。


 「だったら帰れ!この糞餓鬼が!!」


 「あ?」


 ヘスラーはカウンターから怒鳴られてジロリと瞳を向けたがチンチクリンの方が先に動いた。


 「御爺ちゃん!御客様に失礼でしょ!!」


 「喧しい!埃を被って古いだけで武器を評価する奴なんざ客だろうと怒鳴って当然だ!!」


 チンチクリンの怒鳴り声に負けじとカウンターに居た老人は怒鳴り返したが・・・・その眼力にヘスラーは思わず眼を細めた。


 「・・・・流石は刀工でもあるな」


 カウンターに立つ老人を見てヘスラーは小さく呟いたが老人はヘスラーを見るなり鼻を鳴らした。

 

 「その恰好・・・・貴族だな?何の用だ?」


 「武器を買いに来たんだよ。とはいえ・・・・目を養う面もあるけどな」


 「ほぉ・・・・目を養うとは偉そうな言葉を使うじゃねぇか。糞餓鬼」


 老人はヘスラーの言葉に眼力がある眼を細めた。


 「糞親父と朝稽古してボロ負けして言われたんだよ。この糞爺」


 「ふんっ。糞爺で結構だ。しかし・・・・親父と朝稽古とは貴族様にしては珍しいじゃねぇか。親父は誰だ?」


 「・・・・ルイだ」


 ヘスラーは言いたくもないが老人の眼力に押される形で糞親父であるルイの名前を教えた。


 しかし老人はルイと聞いて眼を見開かせた。


 「ルイ・・・・ルイ・ド・ツー・ラザール公爵の餓鬼か?」


 「あぁ、そうだ。何だ、あの男を知っているのか?」


 「知っているさ。あの男は中央貴族にしては珍しく指折りの剣士だからな」


 この言葉にヘスラーは老人を凝視した。


 『この糞爺・・・・何者だ?ルイの事を知っているなんて・・・・・・・・』


 「儂が何で親父の事を知っているか気になるようだが答えは判らねぇようだな?へっ・・・・24~25歳くらいなのに人生経験が浅いな?」


 「・・・・大きな世話だ。それより糞親父を何で知っているんだよ?」


 「直ぐに答えを他人に尋くな。答えってのはてめぇで調べてこそ意味があるんだよ。まぁ良い・・・・儂は刀工でもある。だからさ」


 老人はヘスラーの知りたい答えを直ぐに教えたが、それは余りに短い台詞だった。


 「刀工だからって・・・・なるほど。刀工だから剣士の情報が入るのか」


 「そういう事だ。とはいえ・・・・ルイ公爵の餓鬼なのに剣の腕も、剣を見極める眼も足りないようだな?」


 あからさまに実父の足下にも及ばないと言われてヘスラーは目の前の糞爺を絞め殺したい衝動に駆られた。


 しかしチンチクリンは動きを読んだように「ぶ、武器を選んで下さい!!」と言ってきた。


 そして「私は道具を取って来ます」と言い足早に店の奥へと消えた。


 「くくくく・・・・孫娘にまで動きを読まれるとは情けねぇな?」


 「うるせぇっ!それよりチンチクリンの言葉もあるんだ。見せてもらうぞ?」


 「あぁ、良いとも。もっとも・・・・お前に本当に良い剣を選べる眼が果たしてあるかは別だがな」


 老人はヘスラーを試すような言葉を言いつつ・・・・棚に掛けられた刀剣を見た。


 「お前達。この糞餓鬼に触られるのは癪に障るだろうが我慢してくれ」


 「ふんっ。ただの鉄の塊に何を語ってやがるんだか」


 ヘスラーは老人の言葉を鼻で笑いつつ刀剣を見たが老人はこう言い返した。


 「鉄の塊なのは変わらねぇが・・・・1本作るのには計り知れない緻密な計算と年月、そして知識と経験が必要なんだ」


 だから刀工達は常に精進している。


 「そして使う剣士も自分の得物を完全に使いこなせるように努力する。特にルイ公爵は雑種の剣を使うが・・・・あれは使い手を選ぶ剣の一つだ」


 並大抵の努力では物に出来ないと老人は言い、それはヘスラーも解っていたが言葉にはしなかった。


 それでも老人は語り続けた。


 「剣は使い手を選ぶが使い手も剣を選ぶ。雑種の剣はルイ公爵を選んだ」


 そしてルイ公爵も雑種の剣を選んだ。


 「つまり両者合意だ。これが出来て・・・・初めて剣は鉄の塊から鋭利な刃物と化し、剣士は刃物の使い手となるんだよ」


 一昔前はその手の奴等が大勢いた。


 「しかし最近じゃ見た目重視か、使い勝手の良さで選んじまう輩でウンザリだ」


 「見た目重視って言うなら中央貴族なんてそうだぜ。そしてバランティの飴細工師もそれを助長している」


 ここでヘスラーはチンチクリンに言った事と同じ内容を老人に告げ・・・・1振りの剣を手にした。


 その剣は有り触れたショートソードで、別に何かに惹かれた訳ではなく試しに取ったに過ぎない。


 ただ鞘から抜いて見ると・・・・何時も訪れる武器屋に置いてある物より輝いて見えた。


 「・・・・掘り出し物があるとチンチクリンは言っていたが満更でもなさそうだな」


 「ほぉ、そいつを手にするとは・・・・やはり血は流れているんだな?」


 老人はヘスラーの持つショートソードを見て口笛を吹いた。


 「認めたくないけどな。しかし・・・・生憎と俺には合わねぇ」


 ショートソードを鞘に納めたヘスラーは壁に立て掛け直し改めて自分の得物になりそうな剣を探した。


 「・・・・てめぇが如何なる戦いを想定しているのか考えろ」


 「あ?んだって?」


 ヘスラーは老人が呟いた言葉に思わず顔を向けて聞き返した。


 「武器を選ぶヒントだ。如何なる戦いを想定しているのか考えろ」


 「戦いなんて何処で始めるか判らねぇだろ?何を・・・・ふんっ。偉そうに講釈しやがって」


 ヘスラーは老人の言葉に何か察するものがあったのか鼻を鳴らして武器選びを再開したが・・・・大だけでなく短剣の方にも眼をやった。


 それは老人のヒントをヘスラーなりに理解した形だったが理解するのは人によって違う。


 つまり捉え方次第では如何様にも転ぶ訳だが・・・・・・・・


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